<今月のトピックス2006(楽器編)>
・”今月のトピックス(楽器編)”は、楽器に関する注目すべき話題を、思うままに書いてみようというコーナーです。何かみなさんの参考になれば、と思っています。
<目次>
(1月分) <70年代の洋楽ポップスは、良質なメロディラインの宝庫>
(2月分) <弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その1)>
(3月分) <PSE法によるRTD-1への影響について>
<弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その2)>
(4月分) <弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その3)>
(5月分) <弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その4)>
(6月分) <人体アースの効かないジャズベースの話>
<廉価版のギブソン製ギターの音と質とは?>
(7月分) <”オルタネイトピッキング”に関して気になったこと>
(8月分) <ペンタトニックスケールに関する話あれこれ(その1):ペンタトニックスケールの種類と指板上でのポジションフォーム)>
(9月分) <ペンタトニックスケールに関する話あれこれ(その2):ブルースの3コード進行での使い方>
(10月分) <ペンタトニックスケールに関する話あれこれ(その3):ブルースの3コード進行での使い方(続き1)>
(11月分) <ペンタトニックスケールに関する話あれこれ(その4):ブルースの3コード進行での使い方(続き2)>
(12月分) <ペンタトニックスケールに関する話あれこれ(その5):ブルースの3コード進行での使い方(続き3)>
(2006年 1月分)
<70年代の洋楽ポップスは、良質なメロディラインの宝庫>
1.70年代という時代背景
私が生まれたのは1960年代。 この時代は、今になって思ってみれば、最も革新的なアイデアが次々と生み出された時代であり、少なくとも映画やTV等の映像の世界では、スタートレックやサンダーバード、そして国内ではウルトラマンといった金字塔となるものが登場した、未来志向の時代でありました。
これに続く1970年代においては、上記のように、アイデアとしては先進的なものが既に生まれていたとはいえ、それを現実の世界に具現化するには、まだ技術が未熟であったこともあり、四苦八苦したという時代であったような気がします。
ポピュラー音楽の世界でもそれは同じで、ブリティッシュハードロック等、革新的なものは現れていたとは言え、ごく一般向きのバンド系のポップスでは、その演奏技術においての完成は1980年代を待たなければならなかったわけです。
しかし、その演奏技術の未熟さゆえに、楽曲のメロディライン等のクオリティにおいては、各自が頭をしぼって考えられうる全てを生み出していったということがあり、後世にも残る名曲が次々と登場したということが言えるような気がします。 まさに、今日のポップス系の曲のメロディラインのモトネタの多くがこの時代に現れておりますので、作曲を行う際の参考という意味でも、一度聴いてみてはいかがでしょうか。
2.日本のみでの大ヒットもあったということ
日本でヒットした曲だからと言って、それが海外でもヒットするかと言えば、そうでもないという例がたくさんあることからもわかるように、日本人好みのメロディラインといったものは確かに存在します。
したがって、70年代の洋楽ポップスを聴いてみようと思う場合、70年代ものだからと言って、ビルボードのチャート入りをした曲のオムニバス/ベストもののCD等を買ってみても、意外におもしろくないということがよくあります。
しかし近年では、ありがたいことに、当時の日本でのチャート入りをした曲のCDなどが売っておりまして、その代表的なものとしては、”僕達の洋楽ヒット”というシリーズ、さらには、より少々マニアックな曲を集めた”続・僕達の洋楽ヒット”というシリーズなどで、それらの曲を聴くことができるわけです。(CD店の洋楽オムニバスのコーナーには、たいてい置いてあるかと思います。)
また、洋物の70年代ポップスCDでも、ある程度規模の大きいシリーズでは、これらの曲を聴くこともできますので、80年代ものなどを制覇した人は、次に70年代ものにも手を付けてみてはいかがでしょうか。
3.クサくないキャッチーなメロディーということが最大のポイント
80年代からの洋楽ポップスにおいては、良いメロディラインのネタ切れということ、演奏技術のほうにも一般の関心が向いたこと、そして、ひたすら売れ線狙いのシンプルかつわかりやすいメロディを無理に追求していったこと等から、非常にクサいメロの曲が多くなっていったということがあります。
この”クサい/クサくない”といったことは、メロディラインだけでなく、曲全体の構成等に関しても、たいへん重要なことかと思うわけでして、これによってその曲が名曲になるかどうかの分かれ道になるような気もするところです。
しかし、少なくとも、70年代のポップス(日本の歌謡曲も含む)は、メロディラインにかけては、良い意味で非常に計算された”クサくなく、自然で良質のもの”が多数輩出されたわけであり、この”楽器の音等のクオリティに頼らず良い音楽を作る”という姿勢は、ミュージシャン根性としては、たいへん参考になるものであると思うところなのです。
やはり、何事に関しても、”無理やり作っても、結局は、その場しのぎの中身の無いものしかできない”ということで、これは近年の文化に対する警鐘として見ることもできるわけであります。
4.当方が選ぶ名曲ベスト10
ということで、当時小学生であった私ですが、未だに頭の奥底に刻み込まれている曲の数々からベスト10を挙げてみたいかと思います。(いずれも、超有名曲はあえて避け、ちょいとシブめのものばかりです。)
1.そよ風の二人(Don't You Know She Said Hellow)/バタースコッチ(BUTTERSCOTCH)
⇒海外ではイマイチ、しかし日本ではかなりのヒットという曲の典型で、ネット上で検索してみると、未だにこの曲のかなりのファンのかたがいるようです。ベストもののCDで復活するまでは、アナログの国内シングル盤でも非常に入手困難だったのですが、先月、偶然国内盤のアナログシングルを入手でき、感動。(今頃遅いのですが) しかし、本当に良い曲。
2.雨のフィーリング(Here Comes That Rainy Day Feeling Again)/フォーチュンズ(THE FORTUNES)
⇒実にさわやかなイメージの曲。 フォーチュンズというグループは、黒人のかたがたのコーラスグループかと思っていたのですが、英国の白人グループでありました。少々のソウルさも持つ、クサくないポップなメロディの好例です。
3.恋のかけひき(Don't Pull Your Love)/ハミルトン,ジョーフランク&レイノルズ(Hamilton,JoeFrank&Reynolds)
⇒これは、数年前にCMでも使われていた曲なので、けっこう有名かも。 とにかく、キャッチーさの見本のような曲。
4.黒い炎(Get It On)/チェイス(CHASE)
⇒チェイスというグループは、シカゴに対抗し得るものになったはずの、昔で言うところのブラスロックバンドだったのですが、航空機事故でメンバーの半数近くが死亡し、結局解散。 この曲は特に(と言うか唯一)有名で、聴いたことのあるかたも多いかと思いますが、当時、TVでチェイスのライブの映像を見て、本当にカッコ良いと思いましたね。 ブラスバンドブームの近年ではウケそうな感じ。
5.ミスターマンディ(Mr.Monday)/オリジナルキャスト(Original Cast)
⇒女性ボーカルのバンドのけっこうなヒット曲ですが、当時の女性ボーカリストというのは、みなさんなかなかの実力派ばかりで感心いたします。
6.ローズガーデン(ROSE GARDEN)/リン・アンダーソン(LYNN ANDERSON)
⇒リン・アンダーソンは、当時はカントリー系にもジャンル分けされていた女性シンガーですが、この曲は極めてポップな名曲。声がキャンディキャンディの声の松島みのりさんにそっくりだと感じるのは私だけか。(⇒声もポップで親しみやすいということです)
7.愛のテーマ(Love's Theme)/ラブ・アンリミテッド・オーケストラ(THE LOVE UNLIMITED ORCHESTRA)
⇒キャセイ航空のテーマとして使われていたインスト曲なので、おなじみかも。 実は、この曲、本来は歌ものの一部分で、カットしてシングル化したらヒットしてしまったものらしいですが、未だにファンが多い美しいオーケストラ編成の曲です。
8.ハッスル(The Hustle)/ヴァン・マッコイ&ソウルシティ・シンフォニー(VAN McCOY & THE SOUL CITY
SYMPHONY)
⇒この曲の説明はいらないですね。 でも、メロがカワイイ音なのにカッコイイという、その斬新な作りには当時はビックリしたものです。
9.T.S.O.P(ソウル・トレインのテーマ)/MFSB
⇒この曲も有名過ぎるかな。 私は特にソウル/ファンクミュージック好きというわけではないけれども、やっぱりイイ曲です。
10.さすらいのギター(Manchurian Beat)/ベンチャーズ(THE VENTURES)
⇒御存知ベンチャーズのインスト曲ですが、他の有名曲に隠れがちながら、哀愁のメロディラインの名曲です。 ”ハイゲインで歪ませるだけが、ロック系のエレキギターの音ではない”ということをあらためて感じさせてくれます。
このようなことで、私の意外なポップ志向がバレてしまう曲の数々ですが(⇒ギターソロなどほとんど無し)、聴いて損はないものばかりですので、ぜひCD等で捜してみてください。(その他にも、たくさん紹介したい曲はあるのですが、今回はこれだけ)
(2006年 2月分)
<弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その1)>
1−1.”弦のテンション”というものに関して
弦楽器の演奏においては非常に重要な要素となる”弦のテンション”に関しては、当方の質問BBSでもよく話題に上るものですが、ネット上や文献等でも、なかなかまとまった資料が少なく、初心者のかた等では色々と悩んでしまうものです。
当サイトの”意外に知らない基本事項”のページでも、弦のテンションの項は未だに空白でありまして、たいへん申し訳ない次第であるのですが、それだけ色々と難しい内容となるということでもあるわけです。
このように、弦のテンションについて述べる際には十分な注意が必要で、ヘタなことは書けないわけですが、とりあえずは、今回、予告編という感じで、当方でわかっている範囲にて、弦のテンションに関して注目すべきことの概要を書いておきたいかと思います。(BBSでの回答内容や、以前のこのコーナーの記事内容とも重複する部分もありますが、再度の確認ということで、書いておきます。)
1−2.弦のテンションを決める要因
まずは、エレキギター/ベースをメインとさせていただきますが、弦のテンションを決める要因を再度挙げておくと、以下のようになります。
@弦のゲージ
⇒一般に、太い弦ほどテンションは大きくなります。
A弦の構造と材質
⇒一般にワウンド弦よりはプレーン弦のほうがテンションは大きく、また、金属等の材質によってもテンションは変化します。例えば、ニッケルスティール弦よりは、ステンレス弦のほうがテンションは大きくなります。
Bナット→ブリッジ間のスケール
⇒一般にスケールの長いギター/ベースほど、同じチューニングで比較した場合のテンションは大きくなります。
Cナット及びブリッジのサドルからの弦の角度
⇒ナット及びサドルから弦が下方に向かう角度が大きいほど、テンションは大きくなります。ギブソン系のストップドテールピースの高さ調整でのもの等も、これに含まれます。
D弦高
⇒弦高が高いほど、押弦するための力が必要ともなり、見かけ上ということも含め、テンションが大きくなると言うことができます。
1−3.”ナット/サドルからの弦の角度”に関することが話題の中心
ネット上で”弦のテンション”に関する記事を検索すると、多くのサイトに行き着くことができますが、その中にはとんでもなく間違ったことを書いてしまっているところもあります。
逆に、当方も色々と学べるような正しい知識を書いておられるサイトもあり、そのようなところには現在相互リンクを御願いしている最中ですので、許可が取れ次第、御紹介したいかとも思っております。(⇒この点について正しいことが書かれているサイトは、全体としても好感が持てるものが多かったりするのです。)
このような話の中で、弦のテンションに関する間違った知識というのは、そのほとんどは、上記1−2項のCに関することであり、つまり、”ナットやサドルからの弦の角度はテンションには関係ない”と堂々と書いてしまっているサイトが存在するということであります。
この中には、リペアの仕事をされているかたもいらっしゃったりしまして、今まで何をされてきたのだろうか?と不安になることしきりであります。
また、わざわざ物理的実験を行った上で書いているかたもいたりして困ってしまうのですが、例えば”レス・ポールモデルのストップドテールピースの高さ調整にて、弦のテンション感が変化すること”は、私の経験から言っても、また、私のまわりのかたがた(プロのかたも含む)にきいても、確かな事実なわけです。
また、”ヘッドに角度をつけてテンションをかせぐ”ということも、クラシックギターにおいても行われていることですので、弦楽器製作においては、古来から確立されている技術であるかと思います。
したがって、とにかく、”ナット及びサドルから弦が下方に向かう角度によって、弦のテンションは確かに変化する”と言って良いと考えられます。
1−4.なぜ誤解を招くのか
実際にギターを弾かれるかたが、”ナット/サドルからの弦の角度はテンションには関係ない”と言われるのは、基本的には”演奏技術の追求が足りない”としか考えようがないのですが(⇒普通は、色々と試していけば明らかにわかるであろうものでしょう。)、物理的な考察を行って間違えてしまうということについては、とりあえずワケがあります。
弦楽器における”弦のテンション”というものに関しては、高校物理における”弦の振動”の項に書いてあるような知識で考えると間違いを起こすことになり、この点が、多くの誤解を招いている要因でもあります。
高校物理の”弦の振動”の内容では、弦の張力や振動の周波数といったものは、弦の線密度や断面積、そして長さ等によって決まるとされますので、弦楽器における弦の振動でも、ナットやサドルからの弦の角度という要素は関係ないものとみられがちです。
しかし、これは、ナットとサドルにおいて弦が完全に固定されている条件でのものに近く、フロイドローズ等のロック式のギターであればともかく、一般的なギターでの実際の弦の振動等では、これらとは異なるものとなってくるものです。
弦を押弦した状態、弦をチョーキングした状態、そして弦が振動している各状態等においては、弦は通常の状態よりも伸びるわけですが、この時、弦が伸びるのはナットとサドル間だけでなく、ナットからペグまでの間(⇒さらにはペグに巻かれている部分も)、また、サドルからテールピースまでの間でも引っ張られ、伸ばされることになります。
すなわち、弦楽器における弦の振動等においては、弦はナットやサドル部分を含む長い範囲で伸びたり縮んだりしているというわけですが、このようなフィールドで考えれば、物理の”弦の振動”の項で言うところのテンション(張力)とは、ナットとサドル間で生ずる、あくまでも理想的状態での”静的テンション”といったようなものであるのに対し、実際の弦楽器で問題とされるテンションとは、ナットやサドル部を含む全体での”動的なテンション”とでも言えるものとなります。
そして、ナット上/サドル上での現象は、”弦の振動”の項で出てくるようなことではなく、物理の初期に出てくる力学の内容(⇒特に摩擦力あたり)にて考察すべき問題となってくると考えられます。
⇒以下、次回へ続く
(2006年 3月分)
<PSE法によるRTD-1への影響について>
未だ最終的な結論が出ていないPSE法(電気用品安全法)ですが、当方にて製作/販売を行っているチューブディストーションRTD-1に関しても、この対象品となってしまいますので、今後の対応等をここらで書いておくことにいたします。
今回のPSE法というものは、結局はお役人が中古の電気製品や電子楽器のことを考慮するのを忘れて話を進めてしまったもののようで、それゆえに一気に社会的大問題となってしまったわけです。
しかし、もともとPSE法の背景となる、民間委託を行って公的機関の負担を軽減するための規制緩和ということのウラには、検査機関への天下りといったおなじみの問題も関わってきそうな気配ですので、やはりこのような怪しげな法には、国民が多いに騒いで、つぶす方向に持っていくべきとなるものでしょう。
それはそれとして、PSE法において、ギターアンプやエフェクターがかかわる部分としては、”AC100Vによる電源回路を内蔵しているタイプの機器は、AC電源用のプラグとシャーシ(ケース)間において漏電がないこと”ということがメインとなるようです。(⇒ACアダプターを使用するものは、とりあえずは、規制実施はまだ先になるようで、その場合もACアダプター本体のみが規制対象となるものです。)
”AC100Vでの電源回路”とは、通常は、”電圧変換のためのトランスを内蔵している”ということに等しいですので、結局は、”トランスの1次側とアース間がショートしていないこと”が条件となるわけですが、一般のギターアンプ等だけでなく、当方のRTD-1のような、AC100Vのケーブルを持ち、トランスを内蔵しているチューブディストーションのようなものは全て規制の対象となってしまうものです。
したがって、PSE法が施行されてしまえば、当方のような個人で製作/製作販売を行っているところでも、しっかりと試験を行い、PSEマークを付けた上で販売することが義務となり、これに違反したことを行ってバレれば、罰金が課されることになります。(その他、1つ1つの品ごとの試験データをしっかりとした形で数年間残すこと、という規定もあります。)
ただし、漏電の確認試験とは言っても、1000V(⇒1kV)で1分間の電圧印加に耐えることが条件でありますので、テスターで導通の有無を調べる等だけではダメであり、基本的には専用の計測器を使用する必要があります。
よって、この計測器は10万円以上するのですが、PSE法が実際に施行されてしまえば、当方はこの種の機器を購入して試験行い、PSEマークを付けた上でRTD-1を出荷するということにならざるを得ません。したがって、とりあえず当方に関しては、品そのものは従来通りでOKとは言え、計測器分の出費を良しとするかどうか?ということになってくるものです。(⇒ただでさえ予算が無いゆえ、けっこう深刻な問題です。)
この漏電の試験方法に関しては、まずACプラグの左右2本の端子を電線で接続するなりしてショートさせた上で、この部分とシャーシ/ケース等のアース部との間に1kVの電圧を1分間かけ、絶縁性を計測するということになるわけですが、RTD-1のようなプリアンプ/エフェクター的なものの多くは、通常はこの試験でダメージを負うことはないものと考えられます。(⇒通常、トランスの1次側(100VAC側)と内部の回路のアース部は、完全に絶縁されています。)
しかし、ギターアンプやオーディオアンプ等では、アース部をコンデンサーを通じて、AC100Vラインのどちらか片方に接続してあり(⇒交流的な接地)、アース電位の安定化ならびにノイズの減少を図る構造となっているものが少なくないものです。(⇒ギターアンプにあるグラウンドスイッチは、これに関する機能です。)
したがって、このコンデンサーの耐圧の定格値(⇒両端に電圧をかけた場合に絶えられる電圧の大きさ)が1kV以下であると、コンデンサーは壊れてしまいますが、通常は、かけられる可能性のある電圧の2倍以上の定格のものを使うようにしますので、このコンデンサーは2kV〜3kV程度のものが使用されていないとマズイということになります。
近年の製品のこのあたりのことについては、よくわからないのですが、古い製品では、1kV以下の定格でのものがありますので、上記のような試験を行えば、少なくとも、このアース接続用のコンデンサが壊れてしまうという状況が出てくると言えるでしょうか。
中古楽器を扱う店で、この問題をどう扱うつもりかは不明ですが、まともに試験を行えば、このようなリスクを背負うということは、覚えておくべきということになるでしょう。
よって、やはり、PSE法が消滅してくれることを希望しますね。
<弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その2)>
2−1.テンションが増すと何が起こるのか?
前回、テンションを変化させる主な要因を挙げましたが、この”テンションの変化”によって、何が起こるのか?という肝心なことを書くのを忘れておりました。誠に申し訳ありません。
つきましては、以下にテンション変化によって生ずる主たる現象を挙げておきます。
@)張りのある音質になる
⇒テンションが大きくなると、弦の振動状態が変わり、その倍音構成も変化するため、文字通り、より張りのあるしまった音質となります。
A)弦のビビリ等の発生状態が変わる
⇒弦のテンションが変化すると、(振幅の大きさ等を含む)弦の振動中の状態が変わり、フレットへの弦の接触、すなわちビビリ等の発生具合も異なってくることになります。基本的には、テンションが大きくなるほど、弦のビビリの頻度は小さくなるはずです。
B)押弦に際し、より力が必要になる
⇒押弦時に指先が受ける弦からの抗力が増しますので、より強い力で弦を押さえることが必要となります。これに関しては、演奏する上でのマイナス要因となります。
C)チョーキングやビブラートの際に、より力が必要になる
⇒B)と同様に、弦からの抗力は増しますから、チョーキングやビブラートのために弦を持ち上げたり引き下げたりする力が、より必要になります。 これに関しても、演奏上でのマイナス要因となります。
D)ピッキングのタッチ感が変化する
⇒このことがプラス要因になるか、マイナス要因になるかは演奏者の考え方次第となりますが、少なくとも、”ピッキング時の弦からの抗力がある程度あったほうが弾きやすいので、テンションを上げてみる”といったように、故意に弾きやすいテンション状態に設定することは出来ることになります。
このように、”弦のテンションを変える”ということの目的は、”音質を各自が好みの状態にする”ということがまずは第一、そして、”演奏する上でのフィーリングを好みのものに持っていく”といったことがその次という感じとなるでしょうか。
2−2.弦が振動することによって始めて生じる種類の”テンション”であるという事実が重要
先月分の内容において、”静的”/”動的”という表現を用いましたが、2−1項の内容からもわかるように、弦楽器において”テンション”という言葉で論じられるものとは、基本的には、”弦をピッキングする”、”チョーキングする”、そして”押弦する”といった行為に対して始めて生ずるものと言えるわけです。
要するに、”これらの行為に対する抗力として始めて発生するもの”ということであり、これはピッキングによって弦が振動し続けている間にも常に存在するものです。
これに対し、高校物理で言うところの弦の振動における”テンション(張力)”とは、弦が振動する前の時点から恒常的に加わっている一定値として定義されるものであり、弦楽器において言えば、チューニングした弦がまだ振動していない段階で、この両端を支えているペグやテールピース等が受けている力と考えることができます。
したがって、この両者は、異なるフィールドで考えなくてはならないことになるわけです。(⇒基本的には、高校物理での”テンション(張力)”は、現実での要素を省略し、現象を最も簡素化して、あくまでも基本を学ぶために定義されたものゆえに、そのようなことになるわけですが)
この部分を踏まえてかからないと、”レス・ポールモデルのテイルピースの高さを変えても、演奏におけるテンション感は変わらない”といったような考え方が、先入観的にも生まれてきてしまうことになるものと思われます。
⇒以下、さらに次回へ続く
(2006年 4月分)
<弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その3)>
3−1.”テンション感”という形での存在
前回、弦楽器の演奏において”テンション”と言われるものは、弦に何らかの力を加えたり、弦が振動したりする場合に初めて生ずる種のものであるということを書きました。
これにおいて、特に、押弦やビブラート/チョーキングといった行為で生ずるテンションは、恒常的に存在するテンション(張力)と区別するためにも、”テンション感”とでも呼んだほうが良いかもしれません。
そして、このある意味見かけ上の存在でもある”テンション感”というものが、多くの誤解を招く要因となってしまっていると言えそうです。
3−2.張力のバランス関係ということについての再確認
さて、今回から、いよいよ物理的な考察をもって、この”テンション感”というものの正体を探っていこうというわけですが、まずは、張力というものに関係する基本要素を再度確認しておきたいかと思います。
下に載せたものは、高校物理のかなり最初のほうでよく出される例題の1つです。要は、高さの異なる面からそれぞれ両端を吊るされた糸に、おもりのついた滑車がかかってバランスが保たれている場合、両端の糸に働いている張力T1とT2の値の関係はどのようであるか?という問題です。”こんなの簡単だ”と言うかたもいらっしゃるかと思いますが、まずは、少々考えてみてください。
いかがでしょうか。
”なめらかな”ということで、この動滑車は摩擦等のない理想状態ということにもなりますので、答えは@ということになります。
すなわち、T1とT2の方向が異なっていても(⇒T1とT2に角度がついていても)、また、固定端の高さに差が合っても、バランスがとれている状態であれば、必ず両端の張力は等しいということなわけです。
3−3.サドルでの弦の角度に関してもこれは同じ
上記の事実は、ギターのサドルまわりに置き換えても同様です。
下図(⇒ギターのブリッジのサドル部分を横からみた状態の図)を見ていただければわかるように、サドルから下方へと、弦に角度をつけても、バランスがとれている状態(定常状態)では、角度をつけていない時と同様に、”T1=T2”となるわけです。
3−4.”理想状態では、音の高さ(周波数)が同じであれば張力は同じ”ということ
ここで、これまた高校物理の内容になりますが、理想状態において弦を振動させた場合の音の高さの周波数と弦の長さ、張力等の関係式は次のようになります。
任意の倍音の周波数 fn=(n/2L)×√(T/ρ)
( ただし、n:倍音の次数、L:弦の振動する長さ、T:弦に加わっている張力、ρ:線密度 )
nやρなど、少々めんどうな定数が入ってしまっておりますが、これが意味するところを簡単に言えば、
”同じ弦であれば、弦を振動させた場合に出る音の高さは、基本的には振動する部分の長さと張力のみによって決まる”
ということです。
また、表現を変えれば、
”同一の弦であれば、サドルにおいて弦に角度を付けても付けなくても、弦を振動させた場合に出る音の高さ(周波数)が同じであれば張力が変わることはない”
ということになります。
つまり、結論としては、
”同じ音になるように弦をチューニングすれば、その時の弦の張力は一定であり、サドルの角度には影響されない”
ということでありまして、これを見る限り、弦に角度をつけても、音質等には変化がありそうにはないわけです。
ただし、この事実は、”ナット⇒サドル間のみの弦が理想的な状態で振動する場合”という条件下で成り立つということが、重要なポイントであります。
⇒以下、さらに次回に続く
(2006年 5月分)
<弦のテンションに関して、今一度明らかにしておきましょう(その4)>
4−1.前回の確認、そして、いよいよ本題へ突入
前回分の内容では、”理想状態の下で、サドル部で弦に角度を付けたとしても、張力さえ同じであれば、弦を振動させた場合の音の高さも同じであり、音質等に変化は出てこないであろう”といった旨のことを書きました。
しかし、実際のギター等の弦楽器においては、以下のような重要な要素が加わってくることには注意する必要があるわけです。(これらのことも、既にある程度触れていることですが)
@ 実際のギターにおいては、サドル部やナット部で弦は完全に固定されておらず、サドルからテールピース部(弦のボールエンド部)まで、及びナットからペグまでの部分も、押弦時やチョーキング時、そして弦の振動中に”ナット⇒サドル”間の弦の動作に応じて伸縮する。
A ギター演奏において、”弦のテンション(テンション感)”と言われるものは、押弦した場合のタッチ感、チョーキングやビブラート時に弦を持ち上げる(引き下げる)過程で感じる弦からの抵抗力等が含まれ、弦の静止状態での弦にかかっている張力自体のこととは幾分ニュアンスが異なるものである。
このようなことで、”ギターを弾く際に演奏者が指先で感じる各種のフィーリング、そして最終的に得られる音質”とは、”ナット部やサドル部を含む、ペグからテールピースまでの弦全体”で、かつ、”弦の安定(静止)状態では無く、弦が何らかの動きを行っている(行わされている)状態”で考察する必要があるというわけです。
4−2.”ナット⇒サドル間”以外でも弦は伸縮しているという事実の確認
上述した”ナット⇒サドル間”以外の部分でも弦が伸縮しているということは、レス・ポールモデルにおいて”ナット⇒ペグ間”の弦を押したり引っ張ったりするとピッチ(音程)が上がるといったことから考えても、容易に想像がつくかとも思いますが、これが通常のチョーキング時にも当たり前のように発生しているということなどは、実は、簡単な実験で確認することが可能です。
例えば、その方法の1つとして、フロイドローズ方式のロック式アームユニットを使うものが挙げられます。
フロイドローズ方式では、ナット部で弦をロックしてしまいますので、この状態では、ナットからペグまでの弦の伸縮というものは完全に無くなるわけです。これによって、アーム使用時の弦のたるみによるチューニングの狂いを防げるわけですが、チョーキング時においても、これの影響が現れる可能性が出てきます。
すなわち、この部分の弦の伸びが無くなる分、弦全体での伸び量が少なくなるため、理屈的には、より少ない弦の持ち上げ量で、求める音の高さに到達できることになるはずです。
フロイドローズのロック式ナット
このチョーキング時への影響を確認するには、ナット部で”ロックした場合”と”ロックしない場合”とで、同じ音の高さになるチョーキング時の弦の持ち上げ量を測定すれば良いことになります。
例えば、下の画像のように、任意のフレット部(画像では12フレット部)に、スケール紙(グラフ用紙)を貼り付け、目標の音の高さになる位置をチェックすることを行います。今回、12フレット部の目盛りがよく見えるように、3弦9フレットにて1音チョーキングを行うものとし、クロマチックチューナーにて音名を確認しながらG♭の音になる位置を測定してみました。(強く押弦し過ぎることによって、ピッチが上がってしまうこと等には注意となります。)
12フレット位置にスケールを貼り付け
弦を持ち上げる量を測定
ということで、結果としては、ナット部でロックしていない状態に比べ、ロックした状態では、約1mmほど少ない持ち上げ量でG♭に達することが確認できました。(⇒フロイドローズ使用時には、この持ち上げ量の差には注意すべきということでもあります。)
本当は、もっとたくさんの測定値を出して検証すべきなのですが、今回は御了承ください。
4−3.テンション感の源は”ナットやサドルからの抗力”であるということ
4−2項の内容から、通常の押弦時やチョーキング時には、ナットからペグまでの部分の弦も、引っ張られたり戻されたりして伸縮することをあらためて理解していただけたかと思いますし、また、この伸縮の度合いが異なれば、チョーキング時のフィーリングにも直ちに影響するといったことも理解できるかと思います。
しかし、最も重要なことは、このナット⇒ペグ間の弦が動くということは、弦がナットに接触している部分から摩擦力を受けながら動いていくということです。
このことは、サドル部の弦との接触点においても同様なわけですが、例えば、チョーキングするために弦を持ち上げようとした場合、サドルから受ける摩擦力に打ち勝つような力を加えながら、サドル⇒テールピース間”の弦を引っ張り出す必要が出てくるということになります。
もちろん、先に挙げたようなフロイドローズのユニットでは、ナット部とサドル部付近で弦をロックしてしまうため、このような摩擦力はゼロに近くなりますが、通常の方式では、ナットやサドルの接触部の形状や材質に伴った摩擦力を受けることになります。
この状態を、高校物理的に最もシンプルに表せば、摩擦力は下の図4-3-1のように接触点からの効力に比例することになってきますが、この抗力とは、サドル部からの弦の角度量にも比例することになるはずです。(角度ゼロ(水平)にした時は抗力もゼロに近くなり、摩擦力もゼロに近くなります。)
サドルから弦に角度を付けていない状態ではFa1で済んでいたチョーキングのための力が、弦に角度を付けることによって、摩擦力fm分だけ余計に必要なことになってきます。(ただし、これらの力は、前回書いたように、張力T1/T2がサドルの両側でバランスをとれている状態の上に加わるものとなります。)
実際には、接触点(接触面)の形状は複雑ですので、図4-3-2のように各部を総合して算出すべきものとなってくるかと思いますが、いずれにせよ、チョーキングして求める音の高さになってバランスするまでの間(⇒弦を持ち上げ切るまでの間)は、上記のような力を受けるわけです。すなわち、角度をつけるほど、チョーキングした定常状態を作り出すためには、”その過程において、より力を必要とする”ということであり、これこそが”テンション感”であると言えるのではないでしょうか。(⇒物理的に言えば、”その過程において、より仕事をする必要がある”ということで表されるものとなるでしょう。)
図4-3-1
図4-3-2
4−4.押弦時も同様、そして弦の振動時にも影響をもたらすこと
4−3項で説明した事実は、基本的にはチョーキングと同じ動作であるビブラートでも成立することになりますが、通常の押弦時にも、弦が伸びながら押さえ付けられることになりますので、押弦の動作を行っている過程では、同様にナットやサドルからの力が加わるはずです。
したがって、この場合も弦の角度に応じたテンション感の相違が生まれることになります。
そしてさらには、弦がピッキングされて振動している状態においても、弦は伸縮しますから、同じ状況が出てくるのではないでしょうか。
弦が振動中にナットやサドルから力を受ければ、サスティーンのみならず、弦の振動の形態への影響により、倍音構成が変化し、音質が変わってくることが予想されそうです。サドル部で、弦により大きく角度をつければ、振動中の弦への抗力が増し、基本周波数が同じであっても高域寄りの倍音成分の比率が増し(⇒波長の短い成分が増す)、よりしまった音質に向かうといったことが考えられます。
4−5.結論とまとめ
以上、4回にわたって長々と書いてきましたが、これらの内容は、あくまでも考え方の概略的なものに過ぎず、しっかりとした結論を導くにはさらに詳細なデータの収集と分析が必要なことにはなりそうです。
しかし、今回の内容だけでも、ブリッジまわりや、ナットまわりで弦に角度を付けるということが、音質や演奏フィーリングに関わる”テンション感”というものに大いに関係することが確認できるのではないでしょうか。
最後に、この一連の記事の初期に書いておきながら、掲載するのが後になってしまったのですが、今回述べた”弦のテンション”に関して、誤った内容を載せているサイトが多い中、しっかりとした正しい意見を載せていらっしゃるサイトを2つほど紹介させていただきたいかと思います。
boogie's homepage : http://www.t3.rim.or.jp/~boogie/index.html
Joe Forest GuitarHouse : http://www.joeforest.net/index.html
(2006年 6月分)
これを書いているのは7月末。 6月〜7月はアレコレと注文が集中し、6月16日から40日間昼夜休まずにストラップを作り続けるという状況に陥ってしまいまして、やっと一段落したところです。
そのため、またまた例によって、遅れに遅れた掲載となってしまっております。(すみません)
今回は、最近出会った楽器の話を2つ。
<人体アースの効かないジャズベースの話>
1.アースラインに不良があったフェンダージャパンのジャズベース
先日、当方の生徒さんが、使用されているフェンダージャパン製のジャズベースのノイズが大きいということで、相談に来られました。
まず、状況の確認を行ってみると、弦やブリッジに手(指)を触れてみてもアンプからのノイズ音は低減せず、逆に大きくなってしまうといった状態です。
これはベース本体のアースラインの異常であろうということで、テスターでアースラインの導通チェックを行ってみると、ブリッジと出力ジャックのアース部の間の抵抗値が数百オームあるといった状態で、明らかにアースの経路に接触不良があるようです。
では、どの部分が要因であるのか?を調べていったのですが、ジャズベでは、ボリュームのポッドのケース等のアース部がケーブルで接続されておらず、ボリューム部の金属プレートが各部のアースラインを接続する全ての役目を担っていることを思い出しました。
私は、オリジナルのフェンダーのジャズベも全てが同様な仕組みであるのかどうかがわからないのですが、この方式ですと、金属プレートへのボリュームポッドのネジ止めが不完全であったり、両者の接触面に汚れ等があると、接触不良が発生し、弦がブリッジ等を通して出力ジャックのアース部までの接続が不完全となり、弦に触っても人体アースが十分にとれないことになってしまいます。
作業をしているうちに、全く同様な状態のジャズベを以前にも見たことがあるのを思い出したのですが、今回のものは、金属プレートにサビが生じて、メッキ部が浮き上がったりしていたための接触不良のようです。
いずれにしても、このような実例を見ると、この方式はけっこう問題があるのではないかということになります。(⇒ボリュームポッドとシャーシのネジ止め等における接触の不確実さというものは、各種電気機器の製作においてよく経験するものであり、これだけに頼るのはけっこう危険なことです。)
いずれにせよ、とりあえずの対策としては、ボリュームポッドのケース間を新たにアースライン用のケーブルを追加して、(ハンダ付けして)接続すれば良いわけで、実際、このようなことを施すと、ブリッジと出力ジャック間の抵抗値も数百ミリオームレベルになり、弦を触って人体アースをとった場合のノイズも通常レベルに下がりました。(⇒理屈上は、アースラインが2系統あって、ループを作ってしまうのは、ノイズの増加等を招く恐れがあるわけで、あまり良いわけではないのですが、もともとノイズの多い、パッシブ回路のベースにおいては、それほど気にする必要はないかと思います。)
ということで、このトラブルは他でも発生しているはずで、フェンダージャパンさん等でも既に対策を打っているかもしれません。
しかし、店頭在庫や、中古市場ではまだこの状態のものが残っている可能性もありますので、フェンダージャパンさん以外のメーカーにものも含め、ジャズベースでノイズが大きく感じる等のかたがいらっしゃれば、 このあたりのチェックをしてみることをお薦めいたします。
2.人体アースの原理とは?
ここで、人体アースとは、そもそも何か?ということについて念のため簡単に書いておこうかと思います。楽器関連の雑誌等でも、時折解説が載っておりますが、いざ知ろうとして調べてみても、解説を捜し当てられないというのが現状であるようです。(当方のサイトの”意外に知らない基本事項”の人体アースの項目にも未だに書いておらず、申し訳ありません。今回の記事をもって、ある程度の答えとさせていただきます。)
御存知のようにエレキギター/ベースとは、弦の振動をピックアップによって電気信号に変換し、それをアンプによって増幅等した後、最終的にスピーカーにて音波として出力するといったものです。
したがって、ピックアップによって作られた電気信号は、弦の振動にできるだけ忠実でないといけないわけで、ノイズの混入等もたいへん問題視されるわけです。
ところで、電気信号とは電圧値でその瞬間の大きさを表すものですが、電圧値とは基準となる電圧部分があってこそ、それとの差の形で明確に決まるものとなります。(⇒コード(和音)におけるルート音と他の構成音との音程関係のようなものです。)
この種のものは電位差という言葉で表すべきものにもなるわけですが、この電圧の基準となる部分がアース(アースライン)というものであり、これがしっかりとしていて、その基準電圧値が安定していないと、電気信号全体も変動してしまい、電気楽器等においては、それはそのままスピーカーからの音にも悪影響を及ぼしてしまいます。
ピックアップからの信号の各部の電圧値の定義
このアースラインにおける基準電圧の値は、とりあえずはゼロボルト(0V)とするわけですが、基本的にはギター/ベースアンプの本体のシャーシやケースの電圧値(電位)がそれに当たると思っていただければ良いものです。(⇒使用されている機器系で最も大きな面積/体積を持つ導体(⇒電気を通すもの)部分を最も安定した電位を持つアース(基準)部分とすることができます。)
そして、エレキギター/ベース本体は、シールド(ケーブル)によってアンプに接続されますが、アンプのシャーシ上からのアース部は、シールドのシールド部(編み線部)によってギター/ベース本体のアース部まで接続させることになります。 しかし、この導通状態は、長いケーブルでのものということもあり、理想的とは言えないもので、楽器本体でのアース部の電位はアンプでのアース部の電位とはきっちりと同じとはならず、けっこう不安定なものとなってしまいます。(⇒基本的には、太くて短い、抵抗値のできるだけ小さい電線等で接続するほど、両者の電位は等しく安定したものとなります。)
この不安定さとは、楽器本体のアース部における基準電位自体がフラフラと動くようなものであり、外部からノイズを受けるとそれに影響されて動いてしまい、その変動はそのまま電気信号全体へ反映され、アンプのスピーカーからのノイズ音となって出てくることになります。(⇒蛍光灯や、パソコンのモニター、TVのブラウン管からのノイズ等の影響がその代表です。)
この楽器上のアース電位の不安定さの対策として行われるものが人体アースと言われるものであり、アースラインをブリッジに接続してやると、ブリッジは導体である弦につながることになりますから、演奏するために弦を押弦すれば、結局はアースラインが人体に接続されることになります。
このようにすると、人間の体もかなりの大きさを持ったある程度の導体でありますので、安定した電位が確保されることになるわけです。もちろん、機器のシャーシアース部とは、頼りないとは言え、シールドでつながっておりますので、正確な波形で楽器の出力信号はアンプまで伝送されます。
ということで、私も若かりし頃は、人体を通じてノイズ信号分を床に逃がしてやっているんじゃないかなどというバカげた解釈をしてしまっていたこともあったのですが(⇒本当にバカ)、要は、”基準電位の安定化”ということが、人体アースの基本原理であります。
<廉価版のギブソン製ギターの音と質とは?>
近年、ギブソンやフェンダー等の有名メーカーにおいて、"made in USA" ながら、10万円前後の安いモデルが多数現れております。
このような製品の解説を見ると、塗装を薄くすることでコストの低減を行った等のことが書かれているのですが、逆に薄い塗装によって、よりナチュラルな音質となるなんてことも載っていたりします。(何だか、ケムリに巻かれるような流れですが)
先日も、当方の生徒のかたが、友人のかたから借りたということで、そのような廉価版のレス・ポールスペシャルを持ってこられたので、チョイと弾かせていただいたのですが、まず、音は軽めとは言え、けっこう良い音質であります。
”こりゃ確かに薄い塗装という低コスト化のための手段が逆に良い方向に働いているのかね”、なんて感じてしまいましたが、とりあえずピックアップの音もそれなりに実用レベルのものではあるようです。(⇒もちろん、塗装面の見た目は、簡略塗装ということですので、あくまでもそれなりのレベル)
ネックは太めで、従来のギブソンのレス・ポールにもよくありがちなものでありますが、何となく細かい部分で荒っぽい感触がするような気もするものであり、ズドーンとカマボコ型の断面が続いているというようなイメージではあります。
そして問題は、ペグに不良部分があったということで、クルーソンデラックスのタイプが付いていたのですが、チューニング時にペグを回しているうちにペグのケース(フタ)が浮き上がってきたのにはビックリ。ペグ本体への固定に不良があるようですが、これは非常に珍しい種の不良です。
このギター自身には、"made in USA"と書いてあるのですが、それぞれのパーツ(塗装された本体のみといったレベルのパーツまでも)は中国やメキシコ製で、組み立てのみ米国で行ったものかもしれません。よって、Gibson
Deluxeのネームが入っているそのペグも中国製等なのかな。
後日ペグを交換してもらい、正常なものになったようですが、ペグ単体での組み立て時の不良なのでしょうか。
ということで、廉価版のものは、やはり、どこかしら手が抜かれている部分があったりする可能性があるようですので、購入する際には、より十分なチェックが必要ということになるのでしょう。
(2006年 7月分)
<”オルタネイトピッキング”に関して気になったこと>
先日、ギターマガジンにて、オルタネイトピッキングの特集がありまして、それにおいては、まず”ダウンピッキングとアップピッキングの基本”というものが載っていたのですが、”本当にこれを基本として良いのか?”ということで少々気になってしまいました。
以下に示すような図の方向で、ダウン/アップピッキングを行うことがお薦めのものとしてあったのですが、要はダウン時には、ピッキング方向は幾分ギターのボディ上面に向かうようなもの、そして、アップ時にはその反対にボディ上面から離れるようなものとしてあったわけです。
お薦めとして載っていたピッキング方向
みなさんは、これを見てどのように思われるでしょうか? 確かに、ダウンピッキング時にピックをボディ上面に押し付けるようにするというのは、宮脇敏郎先生あたりも推薦のもので、実施されているかたもいらっしゃるかもしれません。
この方法に関しては、ボディ上面に向かってピッキングすると、弦がピックから抜ける際にピック先端部のより狭い部分を経由して抜けることになるので、高域の倍音がより含まれ、輪郭のある鋭い音質になるという特徴があります。
これに対し、通常の横方向等へのピッキング動作では、ピック先端がしなる(硬いピックの場合は、傾いた)状態で、比較的幅のあるピックの部分を経由して弦が抜けていくことになるので、ボディ上面に向かう場合よりは、高域の倍音は発生せず、幾分丸い音質となるわけです。
したがって、上記の図のようなものも1つのピッキング方法としてアリとなるわけですが、問題となるのは、場合によっては、ダウン時とアップ時で音質が幾分変わってしまう可能性があるということです。
ピックが柔らかめで十分にしなる場合や、弱めのピッキングの場合はだいじょうぶかと思いますが、ハードタイプであまりしならないようなピックを使用する場合や、ピッキングがある程度強いかたの場合は、ダウン時にはサドルの上面方向に弦が押し付けられ、アップ時にはそれが無いということから、両者の音質は少々異なることになってきます。
これは、実際に試してみていただければ実感できるかと思いますが、ダウン/アップで均等な音質/音量ということが前提となるオルタネイトピッキングにおいては憂慮すべきものとなってしまうでしょう。
ジャズやフュージョン等のジャンルでの演奏や、弱めのピッキングであれば良いのかもしれませんが、少なくともロック系でのパワフルなピッキングということを考えると、ちょいとマズイのでは。
宮脇先生が言われているものも、ダウンピッキングのみで弾く場合等でのものを指されているのかとも思いますし。
ということで、私としては、ギターマガジン掲載のものは、使用するピックと演奏ジャンルの制限付きで、かつ、ピッキングの応用的なバリエーションの1つとしてとらえていたほうが良いのかと思います。
やはり、オルタネイトピッキングの基本は、ダウン/アップを等しい状態で行うため、下図のような横方向へのピッキングを基本と考えていただきたいかと思うわけであります。
当方としてお薦めしたいピッキングの基本
(2006年 8月分)
(ペンタトニックスケールに関する話あれこれ :その1)
<ペンタトニックスケールの種類と指板上でのポジションフォーム)>
今月からしばらくの間、ロック系ギター/ベースの演奏ではおなじみのペンタトニックスケールの活用法に関して、役に立ちそうな話を書いていきたいかと思います。
・ペンタトニックスケールの再確認
まずは、ペンタトニックスケールというものはどのようなものか?ということについて、念のために再確認しておきたいかと思います。
一般的には、5つの音から出来ている音階(5音音階)のことを”ペンタトニックスケール”というわけで、沖縄音階等も含め、世の中には様々なペンタトニックスケールが存在しておりますが、ロック/ジャズ系の音楽におけるものは、ブルースからの流れによるペンタトニックスケールです。
これにおいては、メジャーペンタトニックスケールとマイナーペンタトニックスケールがあるわけですが、一般のかたがペンタトニックスケールとしてイメージされるものは、この2種のうち、マイナーペンタトニックスケールを指していることが多いようですね。
音楽理論的に表せば、まず、メジャーペンタトニックスケールとは、メジャースケールを構成する7つの音から第4音と第7音を抜いてしまったものと定義できます。
例えば、Cメジャーペンタトニックスケールの場合、Cメジャースケールの構成音”C D E F G A B”から、FとBを抜いて、”C D E G A”という5つの音にしてしまったものとなりますが、一般表記としてディグリーを用いて表すと、”T U V W X Y Z”から、WとZを抜いて、”T U V X Y”となるものがメジャーペンタトニックスケールとなります。
次に、マイナーペンタトニックスケールは、ナチュラルマイナースケールを構成する7つの音から、第2音と第6音を抜いたものとなります。
例えば、Aマイナーペンタトニックスケールの場合、Aナチュラルマイナースケールの構成音”A B C D E F G”から、BとFを抜いて、”A C D E G”という5つの音にしてしまったものとなり、ディグリー表記では、”T U ♭V W X ♭Y ♭Z”から、Uと♭Yを抜いて、”T ♭V W X ♭Z”となります。(⇒マイナーペンタトニックスケールの♭Vと♭Zの音はブルーノートですので、マイナーペンタトニックスケールのことをブルーノートペンタトニックスケールと呼ぶこともあります。)
また、Aナチュラルマイナースケールは、御存知のようにCメジャースケールの第6音(Y)を先頭(トニック)にして並び換えたもので、両者はいわゆる”平行調”の関係となるわけですが、Aマイナーペンタトニックスケールも、Cメジャーペンタトニックスケールを並び換えたものになりますので、この両者も平行調のように扱って良いことになります。
・マイナーペンタトニックスケールの実用ポジションフォーム
マイナーペンタトニックスケールは、ロック系の曲で頻繁に使われるため、ロック系ギター/ベースでのスケールの代名詞のようになっているわけですが、このスケールの指板上におけるポジションフォーム(シェイプ)に関しては、教則本等においても、以下のfig1-1のようなものが多く見られるもので、この形で覚えられているかたも多いかと思います。
念のために書いておくと、図中の◎印がトニック(⇒スケールの先頭の音)になりますが、曲(またはその部分のコード進行)のkeyのアルファベット部分がトニックの音に一致すると考えて良いものです。
このことは、ペンタトニックスケールに限らないわけで、各スケールポジションフォーム上のトニックの位置は、そのスケールを活用するに当たって非常に重要なことになり、必ず覚えておくべきこととなります。
マイナーペンタトニックスケールの指板上のポジションフォームは、様々な形にて指板上の各部を取り出すことができるわけですが(⇒基本的には4フレット幅でのフォームとなりますが、5つから6つの各部フォームが取り出せます。)、上記のものが基本ポジションフォームといった形で示されがちです。
この理由としては、フォームの左部が各弦に渡って1列に並んでいるので、全ての弦のこの音を人差し指で担当でき、ハンマリング・オン、プリング・オフ、そしてチョーキングやビブラート等の技を行いやすいということになるかと思います。ソロのフレーズとは、結局は、各部を押弦してピッキングすることに、これらの技の組み合わせでそのほとんどが成り立っているわけで、このような技は、人差し指を支点としての動作となることが多いわけです。
しかし、シェイクハンドグリップを主体として使い、かつ小指をほとんど活用しないブルース系の奏法においては、このフォームの6弦上の右端の音は押弦しにくいということ、また、もう少し多くの音を利用してフレーズのバリエーションの範囲を広げたいということから、両隣のポジションフォームの音も入れて拡張したフォームをとることも多く、次のような”実用ポジション”とも言うべきものでとらえたほうが何かと良いことになってきます。
実際の曲におけるソロでも、この形を念頭において弾き出されるようなことがたいへん多いわけですが、拡張部分に移行する際には適時スライドを使う等して手首の位置を移動させることになるものです。
・メジャーペンタトニックスケールのポジションフォーム
メジャーペンタトニックスケールのフォームに関しては、以下のfig2-1のようなものがよく掲載されていますが、これは、”なるべく低音弦の左側(ヘッド寄り側)にトニックが来るポジションフォームを基本ポジションフォームと定義する”といった慣例的な考え方によって示されているもので、結果的にフィンガリングが多少行いにくいようなフォームになってしまっております。
このため、メジャーペンタトニックスケールは、このフォーム部分は採用せず、1つ左どなりのフォームである、次のfig2-2のようなマイナーペンタトニックスケールの場合と同様なフォームを選択したほうが実用的となる可能性があります。
もちろん、トニックの位置を把握した上での使用ということが前提となりますが、上述したように、このフォームのほうが遥かに各種技はかけやすくなります。
また、この考え方は、メジャーペンタトニックスケールとマイナーペンタトニックスケールの平行調関係/同主調関係を理解するのにも良いですし、それぞれの基本フォーム(fig1-1とfig2-1)だけを見て、全く異なるものであるなどと誤解してしまうことを防ぐためにもなるものかもしれません。
・ペンタトニックスケールにおける経過音について
ペンタトニックスケールの使用については、おなじみの”経過音”も、もちろん使えることになります。
”スケール上の音と経過音の相違”について極端な書き方をすれば、”その時のコード進行の流れにおいて、長い間出しても違和感の無い音はスケール上の音、長い間出すと違和感のある音は経過音”といったことになるのですが、上記マイナーペンタトニックスケールの実用ポジションフォームを、経過音も含めて示すとfig3−1のようになります。
経過音は、”半音でスケール上の音をつなぐ部分”、または”半音上がってスケール上の音につながる部分”といったもので定義できますが、実際には、指板上でのスケールの音以外のほとんどを経過音とみなすことも出来てしまいますし、経過音の中には、その部分のコード(またはコード進行)で使えるペンタトニックスケール以外のスケール上の音であったりもするわけです。(⇒そのような音であれば、長く出すことが可能となります。)
特に、ブルースの3コードの進行の場合等は、ミクソリディアンスケールやドリアンスケール等、セブンス(7th:短7度)の音を持つ色々なスケールが同時に使えたりしますので、状況によって、様々な音が長い間使えることにもなってくるものです。
(以下、次回に続く)
(2006年 9月分)
(ペンタトニックスケールに関する話あれこれ :その2)
<ブルースの3コード進行での使い方>
今回は、ブルースの3コード進行におけるペンタトニックスケールの使用法に関しての基本事項を書いてみたいと思います。
1. 3コード進行では、メジャー/マイナーの両ペンタトニックスケールが使える
ブルースの3コード進行でアドリブをとる場合、多くのかたは、まずはマイナーペンタトニックスケールを使われるようです。
しかし、これにおいては、メジャーペンタトニックスケールも使えることは意外に知られていないのでは?
例えば次のような、keyがC(Cメジャー)の12小節のブルースコード進行の場合、Cマイナーペンタトニックスケールだけでなく、Cメジャーペンタトニックスケールも使用可能であるということであり、最初の1〜4小節の間はCマイナーペンタトニックスケールを使用し、5〜8小節はCメジャーペンタトニックスケールを使うといったこともできるわけです。(⇒もちろん、この逆も可能ですし、さらに細かく切り替えて使う、または混合して使うといったことも可能です。)
│C │C │C │C7 │
│F7 │ F7 │ C7 │ C7 │
│G7 │F7 │ C7 │ G7 │
(ただし、Cのコードを全てC7としても可。)
CマイナーペンタからCメジャーペンタに変えると、その雰囲気もマイナー調からメジャー調へと変わりますので、コード進行の転回とも相まって、場面転換という感じのことが行えるようになります。
これは、一種のモードの転換とも言えるようなものなのですが、一般的なコード進行とは異なり、このようなことが出来るのは、ブルースの3コード進行では、ブルーノートというものが存在することと、これによって3つのコードが基本的に全てセブンスコードになっていることによるものです。
2. メジャー/マイナーペンタトニックが両方使えることのタネあかし
では、なぜメジャー/マイナーの両ペンタトニックスケールが使えるかの説明を以下に書いていきます。
2−1.ブルーノートの定義
まずは、ブルーノートというものを再確認することから始めます。
ブルースという音楽ジャンルで使われる特殊な音である”ブルーノート”とは、音楽理論上は、メジャースケールにおけるV,X,Zの音を半音下げた音として定義されます。
実際には、半音下げではなく、4分の1音(クォーターノート)程度下げた音がブルーノートの正体なのですが、譜面上は♭を付けて、♭V,♭X,♭Zと半音下げた音として表現することになり、例えば、Cメジャースケールで考えれば、E♭,G♭,B♭がブルーノートということです。
ただし、♭Xは、使用頻度が多少低いものとして、準ブルートといった扱いとしているものもあります。
2−2.比べるべきスケールの候補
次に、3コード進行において、どのような音を持ったスケールなら使えるか?を確認していきます。
とりあえず、ポピュラーミュージックにおいて標準的なスケール4種を、トニックをCとして示し、それぞれの構成音を書くと次のようになります。
・Cメジャースケール ⇒構成音 ”C D E F G A B”
・Cメジャーペンタトニックスケール ⇒構成音 ”C D E G A”
・Cナチュラルマイナースケール ⇒構成音 ”C D E♭ F G A♭ B♭”
・Cマイナーペンタトニックスケール ⇒構成音 ”C E♭ F G B♭”
これらのスケールがkeyがCのブルースの3コード進行において使えるかどうかを確認する作業を行ってみます。
2−3.構成音の確認で、使用できるスケールを吟味
1項で示したようなkeyがCのブルースにおいては、keyがCメジャーということですので、一般の曲に習って、とりあえずはCメジャースケール上の音を使ってソロを弾けそうかな?というあたりは考えられるでしょう。
そして、ブルースということですので、これに加え、ブルーノートであるE♭,G♭,B♭も使えるであろうということにもなるわけです。
したがって、、keyがCのブルースの3コード進行においてソロを弾く際に出しても良さそうな音の候補を並べると、Cメジャースケール上の音7つに、ブルーノートを加えた以下のような音列となってきます。(⇒ただし、これは、あくまでも音の集合体に近いものであり、スケールとは言えないものです。)
”C D E♭ E F G♭ G A B♭ B”
ということで、この音列と、2−2に示した各スケールとを比較検討してみます。
基本的には、”それぞれのスケール上の音が上の音列に全て含まれていれば、そのスケールはブルースの3コード進行において使える”ということになります。
(1)Cメジャースケールが使えるかどうか?
Cメジャースケール上の音は、上記音列に全て含まれています。 よって、3コード進行においてCメジャースケールは使用可と思えてしまうのですが、ブルースの場合は、keyがメジャーであるにもかかわらず、keyにあたるコードはブルーノートの働きにより、CやCmaj7では無く、C7となっているところが要注意ポイントです。
C7というコードの構成音は、ルート音(完全1度の音)から順に、”C,E,G,B♭”となりますので、これに乗せるメロディラインに使う音においては、B♭(7th(セブンス)⇒短7度の音)と半音でぶつかってしまうB(maj7th(メジャーセブンス)⇒長7度の音)は使えないことになります。(⇒コードの構成音としては、maj7thと7thは同時に存在できないものです。)
すなわち、Bの音を省けば何とか使えると言えるものの、基本的にはCメジャースケールはメロディラインやアドリブソロ等には使用できないと考えられます。
(2)Cメジャーペンタトニックスケールが使えるかどうか?
Cメジャーペンタトニックスケールは、CメジャースケールからFとBの音を抜いたものです。よって、先ほど問題になったBが都合良くなくなってくれています。
もちろん、Cメジャーペンタトニックスケール上の音”C D E G A”は、全て上記の音列に含まれておりますので、めでたくCメジャーペンタトニックスケールは使用可能ということになるわけです。
(3)Cナチュラルマイナースケールが使えるかどうか?
Cナチュラルマイナースケール上の音”C D E♭ F G A♭ B♭”を上記の音列と比較すると、C,D,F,Gはもちろんok、そしてE♭とB♭はブルーノートなのでこれも存在しており、存在しないのはA♭のみとなります。
A♭の音は、度数的には♭13thということになりますので、オルタードテンションとして、C7というコードの構成音としても存在可能ではあります。
したがって、とりあえずは、何とかCナチュラルマイナースケールは使用可能といったところになるでしょうか。
(4)Cマイナーペンタトニックスケールが使えるかどうか?
もうこれは書くまでもないでしょうが、CナチュラルマイナースケールからDとA♭の2つの音を抜いたCマイナーペンタトニックスケールは、(3)で問題になったA♭がなくなってくれたおかげで、全てokとなります。
以上のことから、各スケールの使用の可否のレベルは、
・Cメジャースケール ⇒ ×
・Cメジャーペンタトニックスケール ⇒ ○
・Cナチュラルマイナースケール ⇒ △
・Cマイナーペンタトニックスケール ⇒ ◎
といった感じになります。(もちろん、経過音はそれぞれについて使うことができます。また、実際には、C7についてだけではなく、F7とG7の時のことも考慮して判断すべきなのですが、今回は省略させていただきます。)
2−4.まとめ
そもそも、コード進行のkeyがメジャーなのに、マイナーペンタトニックスケールが使えるということ自体がおかしいと気づくべきとも言えるわけですが、これが許される、と言うかむしろメジャーペンタよりもマイナーペンタのほうがそれらしく聴こえるのは、ひとえに”ブルーノートが使えることによるもの”ということです。
また、理論書には、”ブルーススケール”というものがよく載っておりますが、これは、メジャーペンタトニックスケールとマイナーペンタトニックスケールの音をミックスして便宜上スケールのように表したものです。(♭5thのブルーノートをさらに加えても良いです。)
よって、これを順番に弾いても、妙な感じの音列しか聴こえてこないわけで、”この中の音を随時必要に応じて取り出して使う”と考えたほうが良いでしょう。
したがって、基本的には、上述したように、メジャーペンタとマイナーペンタのそれぞれに分けて、状況によって適度にミックスしながら使うというアプローチで良いかと思います。(⇒経過音として考えて各部の音を使っていれば、自然とブルーススケールを使っていることに近づくということでもあります。)
ただし、ブルーススケールがどのようなものか?については、人によって様々な考え方があり、理論書それぞれで異なる内容になっていることもあるのが実状です。
あと、ブルースの3コード進行では、他に、例えば上記の進行における”C7,F7,G7”が、 ”Cm,Fm,G7”となるマイナーkeyのブルースもありますが、この場合は、メジャーペンタは少々きびしいので、マイナーペンタ主体と考えたほうが良いものです。
では次回は、3コード進行において使用できる、さらなるスケールのバリエーションについて書こうかと思います。
(2006年 10月分)
(ペンタトニックスケールに関する話あれこれ :その3)
<ブルースの3コード進行での使い方(続き1)>
前回に引き続き、ブルースの3コード進行におけるペンタトニックスケールの使用法に関しての基本事項を書いていきます。
1. ブルースリフというものの再認識
ペンタトニックスケールのさらなる話の前に、アドリブという行為の出発点になるとも言える、ブルースリフの話を書いておきます。
みなさん御存知であるように、”リフ”というものは、ギターやベース等によって弾かれる、その曲のテーマとなるような繰り返しパターンのことであるわけですが、一般的に言えば、その原点となるようなものの1つが、ブルースの3コード進行において使われる”ブルースリフ”というものになるかと思います。
3コードブルースのリフは、基本的には、3つのコードそれぞれにおいて、その構成音の組み合わせによって作られることになりますが、3コードのブルースは、その全てがセブンスコードですので、各コード共にセブンスコードの構成音を考えれば良いことになります。
セブンスコードの構成音は、”完全1度(1st:ルート音)”、”長3度(3rd)”、”完全5度(5th)”、”短7度(7th)”の4種の音ではありますが、前回書いたように、ブルースにおいてはブルーノートの働きにより、3度の音は長3度と短3度のどちらになるか、ある意味あいまいなものであり、この結果的により、コード進行全体のメジャー/マイナー感(長調/短調感)もどちらであるかが明確でないという性質を持っています。
このことによって、ブルースのリフにおいては、セブンスコードの構成音とは言え、あえて3度(長3度)の音を省き、各コード共に、”完全1度(ルート)、完全5度、短7度”の3種の音でリフを作ることが基本となってきます。
したがって、指板上では、3コードの各々について、まずは指板上でfig3-1-1やfig3-1-2のようなポジションフォームを意識すれば良いことになるものです。(⇒実際にはオクターブ上のルート音(8th)も入れて、4つの音とすることが多いものです。)
ということで、それぞれのコードのルート音の位置を基準にして、このフォームを指板上に見出し、各音を様々な順番/組み合わせで出すことによって、リフを構成していくことができるわけです。
ただし、実際には、各音の半音下の音等を経過音として入れることも可能、さらには完全4度の音(4th)等も加えることができますから、このようなシンプルなフォームを意識するだけでも、かなりのパターンを作り出せることになるものです。(⇒4thを入れてしまうと、もはやマイナーペンタトニックスケールに限りなく近くなってしまいますが)
すなわち、この限定された範囲の音でリフを作るという行為は、既にアドリブの一種であるとも言え、スケールといった、さらにより多くの音の選択肢を持つ領域に入っていくために、まず手始めに行う練習の場として適していると言えるかと思います。アドリブは苦手というかたでも、このようなリフ作りの場で考えれば、スンナリと入って行けるかもしれません。
もっとも、アドリブでのギターソロにおいては、本来、その時点でのコードの構成音を主体にラインを作っていくことが好ましいわけですので(⇒このようにすると、メロディラインの中にもコード進行感が生まれることになります。)、上記のリフ作りのようなものは常に存在しているとも言って良いものではあります。
いずれにせよ、既にアドリブでの演奏ができるかたも、このような限定された中でのアドリブ感覚でのリフ作りに再チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
2. 3コード進行における3つのコードそれぞれでのペンタトニックスケールが使えるという事実
前回では、ブルースの3コード進行においては、マイナーペンタトニックスケール(ブルーノートペンタトニックスケール)だけではなく、メジャーペンタトニックスケールも使えるということを挙げました。
これは、その3コード進行のkeyによって決まるスケールということで考えているわけですが、これに加えて、keyに当たるもの以外の2つのコードについても、それぞれにおけるメジャー/マイナーの両ペンタトニックスケールを適用することが可能であるという事実があります。
例えば、次のような、keyがA(Aメジャー)の12小節のブルースコード進行の場合、コードがAまたはA7の部分ではAマイナーペンタトニックスケールを使用し、コードがD7の部分はDマイナーペンタトニックスケール、そして、コードがE7の部分はEマイナーペンタトニックスケールを使うといったことができるわけです。
│A │A │A │A7 │
│D7 │ D7 │ A │ A │
│E7 │D7 │ A │ E7 │
(ただし、Aのコードを全てA7としても可。)
もちろん、使用するスケールポジションフォームは、それぞれのスケールについて様々なフォームが使えますが、とりあえずは、スケールのチェンジ部分であまり大きく移動しなくても済むように、次のようなフォームで試していただければ良いかと思います。(fig3-2-1
〜 fig3-2-3)
また、これにおいては、マイナーペンタトニックスケールをメジャーペンタトニックスケールに置き換えることも可能ですし、コード進行全体のkeyによって決まるスケールを一貫して使うという従来の方法との組み合わせも可能となりますから、さらにかなりのバリエーションを得ることができます。
さらに、上記の3種のマイナーペンタトニックスケールのフォームを見ていただければわかるかと思いますが、これらは、今回の1項で述べた各コードにおけるリフのポジションフォームも含むことになっています。
つまり、このようにそれぞれのコードに異なるスケールを対応させる方法は、コードの構成音を重視したアドリブのアプローチの1つとも言えるわけで、コード進行のkeyによって決まる1種類のスケールのみの使用から、さらに一歩進んだアドリブの方法の入門的なものでもあります。
3.3コードブルースでの特殊事情の再確認
ついでに書いておくと、アドリブにおいては、keyによって決まるスケールの使用だけでなく、それぞれのコード個別に異なるスケールを使用することは、転調の多いジャズ系のコード進行では当然ですが、一般のロックやポップス系の曲においても、ある程度行えるものです。
しかし、コード進行のkeyがある程度一貫しているような一般の曲では、一定のkeyの中で使用するスケールを変えてしまうと、コード進行のスムーズな流れの感覚を壊してしまうこともあるので、注意が必要となります。
ところが、一見、たいへんシンプルに見える(聴こえる)3コードブルースというものにおいては、3つのコード全てがセブンスコードであるということからも、それぞれの部分で一種の転調のように展開しているということがあります。(⇒聴いた感じでも、”場面展開”的なニュアンスが自然に伝わってくるかと思います。)
これはすなわち、全てのコード部分が異なるkeyを持ち、それぞれのコードがその部分のトニックであり、またドミナントであって転調を繰り返しているとも言え、この自然な転調感からも、それぞれに異なるスケールを対応させても、あまり違和感が無いという結果に結びついております。
このような意味からも、ブルースの3コード進行というものは、シンプルながらも(シンプルだから)、アドリブの様々なアプローチの練習に最適な場であると言って良いでしょう。
では、次回は、さらに話を少々拡張させていただき、”3コードブルースで使用できる、ペンタトニックスケール以外の各種スケール群”と、これらを”ペンタトニックスケールで代用させる”ということについて、この機会に書いておこうかと思います。
(2006年 11月分)
(ペンタトニックスケールに関する話あれこれ :その4)
<ブルースの3コード進行での使い方(続き2)>
引き続き、3コード進行でのペンタトニックスケールの使い方、ならびに、少々話を脱線させていただいて、これと関連したスケールの話に行きたいかと思うのですが、今回は本題に入る前に、これまた少し脱線させていただき、3項目ほど準備的な確認をしておきたいかと思います。
1. 7thコードとテンションノートの話について
まず、これまでは、話がわかりにくくなってしまうため、少々あいまいなことを書いて避けてきた話題なのですが、ブルーノートとテンションノートとの関係についてのことを挙げておきます。(少々強引な展開になるかと思いますが、御容赦ください。)
本格的なテンションの話は、また別の機会にするとして、本来不安定な状態である7thコードにおいては、その不安定さゆえにも、9th,11th,13thならびにこれらが変化した♭9th,♯9th,♯11th,♭13th(あるいは♭5th,♯5th)といった各種テンションノートを加えて、和音としての構成音を増やすことができます。
したがって、基本的に全てのコードが7thコードである、3コードのブルースコード進行においても、これらテンションノートに相当するような音を使うことが可能になるとも言えるはずであります。
一方、ブルーノートである♭3rd、♭5thの音は、テンションノートと考えれば、それぞれ♯9th、♯11th(または♭5thの表記のままでも良いですが)と同じ音ですので、テンションノート扱いにすれば、これらの音は、3コード進行中で堂々と使えてしまうことになります。(⇒7thというブルーノートはもともと7thコードの構成音なので、もちろん使用可。 また、ブルーノートは、実際には3rd,5th,7thを少々下げたクォーターノート(1/4音)なわけですが、譜面上では♭を付けて表すため、半音変化した音とし、オルタードテンション等と同等な音として考えてしまうものとします。(専門家のかたには怒られそうですが))
よって、このことからも、以前に書いたように、keyはメジャーなのに、マイナーkeyの要因となるようなブルーノート♭3rdは使用可であり、結果的に、keyがメジャーであるか?/マイナーであるか?が多少あいまいになるといったブルースの特性が現れてくると言えるかもしれません。(⇒keyがメジャーなのにマイナーペンタトニックスケールが使えるという話にも絡むものです。)
2. アヴォイドノートに関する好ましい認識
これも、詳しい話は別の機会に譲りますが、音楽理論を学んでいくと、各種スケールにおいて表記されているアヴォイドノート(avoid note)というものの存在は、非常に気になってしまうところです。
アヴォイドノートとは、”テンションノートも含めて、そのスケールから作られるコードの構成音になり得ない音”として定義されます。(⇒そのスケールのトニックをルートとして考え、スケール上の音を1つおきに順番に重ねてコードを作っていくと考えた場合に、テンション領域も含めて構成音として成りえるかどうか?ということで判断すれば良いものです。)
この定義からすると、”アヴォイドノートはあまり出してはいけない音”としてとらえられてしまいがちなわけですが、これに関しては、単に”出してはいけない”ということではなくて、”出しても良いけれども、あまり長時間出し続けてはいけない”ということであることが重要です。
スケール上でアヴォイド扱いになっている音とは、実は、そのスケールの持つ雰囲気を最も担っている音とも言えるわけで、逆に、この音を出すからこそ効果的であるといった場合が少なくありません。
したがって、”あくまでもその音で長く留まらずに適度な長さで出した後、次の音へ流す”といった認識で取り組めば、アヴォイドノートは、むしろ使いたくなってくるものとなるでしょう。
例えば、下に示すように、ナチュラルマイナースケール(エオリアンスケール)とドリアンスケールの相違点は第6音のみで、他の音は同じです
。
よって、この第6音が、両者それぞれのスケールの特性を表す重要な音であり、これを使うからこそ、どちらのスケールであるかが判断できるとも言えるのですが、理論書等を見ていただければわかるように、この第6音は、どちらのスケールにおいてもアヴォイドノートとなっているわけであります。
最も、実際の演奏においては、感覚が優先されるものですので、わざわざ上記のようなことを意識しなくても、結果的にそのようなことになってしまうものでもあります。少なくとも、ロック系のジャンルの範疇では、アヴォイドノートはあまり気にしなくても良いものと考えていただいて良いと思います。(⇒知ってしまったばかりに、意識し過ぎると失敗します。)
3. アヴェイラブルノートスケールに関して
”アヴェイラブルノートスケール”とは、曲中のコード進行、あるいは曲中の各々のコード単体に関して、アドリブ(またはメロディラインを乗せると考えても良いです。)を行う際に使用可能なスケールは何か?ということであり、1つのコード進行やコード単体に関して複数のスケールが使用可能な場合もあります。
ジャズ等における、転調が頻繁に行われるようなコード進行においては、1つ1つのコードについて使用可能なスケールを決める(捜す)ということが多くなってきます。
このような場合に関しては、お決まりパターンを覚えれば良いということもありますし、その部分の前後関係によって制約を受ける場合等もありますが、まずは、そのコードの構成音(または、構成音中でポイントとなる音)をもれなく持っているスケールは基本的には全て使用可能であると考えることから出発することになります。
そしてその上で、前後の流れにおける調性(key)を考慮する等して、好ましいスケールに絞り込んでいくことになるものですが、もちろん調性が崩れることを覚悟の上で(あるいは故意に崩すことを目的として)、転調感をより大きく感じるようなスケールを選択しても良いことにはなります。
ただし、そのようにしてあまり奇をてらったものを使い過ぎても、やはりマズイかも?ということで、何事もバランスが大事というところでしょうか。
例えば、│Am │G │Am │ といったシンプルなコード進行があって、これにおいてアドリブを行う場合に使用できるスケールを考えるとします。
このコード進行のkeyは、とりあえず普通に考えればAマイナーとみなせるかと思いますので、全体を通してAナチュラルマイナースケールを使えば、Amという調性に見合った状態で、無難なものになるかと思います。(もちろん、Aマイナーペンタトニックスケールでも可です。)
次に、Amの部分のみで考えると、Amというコードの構成音である”A,C,E”を含むスケールならば使用可能となりますから、その1つとしてAドリアンスケールも使えることになるわけです。(⇒その他、Aハーモニックマイナースケール、Aメロディックマイナースケール、Aフリージアンスケール等も使用可能とはなります。)
しかし、2項で書いたように、Aドリアンスケールにおける、Aナチュラルマイナースケールの第6音を半音上げた部分が、このコード進行において自然に聴こえるかどうか?ということには注意となりますし、さらに、それではコードがGの部分では何スケールを使うべきか?といった問題も出てくるわけです。
もしこの時に、Gのコード部分でGメジャースケール(Gアイオニアンスケール)を使うとすれば、これはある意味、全体のkeyをGメジャーとみなすことに近くなるわけで、最初からGメジャーの調性感を前提として、出てくる音を聴く覚悟(?)が必要となります。
また、Gの部分ではAナチュラルマイナースケール(Gミクソリディアンスケール)に切り替えて使うとすれば、AmとGのコード間で発生する調性の変化の感覚を覚悟の上で、ということになってきます。
もちろん、このような”どのスケールを使うか?”については、少なくともロック系/ポップス系のジャンルでのバンド演奏の場合は、ベースやキーボード等、他のパートに事前に知らせておくことも必要ですから、やはり、あくまでも”調性といったものをどのように設定するか?”ということを事前に決めた上で、使用するスケールも決定するという流れとしたほうが好ましいことになるでしょう。
上記のコード進行では、実際にギター演奏を行ってきた人や、それなりに多種多様な音楽を聴いてきた人ならば、Aドリアンスケールを使うほうがカッコ良く聴こえるかもしれません。(特に、第6音をGのコード部分に移行する際に、経過音的に使用すれば)
しかし、ごく一般の人々がリスナーである場合を考えれば、やはりAナチュラルマイナースケールを使うほうが聴きやすいものになる可能性もまた大ですので、このあたりについては、あまり固定観念を持ってアプローチするのは注意となるかと思います。
とにかく、自分が求めるような音を作っていくには、”調性の流れ”というものの意識/設定は非常に重要なもので、これ次第で良くも悪くもなるということです。単に、読み聴きした音楽理論の内容だけでのアプローチは危険であり、実際に出てくる音を聴いての確認作業も行いながら、より良いものになるように検討していく姿勢が大切かと考えられます。
ということで、上記のようなことを前提として、ブルースの3コード進行における、さらなる使用可能なスケール(アヴェイラブルノートスケール)を考えてみるものとします。
⇒以下次回に続く
(2006年 12月分)
(ペンタトニックスケールに関する話あれこれ :その5)
<ブルースの3コード進行での使い方(続き3)>
1.ブルースの3コード進行でのアヴェイラブルノートスケール
ブルースの3コード進行において、メジャー/マイナーペンタトニックスケール等以外で使用できるスケールを考える場合には、ブルーノートの存在によって、けっこうたくさんの音が使用可能になりますから、様々なスケールが使える可能性が出てくることになります。
しかし、基本的にはセブンスコードが中心となっておりますから、少なくとも、セブンス(7th⇒短7度)の音を含むスケールということで、限定して考えてみるべきとなってくるものです。
ということで、ペンタトニックスケール以外で使用可能なスケールの代表格としては、マイナー系(⇒短3度の音を含むもの)では”ドリアンスケール”、メジャー系(⇒長3度の音を含むもの)では”ミクソリディアンスケール”といったものが挙げられます。
よって、ブルースの3コード進行においては、ドリアンスケールやミクソリディアンスケールも堂々と使えることになり、実際にブルースのギターソロ等では、これらのスケールがよく使われているわけであります。
前々回でも取り上げたkeyがAメジャーの3コード進行において考えれば、全体を通して、AドリアンスケールやAミクソリディアンスケールを使ってのアドリブが可能ですし、また、D7の部分でDドリアンスケール及びDミクソリディアンスケール、E7の部分でEドリアンスケール及びEミクソリディアンスケールに切り替えることもできます。
したがって、既出のマイナー/メジャーペンタトニックスケールの使用と組み合わせれば、かなりのバリエーションでアドリブがとれるのではないでしょうか。(⇒その他、部分的に使用可能なスケールで考えると、リディアン7thスケールや3種のマイナースケール等、様々なスケールがとりあえずは使用可能になってくるものです。理屈的には、keyがメジャーであるかマイナーであるか等で、使用できるスケールは限定されるわけですが、これも(良い意味での)ブルースのいい加減さから、現実にはかなりの種類のスケールの部分利用が可能となってきます。)
2.結局はペンタトニックスケールで置き換えられるという事実
ところで、上記の両スケールのポジションフォームを今一度見てみると、まず、ドリアンスケールのフォームの中には、マイナーペンタトニックスケールのおなじみのフォームが、そして、ミクソリディアンスケールの中には、メジャーペンタトニックスケールのフォームが結果的に含まれていることに気づかれるでしょう。(下図参照)
すなわち、本来、理論的に言えば、ナチュラルマイナースケールから2番目、6番目の音を省略してできたマイナーペンタトニックスケール、及び、メジャースケールから4番目、7番目の音を省略してできたメジャーペンタトニックスケールであるわけですが、あくまでも結果論とは言え、それぞれのペンタトニックスケールは、ドリアンスケールとミクソリディアンスケールの一部分にもなっているということです。
これを言い換えれば、前回のアヴォイドノートの話でも出てきた、ナチュラルマイナースケールとドリアンスケールで異なる音の部分を取り去ってしまったものがマイナーペンタトニックスケール、そしてまた、メジャースケールとミクソリディアンスケールで異なる部分を取り去ってしまったものがメジャーペンタトニックスケールということなのですが、とにかく、このような意味でもペンタトニックスケールは、特殊な性格を持ったスケールであると言えるわけです。
3.一般のコード進行でも応用可能
上記2項で述べた事実は、ブルースコード進行以外のコード進行でも有効でありまして、なかなかに興味深い事実となってきます。
例えば、 │Dm7 │G7 │の繰り返しといったシンプルなコード進行は、サンタナ等のラテン系ロックでは定番のものですが、Dドリアンスケールを使ってアドリブを行うことが多いものになります。
この場合、keyとしては、通常の音楽理論で考えるとCメジャー(または平行調のAマイナーも可)ということになりますので、Cメジャースケールと考えてもアドリブは可能です。(⇒Cメジャースケールの第2音を先頭(トニック)として並べ替えたダイアトニックスケール(チャーチモードのスケール)がDドリアンスケールですので)
しかし、2項で述べたように、Dドリアンスケールの中にはDマイナーペンタトニックの音も結果的に含まれております。よって、このコード進行においては、Dドリアンスケールを使わなくても、Dマイナーペンタトニックスケールにてアドリブを行うことが可能となってくるのです。
もちろん、上述したように、このコード進行のkeyは一般的にはCメジャーまたはAマイナーですので、Aマイナーペンタトニックスケールも使用可能です。したがって、結果的に同一keyで2種のペンタトニックスケールが使えることにもなってくるわけで、ますますおもしろいことになります。(下図参照)
同様なことは、フリージアンスケール等についても言えるもので、フリージアンスケールやスパニッシュスケールを使うことになるスパニッシュ風のコード進行においても、マイナーペンタトニックスケールが結果的に使えてしまうといったことにもなります。
したがって、このようなことからも、ペンタトニックスケールの汎用性というものが利用されがちであり、便利屋としてのペンタトニックスケールは、面倒くさがり屋の多いロック系のジャンルにおいては、これからも多くの活躍の場を持つことになるのでありましょう。
4.一般のコード単体にでも使用可能な場合
これは、当たり前のように使っている人も多いかもしれませんが、マイナーペンタトニックスケールの有効性の話をもう1つ挙げておきます。
これも、前回までに述べてきたことの応用とも言えるものなのですが、ブルースの3コード進行でなくても、また、keyが一定のままのコード進行でも、 一貫した調性をあまり乱すこと無く、コード単体に対して、そのコードのルート音をトニックとしたマイナーペンタトニックスケールを対応させてアドリブを行うことが可能ということがあります。
ただし、これを実施可能なコードは、基本的には以下の種類のもの、または、これにテンションノートが加わったコードとなります。
@マイナートライアド
Aマイナーセブンス
Bセブンス
例えば、keyがCメジャーであるコード進行、│C │Dm │G7 │C │というものにおいては、基本的にはCメジャースケールやCメジャーペンタトニックスケールでアドリブを行えば良いわけですが、これに加えて、Dmのコードの部分で、Dマイナーペンタトニックスケールが使用できるということや、G7の部分でGマイナーペンタトニックスケールもとりあえずは使用可能ということです。
そして、この行為によっては、Cメジャーという調性はそれほど崩れないということが注目すべき点というわけです。(⇒Dmの部分でDナチュラルマイナースケールを使用するといった場合ほど、転調感が少ないということです。)
5.ペンタ使用での注意点
以上のように、ペンタトニックスケールの便利度/有効性を述べてきましたが、場合によっては、あまりモロに使ってしまえば、ペンタ臭さが前面に出過ぎてしまいますので、これに他の音も適度に加えて、より様々なラインを作っていくことも多くなります。
例えば、ジェフ・ベック氏などは、ほとんどのソロをペンタトニックスケールをメインに弾き出しているわけですが、とりあえずはペンタ臭いとは言え、かなりバリエーション豊かな音を構築していることも事実です。
すなわち、ペンタトニックスケール上の音オンリーではなく、状況によって、プラスアルファで何らかの音を付け加えながらプレイしているのが現状であります。
付け加える音は、決して理論的に考えるわけでは無く、感覚優先で捜し出すもので構わないのですが、このような行為によって、結果的に色々なスケールを使っていることに近くなっているといった状況も多いものです。
音楽雑誌等における、有名ギタリストの演奏分析記事等では、色々なスケールを使ってプレイしているように書かれていることも多いわけですが、それは実は上記のように、ペンタトニックスケールにいくつかの音をプラスアルファして出来た結果でしかない(?)こともけっこうあるはずなのです。
ということで、なんだかんだと書いていくとキリが無いので、とりあえずは、ペンタトニックスケール関連の話は今回で終わりにいたします。