<歪みに関する基礎知識>


(第一回)  チューブ(真空管)回路での歪みの音質の一般的イメージでの再確認



1.チューブ回路での歪み音のメリットとは?

 チューブ回路で歪ませた音は、トランジスタ系回路でのものに比べて良いということは周知の事実ですが、まずは、ここでもう一度、どのような点で良いのか?を一般的な見地で再確認しておきましょう。


(1)トランジスタ系回路での音に比べて、聴きやすい歪みの音質になる。

 ⇒トランジスタ系のアンプまたはエフェクターで歪ませた音が、高域がザラザラとしたきたない歪みの音質になるのに比べ、チューブ回路のアンプまたはエフェクターで歪ませた音は、耳障りの良い歪みの音質となるものです。


(2)ノイズが少なく、ハウリングも発生しにくい。

 ⇒トランジスタ系のアンプまたはエフェクターで歪ませた状態では、ノイズ音が多く、音量を上げるとハウリングが発生しやすいのに比べ、チューブ回路の場合は、大音量にしてもノイズ音が少なく、またハウリングも発生しにくいものとなります。


(3)音ヤセが少なく、バンド全体のサウンド中での音抜けも良好。

 ⇒トランジスタ系のアンプまたはエフェクターで歪ませた音が、細い感じの音になってしまい、音量を上げてもバンド全体の音の中において聴こえにくくなってしまうのに比べ、チューブ回路での音は輪郭のある太い音であり、バンドの音の中でもしっかりと抜ける音としやすいものとなります。


(4)和音(コードでの音)の崩れが少ない。

 ⇒トランジスタ系のアンプまたはエフェクターで歪ませた音の場合、コード(和音)の音が崩れたようになり、パワーコード等のコード以外はきれいに聴こえないのに対し、チューブ回路では、3度や7度の音も含んだ、パワーコード以外のコードも比較的きれいに聴こえることになります。




2.チューブ回路のデメリットとは?

 1項で書いたように、音質等の演奏上の話においては、チューブ回路での歪み音のほうが、トランジスタ系回路での歪み音よりも、全てにおいて優れていると言えます。
 しかし、その他、求める音質によっては、また、機器上の様々な項目等においては、チューブ回路を使った機器(アンプ、エフェクター)のほうが劣っている点もけっこうあるという事実があります。

 ここでは、今一度、”それでもチューブの機器が使われ続けるのはなぜか?”という意味を考えることも含め、これについてもまとめておきます。


@クリーンな音では、トランジスタ系の回路の機器のほうが扱いやすいことが多い

 ⇒歪ませないクリーンな音、それもブルース等のジャンルではなく、ポップスやフュージョン系でのクリアーな音を出すような場合は、中域の出た太い音質になってしまうチューブアンプ等よりも、トランジスタ系のアンプのほうが適した音質となります。

A機器のサイズ/重量が大きい

 ⇒チューブ回路の機器では、チューブの作動のための高電圧を発生させるトランス等の存在、またチューブから発生する熱の放熱の点から、どうしても機器全体が大きく、かつ重くなってしまい、輸送手段等に制限が出ることになります。

B消費電力が大きく、バッテリーでは作動不能

 ⇒チューブにはヒーター用の電流容量の大きい電源が必要なため、一般には電池等での電源では動かせないことになります。100VのAC電源、またはこれに準じたものが必要となります。

Cチューブの寿命が短い

 ⇒チューブは使うほど劣化するので、定期的な交換が必要になります。プリアンプ部のチューブ(プリ管)は数年程度はもちますが、パワーアンプ部のチューブ(パワー管)は、毎日数時間使うと半年ほどで交換が必要になることになります。
 また、パワー管の交換は、一般的には2本1組での交換となり、さらに交換時には調整作業が必要となりますので、工賃を含め、けっこうな金額がかかることにもなってしまいます。


 このようなことなのですが、このような数々の短所があるにもかかわらず、依然としてチューブアンプ等が使い続けられる理由は、何よりもその音質が優れていることにあるわけです。


 ということで、次回からは、1項で挙げた各メリットに関して、少々専門的な見地から見ていくことにします。