<今月のトピックス2004(楽器編)>

・”今月のトピックス(楽器編)”は、楽器に関する注目すべき話題を、思うままに書いてみようというコーナーです。何かみなさんの参考になれば、と思っています。


<目次>

(1月分) <イスに座ってギター/ベースを弾くときの姿勢を見直しましょう>

(2月分) <歪み系エフェクターの存在意味を明確にとらえましょう>

(3月分) <教則本は、楽器演奏の取り扱い説明書なのだ>

(4月分) <チューニングメーター(チューナー)の選び方について>

(5月分) <最低限やるべきことはやってから、器材を選びましょう!>

(6月分) <指を寝かすことの重要性>

(7月分) <楽器系の製品の品質ってどうなの?>

(8月分) <ギター/ベースのボディと弦との距離について>

(9月分) <ネックを静止させたまま演奏できますか?>

(10月分) <クロマチックパターン練習の意義を再認識しましょう>

(11月分) <基礎さえできていれば、すぐに弾けなくても、落胆することはないのです>

(12月分) <ストラトキャスターは初心者向きギターなの?>


(2004年 1月分)

<イスに座ってギター/ベースを弾くときの姿勢を見直しましょう>


 自分の部屋で行う個人練習においては、通常はイスに座って弾くことが多いものです。

 中には、床に直接あぐらをかいて座って弾く人もいるかと思いますが、そのような場合において問題となりやすいのが、ストラップを使って立って弾いた場合とのギャップです。

 少なくとも、初心者の頃には多くの人が経験することですが、イスに座った時には弾けたものが、いざスタジオで立って弾いてみると非常に弾きにくくなってしまい、困惑したようなことがあるかと思います。

 とりあえずは、かなり低い位置に吊るして弾く人以外は、イスに座る場合に右足を左足の上に組んで、その上にギターを載せれば、立って弾く状態にかなり近くなりますので、これを実施すれば良いわけです。

 しかし、これまで色々と見てきた限りでは、意外とこれをやっている人が少ないことを感じました。


 では、そのような人はどのような状態で弾いているのかと言えば、ほとんどの場合、足(ひざ部分)を大きく広げるようにして、右足の上にギターを載せて弾いているのです。

 ストラップでギターを吊るして、立って弾くときの状態を考えてみていただければわかると思いますが、ギターのボディは自分の正面にくることになります。

 しかし、座って弾く時に、開いた右足の上にギターを置くと、ギターは自分のかなり右側寄りに位置してしまいます。

 これでは、立って弾く時と基本的に状態が異なりますので、この体勢で弾くことに慣れてしまうと、いざ立って弾く時にたいへん弾きにくい思いをすることになります。さらに具体的に言えば、この状態ですと、ピッキングを行う右腕のひじ付近をギターのボディ上に載せて安定させにくくなりますので、適正なピッキングフォーム(特に安定したオルタネイトピッキングのためのフォーム)をとりにくくなり、演奏上で色々な障害が発生しやすくなってしまいます。


 これに加えて、そのような体勢で弾いている人の多くは、ギターの上面を上に向けがち(ギターを寝かす感じ)ということもあります。

 これは、ギターが自分の右側にきている、すなわちネック部分が自分の体の正面近くになっているので、ネックのポジションマークを見にくいということあたりが関係しているとも考えられますが、これでは、ピッキングの基本フォームはもちろん、チョーキング等の技の実施にも支障をきたしてしまいます。

 ギターのボディを自分の正面に持ってくれば、ネックのポジションマークを視認することは楽になるので、ギター上面を上方に向けなくて済み(基本的にはポジションマークを見なくても、弾けるようになるべきではありますが)、ギターが垂直状態での効率の良いフィンガリング/ピッキングが行えるようになります。(ちなみに、ポジションマークを見るのならば、ギターの垂直状態をキープするために、指板上のマークではなく、なるべく側面のマークを見て演奏すべきです)


 ということで、”座って弾くときのフォームに気をつける”ということは、立って弾くときとのギャップを避けるという意味だけでなく、演奏性にも直接関係があるので、大いに気にしておくべきことだと思います。


 先日、ある音楽教室のホームページにある練習風景の映像(動画ファイルによるもの)を見ていたら、生徒さん達の何人かが上述したような”足を開いてギターが右側にきてしまう状態”でひたすら弾いていたのですが、講師のかたは指摘されないのかと思い、ものすごく気になりました。

 確かに、十分に経験を積んだかたや、かなり才能のあるかたの場合は、イレギュラーなフォームで問題なく弾いていることもあるのですが、初心者に近い一般のかたであれば、効率の良いフォームで練習したほうが、上達も早まるというものです。

 いくら教える立場とは言え、過去のことは忘れがちで、このようなことをついつい気にしなくなってしまうのはわかりますが、実はこのような所にこそ、上達の秘訣があるということを注意すべきだと思います。

 みなさんも気を付けてみてください。


(2004年 2月分)

<歪み系エフェクターの存在意味を明確にとらえましょう>

 ロック系ギターの象徴的な音である”歪んだ音”を作るための、いわゆる”歪み系エフェクター”は、毎月常に新しい機種が登場してきます。
 この現実を常識的に考えれば、新しいものが出てくるということは、過去の製品にはなかった何らかの新しい要素を持ったものが出てきているということになります。それは、従来のものよりも音が良くなったということかもしれないし、音は同じでも値段が安くなったのかもしれないという感じとなりますが、現実には、同じような内容かつ同じような価格のものが手を変え品を変え出てきているという面も持っております。

 よって、ユーザー側にとっては、全く奇々怪々であり、何を買えば良いかわからなくなってしまうところでしょう。また、これについては、楽器系の雑誌の製品紹介でも、全てが良いように書かれてしまいますので、これまた、選ぶ基準とはなかなか成り得ないものであり、
本当に困るものです。


 先日も、ヤングギター誌(2月号)に歪み系の特集が載っておりました。これにおいては、ほぼ全ての現在販売されている歪み系エフェクターが網羅されておりましたが、音の試奏の手段を含め、”アンプの歪みを増すためのブースターとしての歪み系”ということが前提で、全てが扱われているような記事になっていました。
 確かに、近年は、歪み系エフェクターは、アンプの歪みを増すため、また音量を増すための、いわゆる”ブースター”としても使われることが多く、経験者のかたならば、このような意味を先刻承知であるとは思います。しかし、初心者のかたや経験の浅いかたであれば、そのような事情はわかりませんので、このあたりの背景を説明し、この企画の主旨が何であるかを明確に書いておかないと、誤解されてしまう危険性が大いにあることになります。(とりあえずは、冒頭に書いてはありますが)

 つまり、アンプで歪ませる場合の補助としての話なのか、エフェクター単独で基本的な歪みの音を作る場合なのかがわからないと判断しにくいわけですが、さらに、”アンプで歪ませる場合の補助”というものには、レベルをただ大きくしてアンプでの歪みを増加させる”純粋なブースター”としてのものと、単独でも歪むが、それをチューブアンプに入れると、ほど良い歪み、またほど良い音質になるというタイプのもの等が存在するので、さらに話は複雑です。

 ここで、ついでながら、このタイプ分けを明確に書いておくと次のようになります。(ただし、1と2および1と3の要素が混じるものもあります)

1.ギター出力のレベルを上げてアンプでの歪みを増加させるための、いわゆるブースタータイプのもの

2.エフェクター単独では、歪みは弱いが、チューブアンプに接続し、アンプの歪みも加わると、ほど良いレベル(ハイゲイン)の歪みになるタイプのもの

3.エフェクター単独では、音質が悪いが、チューブアンプに接続し、アンプの音質も加わると、ほど良い音質になるタイプのもの

4.エフェクター単独で十分に歪み、かつ音質も良好なもの(⇒JC等の歪まないアンプに接続して使用する)

 したがって、このような4種の機器が全てごっちゃになって載せられているので、余計にわかりにくいわけです。
 一般的には、2と3に関しても(レベルを上げないにもかかわらず)ブースターと言われることが多いわけで、マーシャル等のチューブアンプで使用することを前提とはせずに設計されている”BOSSのメタルゾーン”までもがブースターとして登場するのは、この3の場合と考えれば良いわけですが、この2および3の場合は、近年の歪み系の使いかたとしては、最も多いものなのかも。
 これはある意味、近年のベースアンプ等に多い、ハイブリッドタイプのアンプに近いことを行なっている感じですね。(ハイブリッドタイプ⇒トラジスタアンプだけれども、チューブ(真空管)の簡単な回路をちょいと入れて、幾分まろやかな音にするというものです)


 特に気になったのは、この記事における試奏用のアンプには、”マーシャル1959”が使用されていて、記事中では”歴史的に見て歪み系エフェクトと組み合わせる最もオーソドックスなアンプと考えられるのでチョイスした・・・”などと書かれておりますが、これは明らかにプロレベルの話です。通常のアマチュアミュージシャンの活動環境で、マーシャル1959を手軽に使える状況がどこにあるというのでしょうか。(ちなみに、この記事においては、試奏用器材としてパワーアッテネータも使用されているので、マーシャルのボリューム自体はかなり上げられており、単独ではあまり歪まない1959とは言え、けっこうアンプでも歪ませていると考えられます)
 したがって、この企画は、プロミュージシャンが使用しているセッティングの音の検証レポート、またはマーシャル1959を個人的に自由に使える人のための参考レポートということになってしまうでしょう。

 一般のアマチュアミュージシャン向けでもある”歪み系エフェクター一般”の企画であれば、アンプでも歪むものの代表としてマーシャルのJCM800、およびアンプでは歪まないものの代表としてROLANDのJC−120との2種のアンプあたりでの試奏結果を載せるのが常識的なラインだと思いますが、いかがなものでしょうか。(あとできれば、歪まないクリーンめなチャンネルのあるマーシャルのJCM−900やJCM−2000等もあればベスト)
 ただし、もし、複数のアンプでの試験結果を載せるための紙面のスペースがないのだとしたら、この記事の名は”ブースター特集”としてアンプはJCM800でいくか、または”単独の歪み系特集”としてアンプはJC−120(または、マーシャルのJCM−900やJCM−2000のクリーンチャンネル)でいくのが妥当なところではないでしょうか。(または2回に分けて企画する)

 この手の記事を見た経験の浅い人は、どのようなアンプでも(どのような組み合わせでも)音は同じであると勘違いし、歪み度の低いオーバードライブをJC−120に接続して、何でこんなに歪まないのだろう?と思ったり、逆に、アンプモデリング機器をマーシャルのJCM900やJCM2000に接続して、ハウリングの嵐になって困り果てる、という結果を生んでしまうわけです。

 さらに、空間系エフェクトとの接続の関係あたりは、一言くらい書いておいて欲しいです。最近の当方の掲示板の質問でもよくあることですが、”GT−6をハイゲインのチューブアンプにつないでしまう”などというのは、色々な意味で非常に危険です。GT−6はJCに接続することを基本としているのは、メーカー自身が明言していることですので、それに従わないのは、やはりよくないことであります。
 まあ、これに関しては、近年は説明書をよく読まない人が多いことや、中古で購入して説明書が付いてこなかったというようなことが要因のようでもありますが、エフェクターと言えども電気製品ですので、説明書を読んだ上で使用しないことには、本来のパフォーマンスが発揮できないのは当たり前であります。


 ということで、ヤングギター2月号の歪み系の記事は、あくまでもブースターものとしてどれが良いかというものであり、そのエフェクターのみで歪みを作る場合ではない、ということに御注意ください。


(2004年 3月分)

<教則本は、楽器演奏の取り扱い説明書なのだ>

 これは、以前にも何回か書いたことなのですが、楽器を始めるに当たって教則本を見ていないという人が多くいるようです。教則本を見ていなくても、いきなりスコア譜を使っての曲のコピーを始めたというのであれば、まだ良いほうではありますが、中には、いきなりバンドでオリジナル曲を作るのに参加したという人もおり、そうなると、当方のような教える側としても、さすがに手の打ちようがないことになってしまいます。

 とは言え、一口に教則本とは言っても、世間には星の数ほど多くの教則本が販売されていますし、その中にはわかりやすいもの/わかりにくいもの色々なものがあります。しかし、教則本というものは、何だかんだ言っても、楽器自体および楽器の演奏の基本に関する様々な項目の説明が載っているわけで、いわば、楽器の取り扱い説明書のようなものです。
 スコア譜を見てもある程度のことはわかりますし、色々と曲を演奏することを経験していけば、次第にわかってくるとは言え、何種類かの教則本に目を通してみるほうが、遥かに効率が良いと思うのですが、いかがでしょうか。


 もちろん、教則本などで学ばずに、実際に楽器を習いに行っても良いわけですが、経費と御予算の関係を考えると、教則本の購入さえも、やはり思いとどまってしまうのでしょうか? 

 最近の当方の質問BBS等を見ると、エフェクターの取り扱い説明書が無いとか、あっても見ないという人もいるようですが、それは、最初から適切にエフェクターを使うことを放棄しているようなものになってしまいます。そして、それは、楽器を弾く場合の教則本の存在に関しても同じことです。

 楽器をうまく弾きたいと思っているのは、誰でも同じでしょうが、そのための手順をあえて放棄してしまうに等しいことは、非常に効率の悪いことだと思います。教則本を見るのが面倒くさい等と考えているかたは、今一度御検討ください。


(2004年 4月分)

<チューニングメーター(チューナー)の選び方について>

 スタジオ練習やライブ時等においては、常に正しいチューニングを効率良くキープするためにチューナーは必需品なわけですが、各メーカーからは多くの種類のチューナーが発売されており、BOSSのように1つのメーカーから数種類のチューナーを発売している所もありますから、どれを買えば良いかは迷ってしまうところです。
 特に、初心者のかたは、店員さんの薦めるものや、ギター/ベースとのセットに付いてくるものを購入せざるを得なかったりして、少々不安な状況にもなってしまうところでしょう。

 ということで、実際にはどのようなチューナーが実用的であり、選択するべきかということについて、挙げてみたいと思います。

1.フルオートのものが実用的であるということ

 最近は、よほど低価格のものでないと、弦ごとにスイッチを切り換える必要があるタイプは無いかと思いますが、やはり、切り替え等をせずに、どの弦でも自動的に音を表示してくれる、フルオート(全自動)タイプが演奏の途中でも直ちにチューニングができて便利です。

2.クロマチック方式が実用的であるということ

 ギターおよびベースの各弦の通常のチューニング音しか表示しないギター/ベース専用タイプのものと、どのような音でも半音単位で表示してくれる”クロマチックタイプ”がありますが、変則チューニング等の場合を考えると、少々価格が高くなってしまうとは言え、やはり”クロマチックタイプ”のもののほうが将来的にも役に立ちます。
 ただし、初心者のかたの場合には、各弦の開放弦の音を覚えておくこと、および変則チューニング(半音下げ、1音下げ等)の場合に各弦が何の音になるかは直ちに推測できるようにしておく必要があります。

3.アナログメーター方式が実用的であるということ

 チューナーにおける音の表示部には、昔ながらの実物の針が動くアナログメーター、針の絵が動く液晶表示のメーター、LED(発光ダイオード)の点滅による光タイプのメーターの3種があります。この中では、チューニング時のメーター表示の見易さ、また、高精度ということでもアナログメーターが最も使い良いでしょう。
 特に、液晶タイプやLEDタイプでは、晴天時の昼間の野外ライブにおいては、太陽の光によってメーターが見えなくなってしまうということは深刻です。このような場合には、アナログメータータイプでも、音名の表示等はLEDランプですので、やはり見えなくなってしまうのですが、少なくとも針の位置は見えますから、チューニングを行なうことは可能です。

 以上、このようなことを基準として、チューナーを選んでみてください。
 


(2004年 5月分)

<最低限やるべきことはやってから、器材を選びましょう!>

1.シールドの比較の落とし穴

 当方のサイト中のページでも書いてあることなのですが、ギターやアンプ、そしてエフェクターのジャックや、シールド(ケーブル)のプラグのクリーニングはマメに行なっておく必要があります。
 これらの接続面に汚れがあると、ギター/ベースからの信号レベルの低下、高音域の劣化、そして最悪は接続不良によって音が出ない等、様々な問題が発生します。

 これも先日、当方の質問BBSで書いたことですが、特に、シールドについては、クセモノです。
 確かに、世の中には高性能で音の良いシールドというものが存在するのは事実であり、低性能なものと比べると、高音域の抜けが良い等、良好な音質を望めます。そのようなことで、インターネット上にも、”どこどこのメーカーのシールドに換えたら、驚くほど音が良くなったので、ぜひ、それを使ってみてください!”なんていうことを書かれている人は多くいらっしゃいます。

 これにおいては、本来は、プラグのクリーニングをマメに行なっている等、シールドのメンテナンスが十分であるという条件付きになります。例えば、プラグのメンテをしていないことにより、汚れが付いて高音域が劣化している状態のシールドを、全く同じ製品の新品に換えれば、良い音に聴こえるのは当たり前です。
 したがって、もともとが同程度の性能であれば、他社の製品に換えたとしても、必ず良い音に聴こえるわけで、これは本来比較とは言えない行為を実施していることになります。
 このようなレベルで、”この製品は良いぞ!”と公言してしまっている人が、ネット上には数多くいるのではないでしょうか?


 ベテランのスタジオミュージシャン等を除いては、プロのかたでも、メンテナンスはけっこういい加減なかたは多いですので、アマチュアミュージシャンのかたでは、かなりそのような可能性も考えられます。
 しかし、恐いのはインターネットという宣伝媒体でありまして、このような記事があると、多くの人はそれを読むだけで一種の暗示にかかってしまい、さっそくそのシールドを購入し、”やはり良い音が出た”と感じてしまうことが多いわけです。(本当は、それほど(全く)変わっていないにもかかわらずです。)


2.エフェクターでも同様です

 音の比較というものは、多分に”感覚的”と言うか”気分的”な要素が加わりますので、エフェクターの音等でも同様なことが発生し得ます。
 これは、某情報筋から聴いた話ですが(100%本当の話です)、あるかたが、かつて外国(某ロックの本場の英語圏の国)でエフェクター等を作って商売をしていたそうです。その時には、かなりのボロ儲けが出来たらしいのですが、要するに、一般の市販品とそれほど大差ない品でも、相手にうまいこと話をすれば、相手のかたは100%納得して買ってくれたらしいのです。
 中には、エフェクターの改良を頼まれた時に、全く中身を替えていないものを”改良しました”ということで再び渡しても、相手は”良い音になった!”と納得して(もちろん実際に音を聴いた上での話です)、喜んで帰っていったとか。


 人間の感覚なんてこんなものなわけで、市販のエフェクター等でも、ケースを変えただけでモデルチェンジと称して新発売しても、売れてしまうなんてこともあります。
 したがって、上記のシールドの話のように、ジャックやプラグのクリーニングは最低限行なっておこうとか、エフェクターの音を比較する場合は、同じ器材のセッティングでの比較を実施することや、録音してその時の音を記録しておこうとか、各自が努めるべきであります。
 結局、金と時間を無駄にして、損をするのは自分自身です。


(2004年 6月分)

<指を寝かすことの重要性>

 ”ギターにおいてチョーキングをした弦を戻す時に、となりの弦のノイズが出てしまうが、どうすれば良いか?”という質問は常にたいへん多いものです。
 これに関する対策としては、何と言っても指を寝かしぎみにすることに尽きます。しかも、これにおいてさらにポイントとなることは、”指を完全に寝かすわけでは無く、途中の状態で止める”ということです。

 日本におけるエレキギター文化においては、どうしてもクラシックギターからの流れの要素が強いものですから、”指をなるべく立てるようにして押弦すべし”といったことを平気で書いているロックギターの教則本が未だにけっこう存在し、”チョーキング”や”ロック系ギターのビブラート”を適切に行なうことの妨げになってしまっているという現象が見られます。
 すなわち、チョーキング(ベンド)という技が多用されるようになったブルースというジャンルにおいて、一般的に使われるシェイクハンドグリップでは、指を立てるのではなく、寝かす方向に持っていくということが重要点であることが見逃されがちであるわけです。(チョーキングは、基本的にはシェイクハンドグリップで行なうものですので、今回の話題では、クラシックグリップではなく、シェイクハンドグリップをメインに進めさせていただきます。)


 指を寝かすことのメリットとしては、上記のように、チョーキングを戻す際に、いっしょに持ち上げたとなりの弦を指先で引っ掛けてしまって開放弦を鳴らしてしまうことを防ぐということが1つにはあります。(開放弦ノイズを防ぐために、常に人差し指を伸ばしてミュートするという方法をとっている人も多く見かけますが、これは、人差し指の押弦を使った次の動作へ直ちに移行しにくいので、あまりお薦めではありません。)
 しかし、最大のメリットは、指の腹部分による他の弦のミュートということになるかもしれません。これを使えば、押弦している指も複数の弦のミュートに参加できますので(⇒例えば、人差し指で4弦を押弦する際にも、指の腹で1〜3弦の開放はミュート可能となります。他の指も基本的には同様です。)、ノイズが目立ちやすいロック系の音質ではたいへん有効となります。

 このためには、指を立てることももちろんNGですが、指板上で指を完全に寝かしてしまうのもマズイことになります。
 完全に寝かしてしまうと、目的の弦以外も押弦することになり、ヘタをすれば和音が出てしまうわけですから、ミュートできないのは当たり前ですが、この”他の弦を指の腹でミュートする”ためには、指の関節を寝かす一歩手前で止めて、その状態を保たねばなりません。
 この”途中で指の関節を固定する”という感じの状態は、一朝一夕にはできないものであり、フィンガリングの基本練習等の段階からのかなりの練習が必要になってきます。指先が指板に対して、30°以内の角度とするようなものとなりますが、”あまり気にしなくても経験を積めばそのうちできるようになるだろう”などと言うのは大間違いで、意識して毎日練習していかない限り、決してできるようになるものではないです。


 近年では、超速弾き系のギタリストが、クラシックスタイルのグリップを多用するため、”ロック系においてはシェイクハンドが当たり前”という以前の状態とは異なりますので、なおさら、いざ本格的なチョーキングやビブラートを行なおうとした場合に、また、開放弦のミュートを行なおうとした場合につまづいてしまうケースが多発しているようです。
 超速弾き系のギタリストは、プロのかたであっても、チョーキングやビブラートの使用頻度は低いですし、行なっている場合でも不完全なものが多いのが現状ですが、中にはチョーキングを行う際にシェイクハンドに切り替えている人もいらっしゃいます。また、ミュートに関しては、練習量によって、ノイズ自体を出さないようなフィンガリングにて対応しているという感じでしょうか。

 よって、チョーキングやロックギター系のビブラートを使いたいと思うならば、まずは、シェイクハンドグリップを使うようにすること(自分の手の大きさに合ったネックのギターを使用することも重要)と、この上で、指を寝かしぎみにした途中の状態で安定させられるようにする練習が必要となります。これまで、あまり気にしていなかった人は、もう一度基本に戻って練習してみてください。


 ちなみに、このことはベースの奏法も含めて、クラシックスタイルのグリップでもある程度同様なこととなりまして、人差し指については指の腹で他の弦をミュートすることはもちろん、他の指の腹でも必要に応じてミュートを行なうことは必要となります。指が立ち過ぎたり、寝てしまったりしないようにトレーニングしていってください。
 日頃から、フィンガリング時のノイズが気になる人等は要注意です。


(2004年 7月分)

<楽器系の製品の品質ってどうなの?>

 NGSでは、ギター用のストラップなども作っておりますので、楽器店に行くと、ついつい楽器よりも先にストラップを見て市場調査を実施してしまう今日この頃になっております。

 最近では、従来の楽器メーカー製のストラップに加え、米国の専門業者のものや、有名ミュージシャンも使用していると称する、国内の革もの専門業者製のものなど、色々なものを見かけます。
 米国直輸入のものなどに関しては、いかにもアメリカ人のセンスという感じの、下品な模様のデザインものが多いので、あまり気にしていないのですが(ただし、日本に入ってきていない現地のものであれば、さすがにレザークラフトの本場らしくけっこう良いものがあります。念のため。)、国産の専門業者で作ったとされるものは、やはり気になるので見入ってしまうのです。
 しかし、これらについても、4千円前後の値段では仕方がないところではありますが、やはり、特に仕上げが良いものとは見えないわけです。

 専門業者(とされる?)ものの製品がこの状態ですので、楽器メーカーの作っているもの(ただし、生産は下請けの革業者なのでしょうが)などは、材質も悪く、仕上げも荒く、はっきり言ってかなり低レベルのものです。
 自分がレザークラフトに関わる前は、もちろんこのようなことは分からなかった(気にしていなかった)わけですが、革に関することがわかってくるにつれて、上記のようなことを猛烈に感じ始めました。


 やはり、利益を見込んだ量産品ということでは、低品質のものを売るしかないものだということで納得するしかないのですが、ストラップに関してこのような状況ですので、楽器本体やアンプ、そしてエフェクター等に関しても、心配になってくるのも事実です。
 ストラップに関しては、それ自体が単なる革のベルトですので、ほとんど見た通り、触った通りがイコール品質ということで、ある意味わかりやすいわけですが、内部の電気回路や木材等が見えないギターやエフェクターは、外見だけでは本当の品質が見抜きにくいということが、非常に気になるところなわけです。
 事実、市販のエフェクターの内部を見てみると、これまた量産品では当たり前と言えますが、電気回路に使用されている抵抗やコンデンサ等の電気素子は、かなり安物(部品の値の精度や、環境温度に対する特性変化等が大きいもの)であることが多いわけで、やはり心配になってしまうものです。

 さらに、楽器の場合は、その部品や塗装等に関しては、外観上からある程度見えるとは言え、(少なくとも私に関しては)本当に手本となるような良い品のサンプルというものを見る機会があまりないわけで、その比較ができず、事実が判断しにくいと思うのです。(特に、内部の木材等は見えないので)
 これに関しては、オールドものの高値が付いている楽器を見れば良いと言われるかもしれませんが、塗装がハゲたり、ピックアップの劣化したようなコンディションの古いものの音を聴いて、どこまで本当のことがわかると言うのかということにもなりますし、例えミントのものでも、せいぜい塗装等の外観の質くらいしかわからないような気がします。
 したがって、木材等に関することを十分に学んだ上で、ギターを輪切りにでもして内部をよく見ない限り、それが本当に良い楽器なのかどうかを判断することは不可能であるような気がするわけです。(いくら、その時に良い音が出ても、耐久性がなければ結局使えないというようなこともあります。)


 ということで、楽器本体やエフェクターに関しても、我々はかなりメーカーにだまされているのではないか?と色々心配になってしまうのですが、とりあえずは気休めとして、先日のギターマガジンのストラップ特集を見る限り、日本のプロミュージシャンの方々は、実はあまりストラップには気を使っていないことがわかりました。
 よって、ストラップに関してだけは、あまり高性能は求められていないため、市販品もそのような程度のものだということが言えるのかもしれません。(ひとまず、これで一件落着としておきましょうかね。)


(2004年 8月分)

<ギター/ベースのボディと弦との距離について>

 私がかつてギターを始めた頃に、非常に気になったことの1つに”ギターのボディ上面から弦までの距離”というものがあります。

 単音弾きにしろコード弾きにしろ、弦をピッキングすることに関しては、そのギターそれぞれの”ボディ表面と弦との距離”によって、ピッキングする感覚が異なることになります。
 この距離については、ギブソン系のようなネックがボディに対して(上下方向に)角度が付いている種類のギターでは距離が大きく(広く)、フェンダー系のようなネックがボディに対して角度がなく、まっすぐに付いているような種類では距離が狭いものになります。


 この距離によるピッキング感覚の違いについては、結局は慣れということになり、どれが良いということは無いのですが、いきなりストラトからレス・ポールに持ち換えたりすると、けっこう違和感が生じることになります。
 特に、ピッキングの安定のためにピックを持つ指以外の指(薬指や小指)をボディに少々接触させて弾くような人は、この距離の違いによって、かなり弾きにくくなるのではないでしょうか。

 また、レス・ポールモデルの三角形のピックガード等においては、ピックガードを付けていると、指を開いた状態でコードカッティングを行なったりするとジャマになるので、外してしまっている人も多いのですが、これもまた、ボディと弦の距離が影響する例の1つと言えます。


 ということで、ピッキングの基本フォームの確認と共に、このような部分とのからみも検討してみることも重要かと思います。


(2004年 9月分)

<ネックを静止させたまま演奏できますか?>

 以前のこのページにて、”座ってギター/ベースを演奏する時の姿勢に注意するべき”ということを書きました。

 その内容は、イスに座って弾く時に、足を開いた状態で、片方の足に楽器を載せて弾いてしまうと、楽器が自分の正面に来なくなるため、ストラップを使用して立って弾く場合と状態が異なってしまうことになり、演奏上、色々と支障が出る可能性があるというものでした。

 今回は、これにさらに加えるような要素として、演奏中に楽器(基本的にはネック)がフラフラと動いてしまって、これまた演奏に支障をきたしていないかどうか?ということを挙げたいと思います。
 楽器(ネック)がフラフラと動くという現象に関しては、自分では意外と気が付かないものでして、ライブ時の録画の映像にて自分の演奏する姿を見てはじめて気づくというようなことが多いのですが、実は、イスに座って弾いている時などには、立って弾く時以上に楽器が動いてしまっていることが多いものです。

 なぜ、動いてしまうかということについては、ピッキングの際の手首や腕の動きに連動して、ネック側の手も動いてしまってネックを押したり引いたりしてしまうもの、または、フィンガリングやポジション移動時にネックを押したり引いたりしてしまうもの、そしてピッキング等の際に腕でボディを押してしまうものあたりが大部分の要因でしょうか。
 いずれにせよ、このように自分の体に対する楽器の位置がフラフラと動いてしまうと、正確で安定したフィンガリングおよびピッキングを行いにくくなるのは当たり前です。十分な経験者で、楽器が自分の体の一部になってしまっているような人は、だいじょうぶかもしれませんが、経験の浅い人では、この無駄な動きのために明らかにフィンガリングがスムーズでなかったり、ピッキングが安定した音量/音質でできなくなってしまっている人がいらっしゃいます。

 感情を込めて弾きたいということで、楽器を振り回すように動かして弾きたいというような気持ちもわかりますが、まずは、そのための基礎として、ネックを一点に固定したままフィンガリングを行い、安定して正確に弾けるということは必要です。
 ふと気が付くと、ネックを動かしながらでないと、弾けなくなってしまったりしていないでしょうか。少なくとも、ネックを動かさずに弾ければ、リズムに合わせて動かしながらも弾けるかと思いますが、この逆は意外にできないかもしれませんよ。さっそく、試してみてください。(テクニカルに精度良く弾こうと思えば、自然とネックは動かない状態になってくるとは思いますが)


 この対策としては、やはり、まずは、手や指、そして腕各部を独立して自由に動かせるような状態を形作ることがポイントになるでしょう。結局は、単音弾き/コード弾きの基本フォーム、そして各場合におけるフィンガリングの基本フォームのチェックということになりますが、これらの基本動作がきちんとできていれば、普通は、その必要部分の動作のみとなり、その動作に伴ってギター/ベースのネックやボディを押したり引いたりはしなくて済むはずです。

 また、各種テクニックの個々の動作時も同様で、ハンマリング・オンやプリング・オフの動作時には、なるべく指の動きのみで行うようにし、手首の動きで行わないようにする等は必須事項の最たるものです。ギターにおけるチョーキングやビブラート時には、手首の動きを使用するのは仕方がありませんが、この時も親指のネックへの接点あたりを軸とした回転運動とし、ネックに対して上下方向に力を加えない状態で行うことが要求されます。
 よって、日頃の個人練習においても、鏡に自分のネックまわりの状態を映す等して、各部の動きをたまには確認してみると良いかと思います。

 また、これに関しては、その他の要素として、ギター/ベースのボディおよびネックの前後の重量バランスや、立って弾く場合にはストラップの幅や裏面の状態、およびストラップピンの位置等もありますので、これらも合わせて検討してみると良いでしょう。


(2004年 10月分)

<クロマチックパターン練習の意義を再認識しましょう>

 当サイトのアドバイスのコーナーにも書いてある通り、”クロマチックパターンでのフィンガリングの基礎練習”とは、弦楽器を練習する上では必修事項であり、毎日最初に行う準備体操的な練習であるだけでなく、”弦楽器奏者たるもの、ヒマさえあればこれを行っているべき”というような重要なものです。

 フィンガリングの練習として、これをスケール練習で置き換えてしまい、全く行っていないという人もけっこうみかけますが、実は、クロマチック練習には、スケール練習では置き換えることができない要素が存在します。(クロマチックスケールという考え方も存在しますが、とりあえず、これは除外するものとします。)

 まず、通常のスケールポジションフォームにおいては、1本の弦につき3音ずつ(メジャースケール等)、または2音ずつ(ペンタトニックスケール等)で音が配置されているのが通常です。
 フィンガリングにおいて人差し指から小指までの4本の指を均等に使うとして、このような状態での1本の弦上の指の配置を考えれば、必ずどこかの指は使わなくて済むことになります。
 フィンガリングの基本要素としては、各指を独立させて動かせるということが重要なわけですが、例えば、ある弦において薬指は使わなくて良いような音の配置であるとします。(Cメジャースケールにおいて、E-F-Gと音が並んでいる場合等)  
 この時、小指を動かすべきところで、小指の動きに薬指がつられてしまい、一緒に動いてしまっていても、とりあえずは表面上の音には支障が無いことになりますので、本来重要であるはずの”各指の独立”ということができていないことが見逃されてしまう可能性が出てきてしまいます。


 このようなわけで、スケールでのフィンガリング練習では、完全に各指独立した動作の練習とはなりにくく、やはり、全ての指を均等に使用するクロマチックパターンのほうが、確実性/応用性において優れた練習方法となるわけです。
 スケールでの練習は、ピッキングする弦の移動の練習や、実際の曲中でのフレーズにおけるフィンガリング練習等には役に立つもので、やはり必修であるわけですが、応用性を伴った”基礎の基礎”という意味では、クロマチックパターンでの練習は避けられないものとなります。(⇒練習方法における詳細事項については、アドバイスのページを参照してください。)

 したがって、ベテランのかたでも、可能な限り毎日行うべきものです。ギターを弾いている限り、永久に付き合って行かざるを得ない練習方法と言えるでしょう。


(2004年 11月分)

<基礎さえできていれば、すぐに弾けなくても、落胆することはないのです>

 前回、”クロマチックパターンでのフィンガリング練習”の重要性について書きましたが、この理由としては、”応用性”ということが大きくあったわけです。
 この”応用性”とは、具体的にどのようなことかと言えば、”どのような指の動きのパターンにも柔軟に対応できること”という感じとなります。すなわち、”クロマチック練習によってフィンガリングの基礎をしっかりと作っておけば、どのようなフレーズに出会っても、無理なく対応できる可能性が高まる”ということです。

 ただし、注意すべきは、このことは、”新しく出会ったフレーズ(フィンガリングの動作のパターン)に直ちに対応でき、すぐに弾ける”という意味では無いことです。あくまでも、ある程度の練習期間を経れば対応できるということなわけですが、この練習期間を”大幅に短縮できる”ということなのです。
 すなわち、基礎の不十分な状態において対応するよりも、遥かに早い期間で、新しいフレーズを弾けるようになる可能性が高まるというわけです。

 さらに詳しく書けば、基礎のない状態で新しいフレーズに望めば、その多くが初めて経験する指の動作パターンになるわけで、それを覚えるには、一般的に考えれば多くの時間を費やす必要があることになります。しかし、全ての指を独立させて均等に使うクロマチックパターンでの練習を十分に行っておけば、それが初めてのパターンであっても、短期間の練習で弾けるようになるということであります。


 このような意味では、教則本等には、様々なフレーズが何十、何百も載っていたりするわけですが、これらを全てマスターしておけば、新しいフレーズに出会っても、すぐに弾ける可能性は高まります。しかし、それには大変な時間を要しますし、例え弾けるようになったとしても、実際に演奏する曲においてそのようなパターンが出てくなければ、努力は無駄に終わってしまう可能性があります。
 また、当然、それを使う場がなければ、じきに忘れてしまうでしょうから、常に多くのパターンを自分の中に温存しておくという行為は、実はけっこうたいへんなものなわけです。

 したがって、そのようなたいへんなアプローチをするよりも、どのようなものでも短期間の練習でマスターできるような基礎状態を、絶えずキープしておくようにしたほうが効率が良いということになります。(イチイチたいへんな苦労をするよりも、そのほうがずっと魅力的ではありませんか?)


 すなわち、基礎を固めておくことさえすれば、新しいものをすぐに弾けなくても良いのです。ある程度のキャリアを積んだにもかかわらず、弾けないフレーズ等に出会ってしまうと、落ち込んでしまうものですが、少なくとも、2〜3週間で弾けるようになれば、良しとするべきでしょう。
 したがって、そのような状態を達成する手段の1つとしても、クロマチックパターンでのフィンガリング練習というものは非常に有効であるということなのです。


(2004年 12月分)

<ストラトキャスターは初心者向きギターなの?>


1.CDショップでも売っているエレキギター

 最近は、新星堂(DISK INN)あたりのCDショップ等にも、当たり前のようにエレキギターが置いてあって、販売されていることが多いですね。
 このような販売方法をとると、エレキギター等が一般の人の目に触れる機会も増え、”ちょいとエレキギターでも弾いてみようか”ということで、ギター人口を増やす効果もあるように思え、なかなか良いアイデアではないかと感じるわけです。

 ただし、置いてあるギターは韓国製や中国製の1万円台のものが主流であり、いわゆる初心者用ギターなわけですが、この”初心者用”ということにおいては、私がギターを始めた30年近く前から今日に至るまで、ストラトキャスタータイプが前面に来ているという事実があります。(一般に言うところの”初心者用は安いギターで良い”ということも実は変な話なのですが)


2.エレキと言えばストラトなの?

 確かに、フェンダーのストラトキャスターの洗練された形は、デザイン的な要素から見れば、設計時から50年以上経った今日でも十分に通用するものであり、エレキギターの代名詞的なイメージがたいへん強いものと言えるでしょう。
 しかし、現在のバンド系の音楽ジャンルで使用されているエレキギター、特に、最初は誰でも通り抜けることが多いであろう”ハード系”のジャンルにおけるエレキギターをあらためて見てみれば、オリジナル仕様でのストラトキャスターを使っているケースは、実は少ないことに気づくのではないでしょうか。

 ストラトのオリジナル仕様というのは、基本的には、3つのシングルコイルピックアップを持ち、フェンダー系仕様のネックとなっているものということであり、もちろん前述したような初心者用のストラトタイプのギターもそのような仕様なわけです。
 私がギターを始めた頃は、エリック・クラプトンやリッチー・ブラックモア、そしてジェフ・べック等、ストラトキャスターをメインに使っているギタリストが全盛期でありましたので、”ロックギターを弾きたい⇒ギターはストラト”ということでよかったのですが、近年のロック系ギターにおいては、ストラトのオリジナル仕様では、対応できないことのほうが多くなってきているというのが現実だと思うのです。


3.”歪んでくれないと、きびしい”ということ

 この”対応できない”ということの主たる原因は、言うまでもないかもしれませんが、ストラトの装備するピックアップの標準仕様であるシングルコイルピックアップの出力の不足、ならびにその音質ということであります。
 シングルコイルタイプのピックアップは、ハムバッキングタイプのピックアップに比べて、どうしても出力値が小さいため、同条件のエフェクターおよびアンプの使用時で比較すれば、音が歪みにくくなります。また、これに加えて、高域の倍音がよく出ることから、ピッキングの強弱が明確に出ますので、初心者にとってはゴマカシのきかないやっかいなピックアップであり、腕を上げるまでにはなかなかの苦痛の原因となってしまいます。

 もちろん、それだからこそ練習になって、腕も上がるというものではありますが、その他、歪ませた場合のノイズが大きい等の問題もあり、少なくともハード系の音をそれなりに楽に出すためには、ハムバッキングピックアップを搭載したギターのほうが遥かに好ましいということです。と言うか、自分の目標がハード系の音だった場合、ストラトの使用では、いくらがんばっても求めるような音が出ないということにもなってしまいます。

 もっとも、イングヴェイ氏に代表される、いわゆる”様式美メタル”系においては、ストラトが好んで使われることは御存知のとおりです。
 しかしこの場合は、”アンプ等の機器の機能/条件にて、より歪ませるようにしていること”、”シングルコイルとは言っても、ハウリング等も防止する効果のある、ノイズキャンセル機能を持つタイプのピックアップを使っていること”、”バンドにはキーボードがいて、音の薄さをカバーしていること”といった各種カラクリがあってのものとなっております。
 要は、シングルコイル特有の音質を残した上で成り立つ環境があってこそ、というわけであり、一般のハード/ヘヴィ系でのものとは異なるものであるということです。


4.オリジナルストラトの再確認

 このようなことですので、要は、オリジナル仕様のストラトとは、決して初心者に適したギターではなく、逆に、弾きこなすにはかなりむずかしいギターと言えるわけです。(リッチー・ブラックモア氏も、かつて、そのように言ってましたっけ)

 ここで、その他の要因も含め、オリジナルストラトの仕様ならびにその問題点等をあらためて挙げてみます。


(1)ピックアップ

 ⇒シングルコイルピックアップがフロント/センター/リアの3箇所にあるという仕様であり、基本的には、歪ませないクリーンな音や、クランチ程度の軽い歪み向きのピックアップ構成となっている。よって、ハイゲインの強い歪みには向いていないので、より歪ませたいという場合は、少なくともリアピックアップをハムバッキングタイプのピックアップに交換しないと、どうしようもないことになる。


(2)ネックのスケール

 ⇒ロングスケールであるので、レス・ポール等のギブソン系のギターのミディアムスケールのネックに比べると、フレット間隔が広く、より指を開くことが必要。よって、手の小さい人や、女性の場合には、ミディアムスケールのものに比較して、演奏に影響が出てくることになる。(⇒そのような場合は、よりネック幅が狭く、全体も細いもの等の使用でカバーすることが必要。)


(3)フレットの種類

 ⇒ストラトキャスターやテレキャスター等のフェンダー系のギターのネックに打ってあるフレットは、一般的に細く、高さも低いものが多いので、音程がより正確で、コードワーク(コードを押さえること)等には向いているものの、テクニカルなソロ弾き等では不利な要因となってくる。(指先が指板に大きく接触しやすいことも手伝って、フィンガリング(特にチョーキング)を行いにくくなる。)
 ソロ主体の場合は、太めで高さの高いフレットへのフレット交換等が必要。(ただし、逆に、強く押弦してしまうことによるピッチの不安定さ等には注意となる。)


(4)演奏に適したジャンルは?

 ⇒(1)〜(3)の内容等から、オリジナルの仕様であれば、通常のポップス系、ファンク系、ブルース系、フュージョン系等のジャンルに向いているが、ハード/ヘヴィ系のジャンルには向いていないということになる。(ただし、様式美メタルでのもの等、周辺器材等を含む条件によっては可となる。)


5.メーカー側やお店側は、ユーザーのことをもっと考えてみてください

 ということで、とりあえず初心者だからということで、店の人に薦められるまま買ってしまったストラトキャスターは、けっこうなハンディとなってしまい、いくら練習してもそれっぽい音が出てこないというようなことになる可能性大です。そして、これゆえに挫折してしまったという人なども、けっこう多いのではないでしょうか。

 まあ、ギターを始めてから色々なことを学んでいけば、自然にオリジナル仕様のストラトでは対応できないということ等もわかってきますので、そのような流れで良いのかもしれません。
 しかし、それでも、初心者用ギターの代名詞がストラトというのは、何か変な話だと思ってしまいます。まさか、以前としてロック系のギターを始める人の好みがクラプトンやべックということもないでしょうし、ストラトを使うようなブルース系が多いとも思えません。また、初心者のかたの多くがファンク系等が大好きで、クリーンな音でのコードカッティングをしたいと思っているということもないでしょうし。(ただし、近年バンド活動を再開されることが多いと言われている30歳代、40歳代等のかたであれば、それもあり得ますが)


 最近では、初心者用ギターとして、レス・ポールモデルも置いてあることが多いのですから、ハムバッキングピックアップの入手もシングルコイル並みにできるはずです。よって、リアにハムバッキングピックアップを搭載したストラトを普及させたほうが遥かに現実的であるという気もします。(まあ、見た目の問題もあるので、むずかしいのかな・・)