<今月のトピックス2005(楽器編)>

・”今月のトピックス(楽器編)”は、楽器に関する注目すべき話題を、思うままに書いてみようというコーナーです。何かみなさんの参考になれば、と思っています。


<目次>

(1月分) <”リミッター効果”の恐怖(その1)>

(2月分) <”リミッター効果”の恐怖(その2)>

(3月分) <ミュージシャンのための電気回路関連の必読書>

(4月分) <ピッキングポイントまで、実際に気を使っているでしょうか?>

(5月分) <ベースに関するページを新設しました!>

(6月分) <”メトロノームの音をウラでとる”という練習のこと>

(7月分) <D.I.に関する記事内容の補足(その1)>

(8月分) <D.I.に関する記事内容の補足(その2)>

(9月分) <やはり、”何でもあり”という指導方法は良くないのだ(その1)>

(10月分) <やはり、”何でもあり”という指導方法は良くないのだ(その2)>

(11月分) <NGSのチューブディストーションは再検討させてください、という話>

(12月分) <NGSのチューブディストーションのトラブル、その後の経過>


(2005年 1月分)

<”リミッター効果”の恐怖(その1)>

 2005年最初のこのページの話題は、”リミッター効果”というものについてです。

1.いわゆる”リミッター”ではない

 ”リミッター”と言えば、この名を持つギター/ベース用のエフェクターの類を真っ先に思い浮かべられるかたも多いでしょう。
 ピッキングやコードカッティング時の強弱のバラツキを平均化してアラをカバーしてくれる働きを持つもの、または、コードカッティングやスラップ奏法でのアタック時の音をより歯切れの良いものにしてくれる働きを持つものが、リミッターというエフェクターなわけで、近年ではコンプレッサーというものと同一パッケージのエフェクターとして扱われていることが多いものです。(⇒基本的には、リミッターとしての働きに、減衰していく信号レベルを持ち上げ、見かけ上のサスティーンを増加させる働きを加えたものがコンプレッサーということになります。)

 しかし、ディストーションやオーバードライブ等の歪み系エフェクター、そしてさらにはアンプで音を歪ませた状態においても、このようなリミッターとしての働きが存在することは、意外に知られていない事実であります。

 とは言っても、このことは、ある程度のエレキギター経験者にとっては、既知のことであるかもしれません。
 そのような意味では、”意外に知られていない”というよりも、”知っているけれども、あまり気にしていない”とか、さらには、”その弊害はわかっているけれども、あえて避けて無視するようにしている”なんて感じのほうが当たっているかも。


2.歪ませることによって、どのような変化が起こるか? を再確認する

 ロック系のギターで一般に使われる、”音を歪ませる”という行為においては、実際には何が起こっているのでしょうか?
 とりあえず、その現象の概要を述べれば、以下のようなことになるでしょう。

(1)音質自体が、原音に比べ高域の倍音をより多く含む、いわゆる”歪んだ”独特の音となり、エレキギターならではの迫力のあるサウンドが生まれる。

(2)原音に比べて音がより延びている、すなわちサスティーンが大きくなっているように聴こえる。

 
 こんな感じになりますが、(1)の現象は当たり前のこととして、次の(2)の事実は、実際に経験しているにもかかわらず、通常はあまり明確に意識していない要素ではないでしょうか?
 しかし、この”見かけ上のサスティーンの向上”という、歪ませることによって生ずる現象の1つは、我々は歪みの重要な要素として、実は無意識に、ものすごく認識しており、これをポイントにして、ディストーション等の歪み系エフェクターの良し悪しの基準としていると言っても良いほどのことかもしれません。

 一般には、歪みの良し悪しの基準は、”音ヤセの少ない太い音であるべき”とか、”ノイズが少ないべき”というようなことになってしまいますが、”サスティーンが大きくなることによって、気持ちの良い感じの音になる”ということも、我々が歪ませた音において(無意識にも)非常に気にしている要素かと思われるわけです。


3.歪ませると、なぜサスティーンが大きくなるのか?

 ギターから出力される電気信号を電気回路にて歪ませるという行為の基本は、”トランジスタや真空管等で構成されたアンプの回路にて、電気信号の大きさを思い切り大きくする動作(⇒増幅動作)をかけ、電気素子の電流/電圧的動作限界や電源の値の限界レベルまで持っていくことにより、もとの波形を崩して音色を変える(⇒高域の倍音をより発生させる)”といったものです
 このようなものは、もともとはオーディオアンプにおける”オーバードライブ”という状態が基本であり、ボリュームを過度に上げること等によって、通常のオーディオアンプ等でも多く発生するものです。そして、これを意図的に発生させているのが、ギター/ベースアンプにおける”歪み”ということになります。

 実際には、歪ませるための回路の方式には様々な種類があるわけですが、いずれにせよ、これを簡単に言えば、”楽器からの電気信号波形のレベルを大きくする(増幅する)過程において、一定の大きさ(レベル)で限界に達してしまい、それ以上大きくならないということを利用して、波形を崩して歪んだ音色に変えている”というようなことになります。
 そして、重要なことは、このような過程ゆえに、”信号のレベルが常に一定値にされてしまうという現象も生ずる”ということです。

 この”レベルが一定に近くなる”ということが何を意味するのかと言えば、最終的にアンプのスピーカーから出てくる音の大きさ(音量)も一定値に近くなるということであり、すなわち、もともとピッキングした後から生ずる、ギターの音の減衰の度合いが見かけ上は小さくなり、あたかもサスティーンが大きくなって(音が延びて)聴こえるということであります。(もちろん、ギターの弦の振動が止まれば、音は出なくなりますが)

 ということで、下図fig-1とfig-2を御参照ください。(ただし、fig-2は極端に歪ませた場合と思ってください。歪ませる度合いによってはfig-1に近づくことになります。)







 また、これについては、よく雑誌の”歪み系エフェクター”の特集記事等に、ダイオードにて波形をクリップする(⇒波形の振幅を制限するダイオードクリップ)MXRの”ディストーション+”をその元祖とする回路が載っていて、歪みの原理が紹介されていたりしますので、おなじみのかたも多いかと思います。

 さらに、年輩の方や、エフェクターに詳しい方ならば御存知かと思いますが、現在では”ファズ”と呼ばれている、”ビッグマフ”等の初期の歪み系エフェクターは、当時はサスティナーと呼ばれており、基本的には、ロングサスティーンを得るためのエフェクターだったようです。
 ただ、そのためには、”音が歪む”ということをガマンせざるを得なかったということなわけですが、その音を逆に利用したのが、結果としてロック系ギターの音の代名詞的なものになってしまった”ディストーションサウンド”であるということです。(ジミ・ヘンドリックス氏らの功績でありますが)
 話が少々脱線しますが、このように、当時はロングサスティーンを得るためには、音を歪ませざるを得なかったということで、その後、歪ませずにロングサスティーンを得られるように開発されたのが”コンプレッサー”であるわけです。


 従いまして、この”ロングサスティーン”ということも、歪ませた音の重要な要素となっているのが実状なわけで、これは確かに重要な要素ですが、これがかえって恐ろしいことを招くことにもなります。

(以下、次回に続く)

(2005年 2月分)

<”リミッター効果”の恐怖(その2)>

(⇒先月からの続き)

 先月は、音を歪ませた場合の”リミッター効果”というものの概要について書きましたが、要は、ロック系ギターの代名詞的な音である”歪ませた音”が気持ちよく聴こえる理由としては、その音質だけでなく、音量が自動的に一定値に近くなるという”リミッターとしての効果”というものが深く関与しているということだったわけです。


4.歪ませた音における”リミッター効果”を確認してみよう

 では、この通常意外と気にしていない”リミッター効果”がどの程度のものかを確認していただきたいかと思います。

 方法としては、非常に簡単なことであり、”歪み系のエフェクター”や”GAINボリューム付きのアンプ”を使って音を歪ませ、ピッキングの力を色々と変えながら、アンプからの音の大きさを確かめてみるということでOKです。
 これにおいては、できれば以下のようなことをやってみると良いでしょう。

(1)アンプからの音はなるべく大きくし、ギターからの直接の生音が出来る限り聴こえないようにする。

(2)ピッキングする力について、非常に弱いものから、思いっきり強いものまでの間を5〜6段階に分けてピッキングして、アンプからの音量を確認してみる。

(3)音を歪ませる手段としては、BOSSのSD−1やアイバニーズのチューブスクリーマー等のオーバードライブ系のもの、BOSSのターボディストーションやDS-1等のディストーション系のもの、BOSSのメタルゾーンのような極端に歪むファズ系のようなもの、そしてマーシャルのJCM2000あたりのチューブアンプでのもの等、歪ませる能力別に3〜4種類のものを用意して比較してみると良い。

(4)それぞれの機器のGAINやDRIVE等の歪みの調整ツマミも、色々な位置にして試してみる。



5.どのような音が聴こえましたか?

 ということで、上記のように、各種機器で音を歪ませ、ピッキング力を色々と加減してみた時、アンプからの音量はどのようでしたでしょうか?
 もちろん、過激に歪むエフェクターほど、”音ヤセ”等の音質的な変化によって、見かけ上の音量は小さく聴こえるということはあるわけですが、問題は、それぞれの種類において、ピッキング力の強弱を変えることによって、アンプからの音量もコントロールできたかどうか?ということです。(⇒歪ませないクリーンな音の場合と比較しても良いということになります。)

 基本的には、オーバードライブ系のエフェクターにおいては、十分に強弱が反映されたかと思いますが、オーバードライブ系よりも歪む種類のものでは、強くピッキングしても弱くピッキングしても、アンプからの音量にはあまり差がないことに気づかれたのではないでしょうか?

 これが、歪ませた場合の”リミッター効果”そのものであるというわけですが、”こんなこと知ってるよ”と言われる人もいらっしゃるかもしれませんし、”ピッキングのアラが目立たない”ということで、初心者のかたは喜ばれているかもしれません。
 しかし、あらためて詳細に音量のコントロールができるかどうかを確認してみると、けっこう愕然としてしまうかたも多いのではないかと思うわけです。


6.そして、チューブアンプでさえも、けっこうあるという事実

 特に、マーシャル等のチューブアンプでも、けっこうピッキング力の強弱は一定化されてしまうことに気づくと、かなりの勢いで驚き、場合によっては落ち込んでしまうことになるかもしれません。(ベテランのかたほど)

 チューブもののアンプや歪み系エフェクターにおいては、”歪ませても和音(コード)の音が比較的きれいに出る”とか、”ノイズが少ない”とかのチューブならではのメリットが目立つため、”ピッキングのコントロールもけっこう忠実にアンプから出してくれるであろう”等というイメージがありがちなのですが、通常の歪み系エフェクターと同様に、歪ませるほど、やはりリミッター効果が働き、アンプからの音量、そして音質も一定化されてしまうわけです。

 私が、このことに気づいた時、慌ててマイケル・シェンカーやゲイリー・ムーア等の標準的なチューブアンプでの歪み音を使っているロック系ギタリストの音を聴いてみたのですが(⇒極度に歪ませた音のギタリストでは、強弱が無くて当たり前と思ったので)、あらためて確認してみると、やはり意外に強弱は出ていなく、一本調子の音量/音質であることに気づき、再度のショックを受けたわけです。

 すなわち、名ギタリストと呼ばれるような人達でも、少なくとも歪んだ音を多用するロック系のギタリストというものは、所詮、クラシックやジャズのギタリスト、そしてクリーンな音を主として使用するエレキベーシストに比べれば遥かに劣るものではないか、なんて思ってしまったわけであります。

 これは、電気回路で歪ませるという行為を行う以上は仕方がないことなわけで、現在ではある程度無理やり自分を納得させてしまいましたが、やはり時々悩んでしまうことではあります。 みなさんはどう思われますか?


7.アンプモデリング機器等では、もうメチャクチャ

 前回書いたように、ダイオードで波形を一定レベルに強制的に押さえ込んでしまうディストーション系エフェクター等においては仕方がないとして、本来チューブアンプの音を忠実に再現しているはずのアンプモデリング機器においても、このようなリミッター効果が、ある意味エフェクター以上に存在しているという事実には困ったものであります。

 POD等のモデリング専用機器や、BOSSのGTシリーズ等のモデリング部において、ハイゲインのアンプに設定し、ちょいと速弾きもどきを行えば、それなりにウマく聴こえてしまって、あっという間に気持ちよくなってしまうわけですが、それで”オレってうまいじゃん!”ということで安心してしまうと、後で大変な目に合うということで、その手のモデリング機器は”禁断のアイテム”とも言えます。

 まあ、”ピッキングのコントロールの問題に気づく”ということ以前に、スタジオやライブにおいてモデリング機器を使って音を出すと、音抜けがたいへん悪く、”こりゃバンドでは使えん”ということになって痛い目を見ることも多いわけですが、エフェクターのメーカーとしては、初心者に受けが良いような機器をやはり作ろうとするわけですので、これに関しては業界が心を入れ替えない限り、永遠に続くことになってしまうでしょう。(このウラには、ピッキングの強弱をつけようとすると、より機器の開発/製造にコストがかかってしまうというようなこともあるわけですが)


8.その他、意外なところでは

 上述したように、基本的には、歪みのレベルが高いほど、ピッキングの強弱は吸収され、アンプからの音には反映されなくなることになります。しかし、意外なところとしては、BOSSのBD-2(ブルースドライバー)等は、オーバードライブ程度の弱めの歪みの度合いながら、けっこうリミッター効果がかかり、ピッキングのニュアンスは出なくなります。すなわち、うまく聴こえてしまうエフェクターであるということで、事実、けっこう売れたようですよね。

 あと、トランジスタ(IC)回路とチューブ回路の混成である、いわゆるハイブリッド型の歪み系エフェクター機器も、チューブの割りにはリミッター効果が強く、ピッキングの強弱は出なくなります。
 最近のVOX等の実際のチューブ回路を使ったモデリング機器等もこの種のものなわけですが、低電圧でチューブを動かすという例の”擬似チューブ回路”であるゆえ、十分なゲイン(増幅率)が得られないことを補うために、意図的にリミッター回路を設けて、ロングサスティーンを得ているわけです。

 このようなものに関しても、それを便利なものとして受け止めるか、とんでもないものとして避けるようにするかは、各自の考え方次第ということになるでしょうか。


9.しかし、気づいたが最後、何かはしなくてはならない

 ということで、一度気づいてしまうと、どうにも気になってしまうこの”リミッター効果”というものなわけですが、人によっては、ギターからの生音レベルの音量においても、あらためて確認してみて、ピッキング力のコントロールがあまりできないことに気づいたというようなこともあるかもしれません。
 そのような場合は、慌ててピッキングのトレーニングを開始しましょう、ということで良いわけですが、いずれにせよ、このピッキングの強弱のコントロールという問題は、ギタリストみなさんが必ず最後に悩む要素であると思います。

 リミッター効果を逆利用して、”自分のピッキングのコントロールの弱点を隠していこう”等と考えるのも各自の自由ですが、もし、より高い次元の演奏を目指すならば、”リミッター効果”というものに頼らず、自分のピッキングのコントロールの能力を高めるということにチャレンジしていくべきでしょう。


(2005年 3月分)

<ミュージシャンのための電気回路関連の必読書>

 今回は、少々趣向を変えまして、電気楽器を弾く人が電気回路についての知識を得たいという場合に、お薦めとなる文献をいくつか上げてみたいかと思います。


 エレキギター等の電気楽器を弾く上では、どうしても最低限の電気回路の知識やオーディオ関連の知識が無いと、良い音作りができないということが存在します。
 また、電気楽器を長年弾いていると、市販のエフェクターやアンプの音では満足できなくなり、自分で各種機器を作ってみようと思い始めることもあります。

 しかし、電気楽器においては、通常のオーディオ関係にはない要素が多く存在することもあって、必要知識を得るために適した文献は意外に少ないというのが実状であり、用語の意味1つ調べるだけでも、けっこうな苦労を強いられることが少なくないものです。
 例えば、”エレキギターのピックアップの出力インピーダンスは大きいので、ノイズが増えやすい”といったことは、音楽雑誌等にもよく書かれていることです。 しかし、では”出力インピーダンスとは何か?”、”ピックアップはなぜ出力インピーダンスが大きいのか?”、そして”出力インピーダンスが大きいと、なぜノイズが増えるのか?”というような詳細説明は、色々な本を見ても、なかなか見つけることはできないものです。

 したがって、ついついアヤフヤな状態のまま通り抜けてしまうわけですが、やはり、本格的に器材内容を吟味し、良い音を追求するには、知っておきたくなるはずです。
 さらに、自分でエフェクターやアンプを作ってみようとする場合には、さすがにプラモデルのようには行きませんので、よりいっそう様々な電気的な知識やオーディオ関連の知識も必要となってしまいます。

 ということで、このように普段引っ掛かっている疑問事項を解決してくれる可能性があるという意味も含め、役に立ちそうな文献を挙げてみます。
 いずれも、音楽雑誌ではめったにとりあげられることもないようなものですが、このようなところに穴場があるわけです。

 少々値段は高めですが、役立つこと請け合いであります。


1.”サウンド・クリエイターのための電気実用講座”

  大塚 明 著   洋泉社   \2,900  初版発行1995年

 ⇒アナログ系電気回路や電気素子の基本の説明からはじまり、インピーダンスの説明や、インピーダンスが実際にギター/アンプにおいてどのように関わるのか等を非常にわかりやすく書いてある本です。
 高校の物理の参考書レベルの内容から出発できるようになっておりますので、一般のかたでも楽しく学べるような流れになっておりますが、ギターアンプの扱い等に関しても役に立つような実用的な内容ともなっております。

 少なくとも、インピーダンスの話については、今まで見た中で一番わかりやすいものだと思いました。
 また、エフェクター製作等では頻繁に話題に上る、各種オペアンプの音質テスト等のデータもあり、電気回路をかじったことのある人には、たいへんおもしろいものでしょう。

 とにかく、電気回路に興味はなくても、電気楽器を演奏する人ならば、一部分だけでも読んでおかれると良い本であります。


2.”情熱の真空管アンプ”

 木村 哲 著   日本実業出版社  \3,600  初版発行2004年

 ⇒”情熱の真空管”というインターネット上のサイト(http://home.highway.ne.jp/teddy/tubes/tubes.htm)も作られているかたが、昨年出版された本です。
 電気回路の各分野には、バイブルと言われているような著書が多くありますが、この本は”真空管(チューブ)アンプの設計/製作のためのバイブル”と言われるようになる予感のするものであります。(⇒ただし、ギター用アンプではなく、一般オーディオ用のチューブアンプに関するものですので、御了承ください。)

 完全に初心者でもわかるという内容ではないので、そこそこの電気回路の知識が必要ですが、従来のこの手の本に比べて非常に親切な説明と、設計/製作に関するノウハウを惜しげもなく公開されているという点で、まさに画期的なものではないでしょうか。
 よって、通常のコンパクトエフェクター等をそこそこ作った経験があり、これから真空管回路にトライしてみようという人等には最適な文献となるかと思います。

 また、真空管回路に関する話題だけでなく、一般的な電気回路関連の話題についても詳細に解説されています。
 特に、”回路上でのアースラインのひきかた”の話等は、私にとっては本当に助かりました。

 とにかく、本当に良い本です。


3.”イラストでよむ アースとノイズのはなし”

 伊藤 健一 著   日刊工業新聞社   \1,900  初版発行2002年

 ⇒これは、特に電気楽器やオーディオ関連の本ではなく、また、少々専門的な内容も多くあるもので、”電気回路の技術者が気軽に読んで、役に立つ知識を増やすためのもの”という感じの本ではあります。
 しかし、”アースというもの”と”ノイズというもの”の関係や、日頃あまり注意していないが実は重要というようなことが、色々と載っております。
 
 とりあえずは、これを読めば、ノイズが出て当たり前と思っているエレキギター等についても、”実は、ノイズ(雑音)というものを少なくするための手段がたくさん存在するのではないか?”というような意識を持たせてくれることになります。


(2005年 4月分)

<ピッキングポイントまで、実際に気を使っているでしょうか?>

1.例によって、某Q&Aサイトの話

 先月あたりのことになりますが、某Q&Aのサイトにて、ピッキングフォームに関する初心者のかたの質問がありまして、回答者のかたがたがどのような内容のアドバイスをするかを、しばらく眺めておりました。

 まず、この質問内容は、以下のようなものです。

(質問)
 今、エレキギターを練習中です。主にヘヴィメタルをコピーしてます。右手の位置がわからないです。コードを弾く場合や、ミュート、リードなのでかわってくるのでしょうが、いまいち詳しく載っている教則本がありません。お解りの方解答お願いします。

 といったことなのですが、これに対し、みなさんはどのように考えられるでしょうか?

 この質問が出てからしばらく後に、いくつかの回答の投稿が寄せられてきましたが、それによれば、おおかたの人の意見としては、”弦上のピッキングするポイントによって音色を変えることができるので、どこでピッキングしても構わない”というようなものでありました。
 しかし、これを見た私としては、色々と気になる点があったので、以下のようなことを主旨とする投稿を入れてみました。

・確かにピッキング位置による音色変化を演奏上利用することはあるが、様々な応用性を考えると、基準とするべきピッキングポイントはとりあえず存在する。
 特に、質問者の人がヘヴィメタル志向ということであるので、メタル系で使用される各種テクニックへ柔軟に適応できるようなものが望ましい。

・上記のことから、”単音弾きやパワーコードのハーフミュート弾き時等には、ブリッジに手首近くを置いて手首を上下に振る形での、フロントとリアピックアップの中間位置をピッキングする状態”、”コードカッティング時等には、肘の近くをギターのボディ上に置いて安定させての、フロントピックアップの前後付近でピッキングする状態”を基本とすると良いと思われる。


2.ところが、依然として同じ内容の回答が・・

 このようなことを投稿してみたのですが、私のもののすぐ後に、このサイトの常連さんの投稿がありまして、やはり以前の投稿と同じく”ピッキング位置によって音色を変えられます。”みたいなことを書かれていたわけです。
 すなわち、私以外の方々の回答を見る限り、”ギターというものは、ピッキング場所を変えることによって、せっかく色々な音色が出るのだから、大いに利用しましょう”という感じであるわけで、特に私の投稿の後に再度同様なものを書いた人の考えを察すると、”ブリッジに手首を置かねばいけない、というような保守的なことをあまり言うべきではない”といったような意向を感じてしまいました。

 これらを見た私としては、とりあえずは、私以外の複数の方々の意見が一致しているわけであるし、”やはり、ピッキング位置に関して固定観念を持ってしまうのは良くないのかねぇ。”等と反省し、同時にまた、”一般の人は、アコースティックギターやジャズ系のギター等だけでなく、ロック系のエレキギターにおいても、ピッキング位置による音色のコントロールをやっているのかぁ。オレは今まであまり意識していなかった、ヤバイぞぅ。”なんて少々アセりを感じてしまったのでありました。


3.しかし、本当にそうなの?

 上述したようなことを感じたとは言え、その後あれこれと考えていると、本当にそういったことで良いのだろうか?という疑問が沸いてきました。

 まずは、”少なくとも、一般的なロック系のエレキギターにおいて、常に音色を考慮し、ピッキングポイントを変えながら演奏しているのか?”ということを考えてしまいます。
 聴いている人が明確にわかるような音色変化を実現するには、実はけっこうなピッキング位置の移動が必要となります。しかし、通常のエレキギターの場合には、ピックアップというものが各位置に存在し、少なくとも単音弾きの場合には、ピックがこれに接触してしまうことによって、ピッキング動作の障害となってしまうことが多いわけです。

 レス・ポールモデルタイプのハムバッキングピックアップ搭載のギター等では、ピックをある程度深く弦に当てて、十分な強さのピッキングを行おうとすれば、フロントやリアピックアップ位置でのピッキングは困難になりがちであるというのが現実でしょう。(極端に浅いピッキングを行うような場合は良いわけですが)
 また、ストラト等のセンターのピックアップは、ピッキングのジャマになるので、”センターピックアップは低いセッティングにして使用していない人も多い”というのは良く知られた事実でもあり、要は、エレキギターの場合、まともな単音ピッキングをしようとすれば、ピックアップの上位置ではなかなかにきびしいということなわけです。

 弦移動等も含め、安定したピッキング動作を行おうとすれば、ピッキング位置を大きく変えることは、あまりできないというのが、やはり現実なのではないでしょうか?(⇒だからこそ、ピックアップの切り替えで音質をチェンジする人も多いのでは?)


4.そして、本当に重要なポイントが・・

 次に、みなさんの書かれていることをストレートに受け止めると、”エレキギターというものにおいては、状況に合わせてピッキング場所を変えて音色/音質を変えることを必ず行わないといけないよ。”というようなことに感じられてしまうということがあります。
 
 もし、初心者のかたが、このように受け止めてしまっては、逆に、けっこうな負担になってしまうのではないでしょうか?
 すなわち、”とりあえずは、標準位置でピッキングしておいて良いよ。”とアドバイスするのと、”音色を考えて、色々な位置でピッキングできるようにしなければいけないよ。”と言うのとでは、どちらが初心者にとって効率良く上達できるかということなわけです。


5.どちらが本当に保守的であるのか?

 上記のようなことを考えていたら、”ピッキング位置を変えて音色もコントロールすべき”といういう主張のほうが、かえってクラシックギター等からの流れを引きずる保守的な考えなのではないか?なんて気もしてきました。

 または、それ以前のこととして、”ピッキング位置”という言葉を聞いた(見た)だけで、条件反射的に”ギターはピッキングする位置で音が変わるものだ”という、半ば物理的な話をすぐに発言することが体に染み付いてしまっている人もけっこういるのではないか?というようにも思ってしまいました。

 あるいは、聴いている人が判断できないようなレベルでの音色の変化でも良い、すなわち、演奏者自身の個人的満足感のために小さい距離でのピッキング位置の移動を行っている人がいるのかもしれません。


6.やはり、回答の目的を大いに意識すべきでは?

 いずれにせよ、回答するに当たって本当に重要なことは、”質問されたかたが何を求めているのか?”ということ、そして、”それに少しでも近づけてあげるためには何を行えば最も適切であるか?”ということを十分に検討すべきだと思うわけです。

 自分が初心者の時のことは忘れてしまいがちですし、また、ある程度経験を積んだ状態でも、現在の自分の演奏の方法が本当に好ましいものかは、意外とわからないものです。
 先に書いたように、自分はピッキング位置によって音色を変え、効果が上がっていると確信していても、聴いている人にとっては(その人が同じギター奏者であっても)あまり意味が無いなんてこともあるわけです。

 そのような意味で、他人の質問に答えるということは、本当に責任あることだと思います。
 そのサイトにおいては、先日も、”ライブにおけるベースの音は、アンプからの音をマイクでひろったものと、ラインからのものをミックスしてPAに送るのが通常だと思います。”なんてことを平気で回答している人がいらっしゃいましたが、そのようなあいまいな知識で回答してしまうのはさすがにマズイことです。(⇒爆音系のベーシストのかたにおいては、近年そのようなセッティングのかたも多いようではありますが)

 いやー、インターネットっていうのは、やっぱり便利かつ怖いものですねぇ。


(2005年 5月分)

<ベースに関するページを新設しました!>

 近年の日本の音楽シーンにおいては、各ミュージシャンの活動はバンド単位としてのものが主流になり、昔に比べると、ボーカリスト個人(ソロ)での活動等が減ってきたという状況にあります。
 このような状態においては、以前はスタジオミュージシャンがCDでのバックの演奏を担当し、ライブにおいてはツアー用のバックバンドのメンバーがその都度組まれるという状況も減少、CD/ライブ共に専属のバンドが演奏するという形が多いことになってきたわけです。
 
 専属のメンバーということは、特定のミュージシャンが多くのボーカリストのバックを掛け持ちするというようなものではないので、それだけ多くのミュージシャンが必要とされることになり、その結果として、個人の技量が低いミュージシャンも存在せざるを得ないことになります。
 さらには、経験の浅いプロミュージシャンが多くなるということも意味しておりますので、通常は、経験を積むことによって体得できるものである”バンド全体としてのアンサンブル”等のレベルも低下する危険性も出てきます。

 特に、バンド演奏の土台を支える重要なパートである”ベースの演奏”に関しては、いわゆる”うまいベーシスト”と言われる人が、ベーシストの数が多い割にはたいへん少なくなってしまったのではないか、と思う次第であります。


 というわけで、”ベースというパートが本来果たすべき役割が、いつの間にか忘れ去られてしまうのではないか?”ということを強く感じたので、”ベースこれだけは知っておこう”というページを新設してみました。
 この内容については、人によっては、”ベースの演奏は強制されるものではない。 けしからん!”と思うかもしれませんし、最近のバンドの音を聴いて育った若いベーシストのかたは激しい違和感を覚えるかもしれません。

 しかし、バンド全体としてのアンサンブルでの効果を出すためには、各パート共に、それぞれ演奏上の最低限の制約がありますので、これはベースに限ったことではないわけです。 
 各人の個性を出しながらも、バンド全体としての音の衝撃を聴いている人々に与えるということこそ、本来のバンド演奏での最大の醍醐味であるはずで、苦しみながらもそれを達成できれば、大きな満足感が待っていることになります。


 試しに見てみてください。⇒ BASS これだけは知っておこう(演奏編)
 


(2005年 6月分)

<”メトロノームの音をウラでとる”という練習のこと>

 曲の練習の際には、”メトロノームを使って、まずはスローテンポから”ということは、当方のサイトにおいても、これまでシツコク書いてきたことであるわけですが、そのメトロノームを使った練習方法の1つとして、”拍のウラでメトロノームの音をとらえる”というものがあります。

 この方法は、かねてより”プロミュージシャンの方々が行う練習方法”として必ず語られるものでしたので、音楽系サークル等でも代々受け継がれ、先輩方に”必ずやれ!”と言われた人は多いことかと思いますし、現在も毎日行われている人もいらっしゃるでしょう。

 とりあえずは、”4拍子の各拍において、8分音符のウラでメトロノームの音が聴こえるように”というあたりからトレーニングすれば良いわけですが、この練習方法に関しては、ある意味”迷信”的な要素があり、”メトロノームをウラで聴けるようになりさえすれば安心!”というような雰囲気が作られてしまっています。
 しかし、それだけではリズム感の向上において、あまり意味はないとも言えるわけで、この方法を演奏に当たって有効活用するには以下に挙げるようなことに注意する必要があるかと思います。

 なお、ここにおいては、とりあえず、8分音符でのオモテとウラを考えるということを基本とします。


1.ウラでとることの意義とは何か?

 色々な人に、”リズムはウラでとることが大事だ!”と言われるがために、無条件にそれを受け入れてしまっているままの人は多いかも。 では、なぜウラでとることが大事なのでしょうか?
 これに関しては、当方も決してパーフェクトなことが書けないのですが、まずは、”1拍分をオモテとウラで均等分割するという意識を持つ”ということがあるのではないでしょうか。

 メトロノームを普通に使おうとすれば、拍のオモテで音が聴こえるようにとるわけですが、この状態では、オモテばかりに気をとられ、オモテの8分音符の長さを正確にとれず、長めに意識してしまうというようなことが発生しやすくなります。
 したがって、ウラ部分で弾くべきタイミングがずれてしまったりして、符割り通りに正確に弾けないという問題も発生しやすいことになる可能性も出てきてしまうものです。

 すなわち、”ウラでメトロノームの音をとらえる”ということは、スネアのウラ打ちに慣れるためといったことではなくて、あくまでも”オモテとウラの均等分割の精度を強く意識させるためのきっかけ”という意味合いがけっこう強いのではないかということです。


2.ウラばかりで聴いていると

 1項のことから、当然、ウラでメトロノームを聴くことを大いにやりましょうということになるわけですが、そればかりやっていると、1項でのオモテで聴く場合の弊害と同様に、ウラばかりを意識してしまい、ウラ部分をオモテよりも長く感じてしまったりして、オモテとウラの均等分割が崩れてしまう危険性があります。

 また、実際のドラムスのパターンにおいては、やはりオモテにアクセントがくるようなものが多いですから、ウラでとる練習ばかりしていると、常にウラにアクセントを感じるようになってしまい、実際のドラムスのパターンとかみ合わなくなってしまうということも考えられるような気もします。

 それどころか、ウラで聴くということは、状況に対する慣れでできてしまうことでもありますので、一種のゲーム感覚的なもので体得してしまい、本来のリズム感に関するものから逸脱してしまう危険もあるわけです。


3.ウラでとったならば、オモテでもとる

 ということで、”オモテとウラでの均等分割”の意識、また”ウラでとる”という行為だけにとらわれない、ということを重視するために、メトロノームをウラでとる練習だけを行うのではなく、”ウラでとることと、オモテでとることを交互に繰り返す”という方法を行うべきかと思います。

 すなわち、ウラでとるという状態と、オモテでとるという状態を交互にすばやく切り替えることを行うようにするわけです。
 実際のドラムスのパターンにおいても、各タイコはオモテで鳴ったり、ウラで鳴ったりするわけですので、このようなやり方のほうがより実践的なものではないでしょうか。


4.結局は、意識せずにも自然にウラを感じられることが重要

 これは、私がこの手の練習を行っていて思ったことですが、3項で書いたように、”オモテどり”と”ウラどり”を交互に繰り返す等しながら練習していっても、”どこか自然にリズムを体で感じていない”ようであり、”無理やり”な感じがするのであります。

 そもそもこの”メトロノームのウラどり”という方法は、果たして外国の本場のミュージシャンがみんなやっているかどうかは怪しいような、多分に日本人的な練習方法であり、ナチュラルなリズム感の不足を演奏の正確さでゴマかそうという方法の1つのように思えてしまえてなりません。

 そのようなわけで、これに対する1つのアプローチとして、”ドラムスのパターンを体で感じる中でメトロノームを聴いて合わせる”というものがあります。
 これは、当たり前のことかもしれませんが、結局は、ドラムスの各種パターンをしっかりと覚えて、頭の中でいつでも鳴らせるようにし、この中で”メトロノームの音のオモテどりとウラどり”を行うようにするわけです。

 この状態においては、ドラムスのパターンが(頭の中で)自然に流れていれば、楽にウラでのメトロノームの音もハマルようになり、非常にリズム的にも心地良い感覚が生まれてきます。
 しかし、ふとウラ部分のメトロノームの音を意識して聴こうとしたりするや否や、自然なリズムの流れが崩れてしまうのを感じることになったりして、たいへん興味深い感覚を味わえるものであります。

 結局は、”ドラムスのパターンが流れる中に、自然にウラでのメトロノームの音が入ってくる”という状態を作るということであり、”ウラでのメトロノームの音に合わせて、ドラムスのパターンを(頭の中で)鳴らす”というような逆の過程ではダメなわけです。


 ということで、これらは、あくまでも私が受け入れやすい方法を示したに過ぎないわけですが、先に書いたように、無条件にただメトロノームをウラで聴くことを行うのではなく、その背景にある要素を考え、また、それを自分の演奏にどのように役立てるかということを意識しながら、実践してみることが重要かと思います。


(2005年 7月分)

<D.I.に関する記事内容の補足(その1)>

 既にお気づきのかたもいらっしゃるかと思いますが、ベースマガジン8月号のD.I.(ダイレクトボックス)に関する特集記事の冒頭の解説ページは、当方で担当したものであります。

 しかし、今回のものにしても、昨年のギターマガジンのギターストラップの作り方(?)の記事にしても、本来ウチがやるべきはずの”楽器の演奏”ということ以外の部分ばかりがオモテに出てしまい、何だか複雑な心境なのですが、まあ人生そんなものだということでそれはそれで良しとして、この内容についての補足として書いておきたいことがいくつかあります。(興味のあるかたは、まずは、ベースマガジンの本文を御参照ください。)

 当方で担当した部分は、”D.I.とは何をするものか?”ということと、これに関係する基本的な事項を客観的に書いたものなわけですが、何ゆえ文字数の制限があるということ、そして、一般の人にもわかりやすいように書いて欲しいという編集部からの要請もあったということで、D.I.に関して知っておくべき事項の全てを書くには至らなかったわけです。
 よって、故意に焦点をボヤかさざるを得なかったような部分もありますし、また、その方面に詳しいかたにはお叱りを受けてしまいそうな用語や記号の使い方もあり、申し訳ない次第であります。
 
 ということで、とりあえずは、当方のサイトのD.I.の解説にもある程度書いてあることなのですが、この機会にあれこれと書いておこうかと思います。


1.エレキベース用としては、完全パッシブ型は向いていないであろうということ

 記事の本文にもあったように、D.I.の形式としては、それ自身に電源の必要がない”パッシブ型”のものと、内部の回路を動作させるために電源が必要な”アクティブ型”、そして、これらを組み合わせた”セミアクティブ型”とでもいうべきハイブリッド形式のものも存在するわけです。

 このうち、完全パッシブ型のものは、通常はトランスを使ってアンバランス型の伝送方式をバランス型に変換し、同時にトランスの1次側と2次側のコイルの巻き数の差を利用し、パッシブタイプのベース等のハイインピーダンス出力をローインピーダンス出力に変換するということも行うことになります。
 すなわち、トランスの1次側(入力側)と2次側(出力側)で、インピーダンス値が下がるわけですが、このパッシブ型D.I.での”インピーダンスを下げる率”というのは、アクティブ型D.I.に比べれば小さいことになります。

 これについては、様々なD.I.の入力インピーダンスと出力インピーダンスのカタログ値等を見ていただければわかるかと思います。
 D.I.の出力インピーダンスはアクティブ/パッシブ両タイプ共に数百オームのオーダーとなりますが、入力インピーダンスについては、アクティブタイプが数メガオーム以上のオーダーであるのに対し、パッシブタイプは数十キロオームのオーダーとなっており、遥かに小さい値となっているのが通常です。

 しかし、パッシブのエレキベースの出力インピーダンスは数十キロオーム以上の値でありますので、これでは電気機器間の信号伝送の基本である”送り側の出力インピーダンス<受け側の入力インピーダンス”という条件に十分にマッチしないことになり、ノイズ低減ということでは不安なものになってしまいます。(⇒パワーアンプとスピーカーの接続のように、電力が重要視される伝送の場合は、”送り側の出力インピーダンス=受け側の入力インピーダンス”という条件になります。)

 さらに、これこそがパッシブのD.I.で入力インピーダンスを大きくできない最大の理由なのですが、トランスというものは1次側(入力側)に対し2次側(出力側)でインピーダンスを下げると、信号レベルまで下がってしまうということがあります。
 ベースからの出力信号レベルが下がれば、やはりノイズに対する比(S/N比)が下がりますから、これについてもあまり好ましいものではないわけです。(⇒アクティブのD.I.では、内部の電気回路の働きにより、レベルは自由に設定できます。)

 そしてもう一点、トランスを通過させると、高域が下がる等の音質の変化の問題も存在します。(これについては、逆に、この音質の変化を利用する場合もあるようですが)


 ということで、まとめれば、パッシブのD.I.というものは以下のような欠点があることになり、これを補うものとしてアクティブタイプとのハイブリッド型のものも存在するわけです。

 @ トランスを使ってインピーダンスを下げると信号レベルまで下がってしまう

 A @のことから、D.I.の入力インピーダンスをパッシブタイプのエレキベース等に適した値にすることができなくなる

 B トランスを通過すると高域の低減等の音質変化が生ずる


 このようなことで、完全パッシブ型のD.I.というのは、各種キーボード等、出力インピーダンスがある程度小さい機器、あるいはオーディオやPA等のシステム中の機器に対しては使用してもだいじょうぶなわけですが、少なくともパッシブタイプのベースに対してはあまり適したものでは無いわけです。

 とにかく、”ベースに使用するD.I.は入力インピーダンスが数メガオームオーダーのものを使うべき”と考えていただければ良いわけで、ライブハウス等のステージ上にあるD.I.が、通常はBOSSのDI-1等のアクティブ型であるのはこれが理由です。

 ただし、ベースがパッシブタイプでも、エフェクターやプリアンプの経過後であれば、出力インピーダンスは十分に下がるので、だいじょうぶなことになります。また、もちろん出力インピーダンスが小さい”アクティブタイプのベース”であれば、そのままの接続でもokということにはなります。
 

以下、次回に続く⇒


(2005年 8月分)

<D.I.に関する記事内容の補足(その2)>


2.”アクティブ型のD.I.において電源が必要”ということはそれほど不利ではないということ

 アクティブ型のD.I.とパッシブ型のD.I.それぞれの長所短所を考えるような場合、パッシブ型が電源を必要としないのに比べ、アクティブ型は電源がないと内部の電気回路が動かないということで、この電源が必要という点がアクティブ型D.I.の欠点のように認識されがちです。

 電源と言えば、電池(バッテリ)を内蔵しなくてはならないとか、ACアダプタで供給するといったイメージが先立つわけですが、実際には、PAミキサーから接続ケーブル(信号ケーブル)を通じて電源電圧を供給できる、”ファンタム電源”という仕組みが存在しますので、電池等の電源を用意しなくても、D.I.を作動させることは可能となります。

 したがって、現場においては、”アクティブのD.I.には電源が必要である”ということは、あまり不利な条件とはならないわけです。


3.出力インピーダンスが600Ωなわけ

 ベースマガジンの記事に載っている有名どころの各社D.I.の仕様を見ると、出力インピーダンスが600Ωとなっているものがけっこうあることに気づかれるかと思います。
 前回も書いたように、基本的には出力インピーダンスの値は小ければ小さいほうがノイズに対して強くなるので良いということになり、COUNTRYMANの製品のように100Ωというようなものもあるわけです。

 では、なぜ600Ωにするのかと言えば、オーディオやPAに詳しいかたには当たり前のことになるでしょうが、業務用のPA関連機器やオーディオ関連機器では、電力を効率よく伝送するために、入力インピーダンス/出力インピーダンス共に600Ωで設計するという伝統がある(あった)からです。
 これについては、昔は機器内部にトランスを置いてインピーダンス変換を行っていたことに関連して出てきた数値なわけですが、現在ではこのような部分でトランスというものを使うことは少なくなり、600Ω統一という考え方は過去のものになってきております。


4.結局、今回の記事は、必ずしもベース用だけのD.I.の話ではないということ

 このようなことで、今回のべースマガジンの記事については、ベースの雑誌だからと言って、全てがベース用のD.I.の話ということではなく、D.I.という機器一般に関するものと考えていただいたほうが良いものです。
 
 出来上がった記事全体を見て、この部分が一番心配になってしまったところなのですが、もしベーシストのかたが自分用のD.I.を購入しようという場合は、とりあえずは、アクティブタイプで、かつ音質変化ができるだけ少ないようなものを選んでいただければ良いということになりますので、このあたりについては御理解いただければと思います。


(2005年 9月分)

<やはり、”何でもあり”という指導方法は良くないのだ(その1)>


1.中学生でもすごい演奏

 先日、当方の家族の関係で、”全日本学生ギターコンクール2005”というイベントを見てきました。
 このイベントは、全国から選抜された中学生と高校生、そしてOBのみなさんのクラシックギター合奏団のコンクールなわけですが、さすがに日頃から練習を重ねられている方々だけあって、そのレベルの高さには驚かされました。(近頃は、村治佳織さんあたりの影響でクラシックギターを演奏される若者は、ロック系等よりもよっぽど多いようですね)

 何と言っても、中学生のみなさんでさえ、そのレベルはかなりのものであり、日頃地元で聴いているような老若男女の一般のかたがたのリクリエーション的ギターサークルとは全く異なる次元のものであったわけです。よって、”適切な指導のもと、効率の良い練習さえすれば、キャリアにはあまり関係なく、それなりのレベルになるものなのだねぇ”ということで、非常に驚いてしまいました。

 それと同時に、ジャンルは大きく異なるとは言え、中学生のロック系のバンドで、このようなレベルの演奏ができるところがあるか?ときかれれば、”ない”と答えるしかないであろう現実に、少々悲しくなってしまったわけです。


2.クラシック系の演奏について誤解してはいけないこと

 ロック系やジャズ系のかたが、クラシック系音楽に対して持っているイメージにおいて、”クラシック系の演奏は、まず譜面があって、それを画一化された演奏技術で忠実に再現するだけのものなのだから、オリジナリティで勝負するロック系の音楽とは違い、おもしろくない”といったようなものがよくあります。(私も昔はそのような考えを持っておりました。)

 しかし、それは大いなる間違いでありまして、実は”譜面化されたものに対して、さらに演奏者各人が自分なりの解釈にて、独自の表現を加えて発展させていく”といったものなのであります。
 譜面というものがあるがゆえに、”画一化された演奏技術”と見られるものも、演奏者によってそれぞれ異なる要素が存在し、”同じ楽器でも、先生によって言うことがかなり違う”といったこともよく聞かれることで、ある意味、エレキギター等よりも演奏方法は(細かい部分で)様々なものが存在するとも言えるわけです。


3.”しっかりした土台”というものが、かえって応用性を持つということ

 もちろん、クラシックギター演奏を始めて数年といった中学生のかたでは、まだ独自の表現を加えるといった段階には達していないことも多いわけですが、まずは、譜面通りの正確な演奏という土台を確立しつつあるといったことは、将来において非常に意義があるわけです。

 楽典を見てみるとわかることですが、クラシック音楽には演奏上のニュアンス(非常に感覚的なものも含む)を表す記号がものすごくたくさん用意されています。長い歴史の中で、考えつく限りのものがあるといった感じですが、これらが使われる状態を”演奏方法への強制力の存在”と見るのか、あるいは”演奏方法の自由度(⇒自由自在度)の存在”と見るのかで、その人の将来は決まるといっても過言ではない??・・


 この前者のように考えてしまいやすいのが、ロック系ミュージシャンのサガであるのですが、このような傾向は、かえって自分の可能性を殺してしまっているというのが、今、歳をとってしまった私が大いに感ずることなのであります。
 つまり、様々な記号に従って自由に演奏できるということは、”機械的に演奏することしかできない”ということではなくて、”基本的な演奏技術を習得していて、しっかりした土台があることの裏返しである”という意味であることを絶対に見逃してしまってはいけないということなのです。

 このようなことで、自分の思ったことを演奏において自由に表現したいならば、少なくとも、基本的な演奏技術を持たなければならないことは、当たり前ではないでしょうか。

 基本演奏技術をしっかりと覚えずに自分を表現をしようとすることは、英単語の発音も覚えずに英国人と話そうとするようなものです。


4.やはり、良い指導者がいなくてはイカンです

 最近、クラシックギターと共に(クラシックギター以上に)流行っているらしいブラスバンドも含め、演奏がうまい団体は、やはりしっかりとした指導者(学校の場合は顧問の先生ということが多い)が付いているということも実感するところであります。
 しかし、ロック系のバンド等の場合、各パート別に教室やスクールに通って指導を受けることは行われていても、バンド全体として指導を受けるといったことは、滅多に行われていないでしょう。中学や高校のクラブ活動においても、そのような指導をしてくれる顧問の先生等はあまりいないのでは。
 もちろん、プロミュージシャンのレコーディング作業等においては、そのような役目を担う”プロデューサー”と呼ばれる人物が存在するわけですが、いざレコードディングを行うという場において、基本的演奏技術がないようなミュージシャンに高度な要求を出しても、もはや遅いわけです。

 その証拠に、”どうしてもプロデューサーの要求に応じて演奏することができないメンバーがいるので、スタジオミュージシャンを呼んで、何とかレコーディングした”とか、”シビレを切らしたプロデューサーが、結局自分自身で演奏してレコーディングしてしまった”なんていう裏話はよく聞かれるところです。

 ⇒次回に続く


(2005年 10月分)

<やはり、”何でもあり”という指導方法は良くないのだ(その2)>

5.ロックが不良の音楽であると信じるのは大間違い

 これは、私などの世代においては特に顕著な現象ですが、ロックミュージックが本来”反体制”というスローガンのもとに発展してきたジャンルゆえに、”反体制=演奏は雑でも良い”といった観念が未だに強く存在しております。
 また、初期のハードロックや、パンク系、ハードコア系等のジャンルの成り立ちから、”ロック=不良の人間の音楽 ⇒だから演奏はヘタでも良い”といった感覚も強いものです。

 しかし、そのようなジャンルでスターになったミュージシャンは、確かに反体制派で不良と呼ばれるような人達であったかもしれませんが、彼らはそういった人々の中で特に優れた存在であり、要は天才的な才能を持った人達であったことを忘れてはならないわけです。(⇒その裏には、演奏がうまくなかったゆえに消えてしまった、その他大勢の人々が存在するということです。)

 したがって、彼らを見て、自分も演奏は多少ヘタでも良い、なんて思って安心しようとするのは大間違いであります。もちろん、オリジナリティのみが傑出していたとしても、やはり、それなりの演奏力がなければ、一時的に人気者になったとしても、消えてしまうのは時間の問題となるでしょう。


6.”好きなように弾けば良い”というのは本当に禁句です

 以前にもこのコーナーで書いた”ピッキングの位置はどこで行うべきか?”という問題や、”パワーコードはどの指で押さえるべきか?”という問題は、相変わらず色々な場所で話題となっています。
 そして、これまた相変わらず”演奏というものは自由だから、自分の思う通りにやって良い”ということを言われる人が現れて、”そうかそうか!”ということでチャンチャンとなる場合が多いです。

 しかし、しつこいようですが、そのような考え方を薦めるのは、まだ基本が固まっていないような初心者のかたにとって非常に危険だと思います。と言うか、上達するチャンスをわざわざ逃してしまうことになるのではないでしょうか。


7.”最初は理屈抜きでも良い”ということ

 したがって、やはり、教える側は、現在の自分の状態をもとに教えるのではなく、初心者にとって最も早く上達するような道筋を示してあげるべきでありますが、成人の場合はともかく、中学生等の場合であれば、最初は理屈抜きであっても良いかと思うわけです。

 中高校のクラシックギターやブラスバンドのクラブ等においてはよく見られるものですが、その練習は教える側からの半強制的なものであり、多くはあまり理屈は説明されることはないことになるものです。教えられる側が低年齢ゆえに、理屈を説明しても理解してくれないというようなこともありますが、その反面、低年齢ゆえに素直に従ってくれるということがあり、これは非常に大きな意義を持つものかと思います。

 当然、教える内容が間違っていれば、共倒れになってしまいますが、しっかりした内容であって、それを忠実に実行してくれれば、その結果として、お客様は素晴らしい演奏を聴くことができるわけです。


8.”ロック系音楽の指導方法”ということを考え直すべきかも

 実は、教則本等に書いてあることを読んで、自分で練習していく場合でも、その内容を半強制的に行っていくということでは同様なのですが、もちろん本から受けるプレッシャーは低いわけで、サボるのは自由自在です。
 したがって、他人からの適度なプレッシャーを受けつつの練習ということはあるべきなのでしょう。

 また、日本においては、バンドの各パート個別の指導ということはあっても、バンド全体でのアンサンブル等を的確に指導するといったことは、クラシック系のものに比べて軽視されてきたような気がします。しかし、音楽的な環境において、諸外国に比べて劣る日本では、よりそのようなことが重要となるはずです。
 音楽の専門学校等では、そのようなことを行っているところもあるようですが、各パート全てに精通することはなかなかに難しいということもあり、徹底した指導というものがなかなかできていないのが現状でしょう。


 このようなことで、音楽スクールや音楽教室の内容についても、これから色々と頭をしぼって考えていく段階に来ているのではないでしょうか。それぞれのパートだけをいくら指導しても、限界はあると思うわけです。

 バンドというものは、それぞれのパートが卓越した演奏技術と演奏センスを持つことももちろんですが、その上に、全体として光るものがないと全く意味がなくなってしまうということを本当に感じてしまう今日この頃です。


(2005年 11月分)

<NGSのチューブディストーションは再検討させてください、という話>

1.RTD-1のトラブル発覚

 ここ数ヶ月の間、ストラップの製作にかなり追われておりまして、ホームページ内容に関しては、質問BBSの回答を行うのがやっとの状態。 従いまして、このトピックスのコーナーの記事を書く時間もほとんどないという有様になっていたのですが、そのような折、NGSのチューブディストーションRTD-1A3に問題があることが発覚、現在、さらに慌てふためいている状況なのです。(⇒現在、出荷品を回収、改善処置を行っている最中です。RTD-1の広告も止めさせていただいております。)

 私はあまり隠し事が好きではない性格なので、洗いざらい書いてしまいますが、まず、今回のRTD-1のトラブルは、以下のようなものです。(販売し、使っていただいたかたからの指摘にて発覚したものです。)

@ パッシブタイプのエレキギター/ベース等、ハイインピーダンス出力の機器を直接接続すると、バイパスに切り替えた時に高域の減衰が発生する。

A @と同様に、ハイインピーダンスの機器の接続状態でのバイパス時に、歪ませたチャンネルの音(ノイズ的な音)が少々混入して、いっしょに出力されてしまう。


2.トラブルの原因@

 上記のようなトラブル内容なわけですが、エフェクターやアンプの製作を手がけたことがあるかたならば、ある程度この原因は察しがつくところだと思います。
 基本的には私がマヌケであったということで、二流技術者であることがバレバレな例となっているわけですが、まず@については、”ノイズ対策”および”万が一の場合の発振対策”として、入力部に入れておいたキャパシタ(コンデンサ)の値が大き過ぎたことが原因です。(⇒ホントに基本的なミスでなさけない・・)

 このようなものは、市販のエフェクターにもよく設けられているものですが、このコンデンサは接続される機器の出力インピーダンス(⇒とりあえずは出力ラインに抵抗が入っていると考えて良いです)と共に、ローパスフィルタ(ハイカットフィルタ)を形成しますので、これらの値によって決まるある周波数以上の部分はカットされてしまいます。

 この周波数値(カットオフ周波数)は、コンデンサの値と接続機器のインピーダンス値に反比例することになりますので、コンデンサの値によっては、”ローインピーダンスの機器の場合には、カットオフ周波数がかなり高いところにあり、音にはあまり影響しないことになるが、ハイインピーダンスの機器では、カットオフが低いところに下がってしまい、それより高域の音がカットされることが目立ってしまう”ということになります。

 したがって、これに関しては、コンデンサの値を下げるか、あるいは、発振等の心配がなければコンデンサを外してしまうということで、対策は打てるものです。


3.トラブルの原因A

 Aの原因については、実はまだまだ調査中で、これからさらに有効な対策が出てくるかもしれないところなのですが、間接的要因とは言え、これも接続機器の出力インピーダンスとRTD-1の入力インピーダンスとの兼ね合いが誘発しているものであります。

 要は、ハイインピーダンス出力の機器であると、RTD-1の入力部の抵抗との分圧比との関係で本来の信号レベルが低下しS/Nが悪化、ノイズが目立ってしまうということのようなのですが、このそもそもの原因は、入力部のアースラインのノイズ信号が大きいことにあると思われるわけです。

 結局は、ハイゲイン時の発振を抑えつつ、入力部のアースラインになるべく他の部分のノイズ的な信号が混入しないようにする必要があるということになるのですが、回路に流れる電流値が大きく、かつ回路内の各部の出力インピーダンスが大きく、さらに電磁的なノイズの影響も大きいという、チューブ(真空管)の回路では、アースラインの設計は本当にむずかしいものであることを痛感。(⇒MAXONのチューブディストーションのノイズの多さ等も、たぶんアースラインを含む回路(基板)の設計がマズイのでしょう。)

 そもそも、これまでのRTD-1の開発過程の問題のほとんどがアースに関するものであったわけで、やはり、オペアンプの回路のようにはいかず、チューブ回路のたいへんさを思い知っております。

 ただし、いずれにせよ、近日中には有効な対策を考えて、施すようにするつもりです。


4.何で今までわからなかったの?

 上記のようなことが何で今までわからなかったか?と言われると、これまた”私の技術力のレベルの低さ”としか言いようがないのですが、次のようなバカな理由であります。(ほとんど言い訳ですが)

@.チャンネル切り替えスイッチに、FETやリレー等は使用していないので、バイパス時はたぶんだいじょうぶだろうと油断し、あまり詳細な確認をしていなかった。

A.ノイズの混入に関しては、GAINをかなり上げた場合に目立つ現象であるので、発見しにくい状態であった。

B.テスト時にはハムバッキングピックアップのギターを主に使用していたため、ノイズも含めて高域の音が目立ちやすいシングルコイルでの状況をよく確認していなかった。

C.テスト時には、ラックマウントのチューナー(コルグのもの)を経由して入力することが多かったので、これがバッファの役割となってローインピーダンスでの入力となり、上記トラブルが現れていなかった。

D.これまでにかなりの人に試奏してもらっていたが、歪みの音のほうに興味が集中し、また、アクティブタイプのギターでの試奏の場合もあり、このバイパス時の問題が指摘されていなかった。


 以上、かつて会社においても新入社員時代にさんざんやってしまったような基本事項の欠如による失敗であり、たいへん反省しております。

 といったわけで、みなさんもエフェクター製作時には、このようなバカなことはしないようにしてくださいね。(⇒アタリメェだ!って声が来そうですが・・・)


5.いずれにせよ、さらに完成度を高めます

 以上のようなことで、まずは上記の問題を解決した後、できるだけ早いうちに再発売したいかと思っているわけですが、今回のことの流れで、シングルコイルのギターにおける中低域の音の不足ということが、やはり気になってきました。

 よって、このことも含めて、再度全体の回路を見直す作業も進めたいかと思っております。


6.”2ちゃんねる”の記事にビックリ

 ここで、少々話を脱線させていただきまして、書いておきたいことがあります。

 もともと、RTD-1は、基本的には私の道楽でやっているようなものですので、当方のストラップ等に比べれば、目だった宣伝もせずにこっそりと販売している(フリをしている)ようなものだったわけですが、先日、”2ちゃんねる”のスレッドにて、けっこう以前からネタにあがっていたのを見つけまして、ビックリ。

 ”2ちゃんねる”らしく(?)、けっこうなんだかんだと書かれていたわけですが、かなり以前にRTD-1が中古品にて販売されていて試奏したというかたがいたりして、さらにビックリ。
 ”クソみたいな音であった”と書かれていらっしゃいましたが、おそらくそれは、最初期に当方の生徒さんの希望で製作/販売した2台のうちの1つだと思われます。

 この品は、あくまでも試作機に近いもので、購入者の希望に応じてさらに改良していきましょうという、テストも兼ねた段階のものだったわけですが、おまけに低コストの追求目的で超安物パーツを使っているところもありまして、”クソみたいな音”というのも十分にうなづけるものであります。(何たって、ユニバーサル基板を使っているようなものですからね。ただし、チューブが既に劣化していたといったこともあったかもしれません)

 実際に、販売したかたからも改善要求が来まして、受け取りの日程まで出していたのですが、その後、そのかたから連絡が無くなってしまった状態で、そのまま放っておいたのですが、まさかアレを売りに出していたとは・・・
 ちょっと、絶句なのですが、もともと販売した私の責任なので仕方ないか。


 現在、その店には既に無いようなのですが、もし、持っているというかたがいらっしゃれば、当方まで連絡ください。現在のバージョンに無料で改修いたします。


7.エフェクターの製作にはコストと時間がかかるのよ

 あと、2ちゃんの記事で気になったのは、RTD-1A1の価格が\45,000だったことについて、”あんな日曜大工みたいなものが\45,000なんて・・”という発言があったこと。

 RTD-1の部品代は、実は約\16,000、そして製作には、手作業によるケース加工/ラベル貼付、ワイヤリング等によってRTD-1A3でも3日ほどかかるものです。(ガンバレば2日)
 通常、製品の価格とは、”部材費の2〜3倍、プラス、製作にかかる時間による工賃(時間あたり\1,000以上)”という感じでないと決して利益は出ない(⇒赤字)ものですので、\16,000の部材費と最低2日の製作日数のRTD-1は、\45,000でも赤字商売なのです。(現在の\35,000は、実はもっと赤字)
 マッチレスのチューブディストーションなどの中身を見たことありますか? RTD-1よりも遥かに少ない部品数、かつシンプルな回路/コントロールで、元値は5万円以上するでしょ。

 よって、当方の場合、メーカー製のような大量生産を行う資本金など投入できませんので、”日曜大工”に見えるような外観にてコストを下げるしかないものです。

 このあたりが理解できないようならば、一度メーカーに就職して修行してきなさい、そして親元で生活している者は家を出て自活しましょう(⇒家事の時間の必要性と食費等がかかるという意味で)、なんて言う気はないのですが(って書いてるじゃん)、まあ、それだけ電気製品作って売るのはたいへんだってことです。


8.本当に高電圧です

 さらに、”RTD-1は、本当に高電圧作動なの?”なんてきいている人がいらっしゃいましたが、本当に高電圧での作動ですよ。(製作者のオレにきけよ)
 トランスは、250V/30mA および 6.3V/1A(ヒータ用)というものです。御希望であれば、トランスの画像だってお見せしますし、メーカーだってお教えしますよ。(たぶん、このデータでどこのものかわかりますよね。)


 ということで、知りたいことがあるのならば、2ちゃんねるで匿名にてコソコソ書くなどしないで、直接問い合わせてくださいな。 私は逃げも隠れもしませんから、メールを出すなり、BBSに書くなりしてくれれば(あるいはTELしてくだされば)、何でもお答えいたしますですよ。

 ”2ちゃんねるなどを相手にする必要ない”などと言われる人もいらっしゃるかもしれませんが、それでも不特定多数に対して影響力を持つ可能性があるネット上の記事、上記のような認識をみなさんがちゃんとするようにすれば、”安かろう悪かろう”といったようなエフェクター類も少なくなるだろうと思うのです。


(2005年 12月分)

<NGSのチューブディストーションのトラブル、その後の経過>

 実は、これを書いているのは2006年の1月なのですが、年末は身内の者が入院したということもあり(⇒なんと、4年連続で年末には身内の誰かが入院しているのだ)、結局新年が明けてから書いているという状況であります。


1.真の原因とは?

 前回暴露された(?)RTD-1のノイズ問題ですが、その後のトラブル解析にてだいたいの原因はわかりまして、目下、改良品の準備中です。(関係の方々にはたいへん御迷惑をおかけしております。本当に申し訳ありません。)

 基本的には、アースラインが原因では無く、部品のレイアウト及び配線の位置関係のマズさによって、ハイゲイン設定時に回路内部で発振(⇒高域のフィードバック)が発生している状態であったというものです。
 ギターの直接接続時等、ハイインピーダンス機器の接続で発生しやすく、ローインピーダンスの機器では発生しにくいということに関しては、ハイインピーダンス機器の出力信号ではノイズ的な高域成分が多いので、それが発振を誘発しやすくなっていたということのようです。
 ローインピーダンス機器を通ると高域が幾分カットされるので、発振が起きにくくなっていたというわけですが、これによって、アクティブタイプのギターのプリアンプ等での音質の変化がいかにあるかといったことも、あらためて実感したゾ。


2.部品の配置がマヌケでした

 今回のトラブルは、RTD-1A3というバージョンへの移行に当たって、縦置きであったチューブを横置きにし、その他部品共に内部レイアウトを大きく変更したことがアダとなってしまったことであります。
 これらの変更の最大の目的は、チューブソケットからボリュームをはじめとする各部品への配線距離を可能な限り短くし、音質の劣化を極力抑えようというものであったわけですが、この結果、ある種立体配線的なものになってしまった部分もあり、シールドを施していない部分どうしでの発振に結びつくようなノイズの空間伝播(⇒静電誘導)の度合いを増すことになってしまったものです。
 このようなことに注意すべきということは、チューブ回路の基本中の基本であるわけですが、これまでが偶然(?)うまくいっていたということもあり、油断していたのが敗因となっております。(本当にマヌケです。)

 ということで、やはり、伝統的なチューブのオーディオアンプやギターアンプのヘッドのように、”シャーシの上にチューブを突き出し、シャーシ横にボリュームを配し、シャーシ内部でチューブソケットから放射状に配線を行う”というものが、ノイズや発振の防止のために最も良いということを痛感した次第です。


3.市販品では、どう対処しているのか?

 しかし、コンパクトタイプのエフェクターでは、狭いスペースに押し込む必要があるので、ヘッドのような余裕を持った配線はできないわけで、上記のような理想的なレイアウトを施すことが難しいことになるものです。

 よって、一般に市販されているチューブのエフェクターではどのように対処しているのか?という疑問が沸くわけですが、まず、高電圧作動のリアルチューブものでは、ケースを大型化し、各パーツ間に十分な余裕をとるということで対応しているといった、ごく単純かつ確実な対応となります。当方のRTD-1に関しても、”もっと小型化できないのか?”という要求をよく受けるのですが、一見大きく感じるRTD-1も他社の同クラスのもののケースの巨大さに比べれば、けっこう小さいほうなのであります。上述したような発振の危険性から、これ以上の小型化はむずかしいという感じがしてきました。

 ただし、チューブディストーションの元祖とも言えるグヤトーンのTD-1は、約200Vでのプレート電圧で、かつ、かなり小型のケースに入っているということがあります。しかし、TD-1は通常のディストーションのダイオードクリップ回路に相当する、ダイオード2本を通したネガティブフィードバック(負帰還)を施したリミッター回路となっており、ゲインを押さえ、かつ高域の倍音を抑えるようなものとなっているのです。
 これによって、小型のケースでも、発振の危険性等は低いものとなっているようです。

   グヤトーンTD-1

 また、100V程度のプレート電圧の機種でも、初段にオペアンプを使った増幅段やリミッター等を設けているものが多いですので、この時点でのローインピーダンス化と共に、高域の成分は抑えられ、同様に発振の危険性も低くなるものと言えるかと思います。

 そして、9V〜12Vあたりの低電圧作動のハイブリッドチューブものは、オペアンプ回路を主体として歪ませており、チューブは味付け程度ですので、このような形式ならば、最低限の注意事項さえ守って基板の設計、および部品のレイアウトを行えば、発振等の危険無しに、かなりの小型化が可能となります。(⇒最近のチューブを使ったモデリングものも、この範疇のものです。)


4.設計上の注意事項をまとめれば
 
 このようなことで、”どのくらい小型化できるか?”ということは、各部品の大きさ等も重要となりますが、チューブ回路の場合は上記のように作動電圧等も絡んでくることになるわけで、様々な注意が必要となるわけです。

 チューブものの回路を手がけている人もいらっしゃるかもしれませんので、ここで、高電圧作動ものの配線等の注意事項を挙げておくと、以下のようなことがあるかと思います。(⇒ただし、チューブディストーションのようなプリアンプ系の回路に関することです。)

@信号ラインは、できるだけシールド線を使って配線する。

Aシールド線が使えない部分においては、なるべく他の信号ラインと交差することを避ける。

B入出力ジャック、チューブ、ボリュームポッド等のシールドが施されていない部品どうしは極力離すようなレイアウトを心がける。

Cハムノイズの影響を避けるために、トランスと他の部分との位置関係等には注意する。(トランスの電磁シールドはむずかしいので、”信号ラインや電源ラインのループの描く面積ができるだけ小さくなるように配線する”等の手段で対応する。)


 以上は基本中の基本事項ですが、さらに、次のようなことにも注意となります。

@)アースラインはできるだけ太いもの(スズメッキ線等)を1本通した共通ラインとし、1点でシャーシ(ケース)に落とす。(とりあえずは、INPUTの部分近くで落とすのが確実でしょう)

A)各段の信号電流の流れは、アースラインも含めて、可能な限りもとに戻る(⇒一周する)ようなループを形成するようにし、他段の信号電流と混在しないように努める。

B)チューブのソケットの端子からボリューム等の部品までの接続は、できるだけ短いものとする。

C)チューブのヒーターのラインは、流れる電流量が大きいので、アースラインは独立させて電源部アースに戻すようにする。

D)チューブのバイアスが自己バイアス方式の場合、値を深くするほど、ある程度偶数次倍音の比率が増し、まろやかな音になるが、ゲインも低下することになるので注意。

E)200V以上の高電圧でモロに動作させると、意外にも、奇数次倍音の多いワイルドな歪みの音質となりがちで、チューブのパワーアンプの助け等がないと、好ましい音質になりにくい。よって、太めの音が欲しい人は、”オペアンプのリミッター回路+100V作動チューブ1本”といった構成のほうが、求める音を作りやすかったりすることもある。

F)使用するコンデンサの種類等によって音質は異なり、また、使用するチューブの種類(メーカー)によってもゲインや立ち上がり特性等は大きく変わるので、色々な条件で試してみることが必要。

G)増幅各段のカップリングコンデンサの値によって、音質は大きく変化する。値が大き過ぎると、アタック時の立ち上がり特性が悪くなり、結果としてコンプレッション効果がかかったようになるが、逆に値が小さ過ぎると、立ち上がり(レスポンス)は速くなるが、中低域の音が不足してしまう。よって、使用するコンデンサの種類や、使用チューブの特性とも合わせて、十分な検討が必要となる。

H)フェンダーアンプ方式のパッシブのトーンコントロール回路の各定数の設定値は要検討。 フェンダー系の値であると、基本的には中域が大きくカットされることになる。(⇒同時に信号の全体レベルも予想以上に下がっておりますが、理屈的には、これによってS/Nが悪化することにもなります。)
 また、マーシャル系の設定値でも、使用するパワーアンプがチューブのものでないと、けっこう中域の不足はまぬがれない。



 このようなことに注意すれば、十分な歪みの音質、かつ、好ましいアタック時の立ち上がり等も得やすくなるかと思いますが、ハイゲインで使用するチューブのギターアンプでは、一般のオーディオ用のチューブアンプ等とは異なる様々な要素が必要となると言えそうです。

 上の項目でも挙げているように、特に重要なことは、プリアンプ部とパワーアンプ部、そしてスピーカー部を含めた全体として始めて音が決まり、各部の相互関係を考慮した上での設計を行わないと、決して求めるような音は得られないということです。
 よって、例えば、プリアンプ部の設計は、”パワーアンプがチューブか?トランジスタか?”ということを少なくとも前提として行うことが条件となってくるといったことになるわけです。

 したがって、たとえ良い(と言われるような)回路図を手に入れたとしても、簡単に好ましい音を出せるとは限りませんので、結局は状況に合わせて試行錯誤を繰り返しながら、製作上のノウハウをつかんでいくしかないということになるみたいですネ。