<BASS、これだけは知っておこう!(演奏技術基本編)>
2.ピック弾きの際の注意事項
・ピック弾きにおいてポイントとなる事項を以下に挙げます。
1.強いピッキング、リズムの安定ためには、腕の振りを使うことが有効
ピック弾きのメリットとは、指弾き時に比べ、倍音の多い輪郭のはっきりした音になる等、基本的には音質に関するものとなります。よって、このような要素が達成されていなければ、あえてピック弾きを行うことに意味がなくなる可能性が生じます。
プロミュージシャンのかたにおいても、ピック弾きの際に、手首のみの動作や、場合によってはピックを持つ人差し指と親指をメインとした動作でピッキングを行っているようなかたがいらっしゃいます。
しかし、弱いピッキングでもそれなりの音量が出てしまうアクティブタイプのベースならばともかく、ギターに比べ遥かに太く張力の大きいベースの弦を十分な強さで弾くには、手首等だけでの動作では限界が生じやすくなってしまいます。
よって、当方としては、ひじから先の腕の上下の振りの動作をメインとし、これに必要に応じて手首から先の上下の振りの動作も加えていくような方式を推奨したいかと思います。(⇒画像1−1〜4参照、画像では腕と手の状態がわかりやすいように実際よりも大きな振り幅としています。)
この場合、ひじから先の腕と手首をまっすぐに伸ばした状態を基本とし、この直線上にピックが乗る形で腕と手を上下に振ることになりますので、ピックは弦に対して幾分角度が付いた状態で当たることになります。
ピックと弦の角度については、弦に対してピックを平行にしたほうが、抜けの良い大きな音量を望めることにはなりますが、平行ですと弦がスムーズにピックから抜けず、速度を上げにくくなったり、リズムが不安定になる恐れがあります。
ピックと弦の角度は30度以内程度とすべきですが、瞬発力を使って一気に振り抜くような動作とすれば、弦上をピックが滑るようなこともなく、正常なピッキングが行えるはずです。
画像1−1 基本フォームの一例
画像1−2 動作の開始状態
画像1−3 最も下端まで振った状態
画像1−4 最も上端まで振った状態
2.となりの弦に向かってピッキングすることが最重要
上記のような方式を使うと、リズム的にも安定したものを得やすいというメリットもあるわけですが、このためにも、手首及び腕を上下方向に振って、ピック先がとなりの弦に向かうようにするべきで、これによってピックで十分に弦を押してから離すようにすれば、大きな音量で輪郭があり、抜けの良い音が出るようになります。(⇒画像2−1、2−2参照)
音量を上げるということは、ピッキング時の音量の調整範囲が広くなるということであり、これによって、ベースラインにおける音の強弱によるニュアンスを出しやすくなるという重要な要素につながります。また、小さい音量でピッキングした場合にも、相対的に電気回路的なノイズ音に負けないはっきりした音を出すことができることになります。(⇒最大音量時には少なくともピック先で弦を5mm程度は押してから離すことを心がけていただきたいかと思います。)
この動作においては、弦がピックから抜けた後も、ピック先が弦より下方(ベースのボディ上面側)にあるように、弦を乗り越えるようにピッキングすることがポイントです。
ピック先が弧を描くような、手首を回すようにする動作(うちわをあおぐような動作)等では、リズムが安定しにくいばかりか、十分な幅で弦を振動させることも困難になりやすいですので注意となります。
さらに、腕での動作を使えば、動作時に力を入れる部分も腕および手首全体に分散されますので、手首のみといった局所的な負担とならず、楽に長時間のピッキングを行えるというメリットも出てくるものです。
このピッキング動作での強さと安定度については、ベース無しでも確認が可能であり、(左手で右手首を握って固定した状態で)手首のみを上下に振った場合と、(ひじを固定して)ひじから先の腕および手首を上下に振った場合とを比べてみれば、感覚的にも明確に感じることができるかと思います。
画像2−1 弦をピッキングする直前の状態
画像2−2 弦をピッキングし終わった直後の状態
3.となりの弦にぶつかる前にピックを止める
となりの弦に向かってピッキング動作を行えば、ピックはとなりの弦に当たってしまいますが、指弾き時とは異なり、ピックがとなりの弦に当たる前に動作を止める(⇒制動をかける)ことになります。
したがって、ダウンピッキングとアップピッキングを交互に行う”オルタネイトピッキング”の場合、ピックの振り幅はピッキングする弦の両隣の弦の間の範囲となるわけです。(⇒図3−1参照)
このためには、腕や手首まわりをベースのボディに接触させることがポイントであり、これによって細かい動作の制御が容易になってくるはずです。
また、このようなピッキングの振り幅では、意外に狭いものとなりますが、瞬発力を十分に使えば、いくらでも強いピッキングは可能であり、ピックを弦に当てた位置からスタートしても十分な音量を出せるように、瞬発力を養っていくことが大切です。
図3−1 ピッキング範囲の断面図
4.腕で支えれば、ピッキング位置の移動も楽になるということ
任意の弦を自由にピッキングできるようにするには、手首位置の自由度をできるだけ高めることが必要となりますので、まずは手首の位置は必要に応じて柔軟に移動できるような体勢を作るべきです。
これは、すなわち、手首や手刀といった部分の位置をしっかりと固定するべきではないということであり、固定せず常に自由度を持たせることが必要ということです。
ということで、上述したような”腕の振りを使ってピッキングを行う”ということを実施すれば、この手首の自由度ということも自然と実現できることになります。
ひじ付近の腕部分をベースのボディ上面にしっかりと接触させれば、そこを支点のようにして、手首は自由になりますので、1弦や2弦をピッキングする場合でも楽に移動ができるはずです。
また、1/2弦等を弾く場合に、手首まわりを4弦やボディ上面に軽く接触させて安定度を高めることは行っても可となります。
5.ダウンピッキングのみの場合でも同様
ベースのピッキングにおいては、演奏する曲によってはオルタネイトピッキングではなく、ダウンピッキングのみで弾くこともありとなります。
しかし、ダウンのみの場合でも、ピッキングの強さやリズムの安定度に関することは同様ですので、やはり手首のみではなく、腕の振りも加えるようにしたほうが、結果的には楽に目的を達することができることになるかと思います。
またこの時、ダウンピッキングに有利なように、ピックを幾分傾けた状態で行うこと等もokとなります。この状態でのダウンピッキングを行うと、ピック先が弦に局部的に当たることになり、より高域の倍音が発生し、音の輪郭がはっきりするといったこともあります。(⇒画像5−1参照)
画像5−1 ピックを傾かせた状態
6.ギターのピッキングとの相違点を明確にとらえておくこと
ロック系のギター奏法においては、ブリッジミュートというものを多用するため、手首まわりをブリッジサドル付近に置いて、手首から先を上下に振るというスタイルとなりがちです。 しかし、より速度の速いピッキングを行う際には、手首位置を多少浮かせて腕を振る動作で弾くことを行うことにもなります。また、ギタリストによっては、よりパワフルに弾くために、通常から手首は固定せずに腕の振りで弾く人もいます。
しかし、ベース奏法においては、ギターのようにブリッジミュートを使うことは少ないですので、手首をブリッジまわりに置くといったことは本来必要がないと言えるかと思います。また、1項でも書いたように、ベース弦はギター弦に比べて遥かに弦の張力が大きく、その抗力に十分な力で弾くためには、どうしても腕の振りも使った動作が必要になってくるものです。
もともとギターを弾いていた人がベースを弾く場合に、ギターからの流れで、手首のみの動作や、指の曲げ伸ばしをメインにした動作になってしまっている場合も多いようですが、”ギターとベースではピック弾きとしての考え方が異なる”ということをよく検討した上でのアプローチが必要です。
7.アクティブタイプの場合は?
1項にて書いたように、プリアンプを内臓したアクティブタイプのベースの場合は、ピッキングの強弱が一定化されてしまうものがあるので注意となります。
このような場合、プリアンプの電気回路によって音量と音質が大部分決まることになりますので、ピッキングの方法の良否もあまり関係がなくなってくる恐れがあります。
アクティブタイプのベースを使用しているかたは、自分のベースの音の特性等をよく知った上で、演奏している曲のジャンルに本当に合った音となっているかどうかを判断することが大切です。
8.演奏時のベースの高さによる影響
ストラップにてベースをかなり低い位置にした場合は、腕まわりをベースのボディ上面に載せることが出来ず、結果として手首部分をブリッジまわりに置いてピッキングしている”といったことがあります。
これに関しては、慣れ次第ということになるのかもしれませんが、基本的には、手首を固定しがちになってしまうことから、弦移動を行いにくいですし、また、強いピッキングやリズムの安定といったことについても不利にならざるを得ないかと思います。
ベースを低い位置にすることは、あくまでもライブ時等におけるビジュアル的効果を狙うということで、演奏性を犠牲にして使うというかたもいらっしゃるくらいですので、このあたりについては、十分に検討してみてください。
硬い音を出す目的のためにブリッジ付近でピッキングを行うといったことでなければ、ベースを低い位置にしても、手首付近をボディ上面に軽く接触させながら、腕の振りで弾くことは可能ですので、やはり練習次第ということにはなるかと思います。
ただし、多少は親指を反らせる等して、ピックと弦の角度があまり大きくならないようにするといったことは必要となります。(⇒画像8−1参照)
画像8−1 ベース位置が低い場合
9.使用するピックについて
ロック系の演奏においてベースのピック弾きに使われるピックは、三角型(オニギリ型)でハードタイプの厚さのものが一般的には多いかと思います。
ギター弦に比べ、抗力の大きいベース弦をピッキングする場合には、ピックをしっかりと保持し、指先からのズレを防ぐため、ある程度の面積のあるピックが良いことになります。
また、厚さが薄く、すぐにしなるようなものでは、弦がピックから抜けにくくなり、ピッキングの振り幅がムダに大きくなってしまうといったこともあり、結果として強いピッキングを行いにくいという問題が生じやすいものです。
これにおいては、十分な強さで弾くためには、ミディアム以下の厚さのピックでは、すぐに割れてしまうという理由もありますが、いずれにせよ、ギター用のティアドロップ型のもの等ではなく、三角型でハードタイプのものが最も使いやすいものとなってくるでしょう。
さらにこれを逆に言えば、ミディアムの厚さのピックで割れてしまう程度のピッキング力は必要ということになりますが、演奏する曲によって適したピックが変わってくる場合もあります。
10.空手チョップを打つつもりでピッキングしましょう!
上述したように、十分な瞬発力を使えば、たとえ弦にピックを接触させた状態から動作を始めても、いくらでも強いピッキングができ、大きな音量を出すことが可能です。
このような動きの具体的イメージとしては、空手チョップの動作(手刀を打ち込む動作)あたりを考えていただければ良いかと思います。これにおいて、相手に大きなダメージを与えるためには、ひじから先の腕と手をまっすぐに振り下ろすようにするはずです。
できるだけ強い打撃とするには、瞬発力を使った素早い動きとすることも重要となりますが、手首のみを振り下ろすことや、手首を回転するような動作(⇒うちわをあおぐような動作)では、相手にはほとんどダメージを与えられないでしょう。
したがって、相手を弦と考えれば、上述してきたような体勢で十分な瞬発力を使ったピッキング動作が良いと考えられるわけです。
11.ピックを持つ力具合で音量調節が可能
ピックを持つ力(⇒指でピックをはさむ力)を変えることにより、ピッキングによる音量を調節することが可能となります。
これにおいても、あくまでも腕や手全体を振ることによってピッキングを行うということが大きな意義を持つことになりますが、動作の中で、”ピックを持つ指の力を微妙に調整し、ピックが弦に当たることによって傾く量を変化させ、弦を押す(引く)度合いを調整する”という過程で行うものです。
この方法を利用すれば、常に一定の動作中で音量を変えられることになりますので、ピッキングの振り幅を変えたり、弦に当てるピックの深さを変えたりして音量を調節する等よりも、はるかに効率の良いものとなりますので、練習を重ねてマスターしていただきたいかと思います。