7.アンプのトーン調整つまみの位置


(ポイント)

1.初めは、各つまみ共に中間位置(フラット位置)にして音色を確認し、必要に応じて上下させ、調整するのが基本。

2.目盛りが1から始まり10で終わる類のものは、パッシブ回路によるもの。初めの位置は5の位置とする。(⇒5の位置をフラット位置と考える。)

3.目盛りが0を中心として、+方向および−方向にあるものは、アクティブ回路によるイコライザー方式。初めの位置は0の位置とする。(⇒0の位置が電気回路的にもフラット位置となる。)

4.パラメトリックイコライザー(パライコ)方式のものの場合も、最初はLEVELツマミを0の位置にすれば、フラット位置となり、基本的にはイコライザーは働かなくなる。

5.一部のベースアンプ等に搭載されているグラフィックイコライザーの場合も、まずは各スライドボリュームのツマミを0の位置にすることが基本となる。



(解説)

1.エレキギター/ベース用のトーンコントロール回路とは?

 エレキギター/ベース用のアンプには、通常トーンコントロール(音色の調整)回路が付いておりまして、音の高さ(周波数帯域)に応じて、トレブル(TREBLE⇒高音域)、ミドル(MIDDLE⇒中音域)、バス(BASS⇒低音域)等に分けられ、それぞれの調整用のつまみによって、各々の音高さの担当範囲を上げたり下げたり出来るようになっています。(⇒機種によっては、さらに細かく帯域が分けられ、HiMid(⇒中高音域)やLoMid(⇒中低音域)等の調整が付いているものもあります。)

 パッシブピックアップ及びその回路を搭載したタイプのエレキギター/ベース(⇒一般的なエレキギター/ベース)の本体に付いているトーンコントロール機能部は、つまみが1つだけで、全開時(右に回しきった状態⇒フルテン)がその楽器の生音状態となり、絞っていく(左に回していく)とだんだんと高音域がなくなって、こもったような音になっていくというシンプルな構造です。

 これに対し、アクティブピックアップ及びその回路を搭載したタイプのエレキギター/ベース(⇒本体に電池を入れる必要のあるギター/ベース)の本体に付いているトーンコントロールは、つまみが3つほどあり、それぞれがトレブル、ミドル、バスの帯域等に分けられ、それぞれをブースト(増幅)/カット(減衰)可能である、いわゆるイコライザー方式となっているものが通常です。

 それでは、アンプのトーンコントロールもつまみが3つあり、各帯域に分けられているので、ブースト/カットが可能なイコライザー方式であるかと言うと、実はそうである場合とそうでない場合があり、どちらかと言えばイコライザー方式でない場合が多いのです。フェンダーやマーシャル等の老舗の海外ものアンプ、ローランドのJC等の国産のアンプのトーンコントロール回路はほとんどがパッシブ方式で、これらはフェンダーによって開発された回路系が基本的に流用されております。
 このことは、エレキ楽器用のアンプが、通常のオーディオ用のアンプと大きく異なる部分の1つでもあります。(オーディオアンプでは、イコライザー方式またはそれに準じた形式が多い)


2.どちらの方式かを見分ける方法は?

 どちらであるかを見分ける方法としては、まずはつまみの周りに表示してある目盛りを見てみてください。

 1(一番左に回しきった所)から10(一番右に回しきった所)までの目盛りになっているものは、イコライザー方式でなくパッシブ回路による方式です。
 そして真ん中の位置の目盛りが0で、右に回していくと+1とか+5とかの表示になっていき、 逆に、左方向は−のついた表示になっているものはイコライザー方式、すなわちアクティブ回路によるものです。

 また、アンプによってはトーンコントロール部に”イコライザー(EQUALIZER)の表示がされてあるものもあります。


3.それぞれの方式による効果の相違は?

 パッシブとアクティブ、2つの方式での音色調整の効果の違いは、楽器本体におけるものと同様で、パッシブ方式の場合はそれぞれの帯域をカットすることは出来ても、ブーストすることはできません。
 これに対しアクティブの場合はそれぞれの帯域個別にブースト/カットが可能となります。

 したがって、アクティブ方式の場合は目盛りが0である真ん中の位置にすれば、それが生音(フラットな音)になるわけですが、パッシブ方式の場合は、目盛りを真ん中である5にしても、それはフラットな音ではないのです。どちらかといえば右に回しきった10の位置がフラットに近い音色ということになります。

 ただし、パッシブ/アクティブ共にトーンコントロール部以外でも、内部の回路にて、高音域や低音域を必要に応じてカットされていたりしますので(⇒増幅された生音は意外に聴きづらいのです。)、結局は”生音はどれか?”と言っても、トーンコントロール回路に入力される時点で、既に生音ではなくなっているというのが現実ではあります。


4.どちらの方式が優れているか?

 2つの方式でどちらが優れているかといえば、やはり機能的にはブースト/カットが自由にできるという点で、アクティブ方式のほうがダントツに優れています。
 しかし、一般に使用されているフェンダータイプのパッシブ方式の回路は、部品数が少ない割りになかなかの優れものであり、実用的にはあまり問題はないと言うこともできます。(要は、これを生かすも殺すも前後の回路の設計にかかっているということなのですが。) 

 また、逆に、アクティブタイプの回路は、回路に使用する電気素子の特性が音質に反映されやすく、ヘタに安物の素子を使うと良い音質を損なう危険性もあります。
 特に、製作コストを考えた場合、パッシブ方式の回路は非常に有利なもので、アクティブ方式では部品代だけでもパッシブの10倍以上かかります。

 このことにより楽器用アンプでは、特に高級志向のものを除いて、通常はパッシブ方式のトーンコントロールとなっております。


5.ではトーンの調整方法は?

 そのようなことで、問題になるのは、アンプの設定をする場合、最初にこれらのトーンコントロールのつまみをどの位置にしてから始めれば良いか、ということでしょう。

 答えとしては、基本的には、”パッシブ/アクティブ共に真ん中の位置から始めましょう”ということになります。すなわちパッシブなら5の目盛りの位置、アクティブなら0の位置です。

 この状態で、もし音色が気に入らなければ、必要に応じて上げ下げして、補正していただければ良いわけです。
 すなわち基本思想としては、それぞれの成分を上げたり下げたり調整できる余裕があるような状態を最初の状態とすれば、とりあえずは困らないであろう、ということです。
 パッシブ方式の場合に、全開が生音に最も近い状態だからと言って全開から始めてしまうと、それ以上はその帯域を上げられないことになります。
 音色設定は各帯域のバランスによって大きく変化しますから、そのような状態では少々困ったことになってしまうでしょう。


 
一般的なパッシブ回路のトーンコントロール



6.各種のイコライザー方式の場合でも同じ

 アンプによっては、トーンコントロールの基本的な方式はパッシブタイプでも、ミドルの調整部だけが、中心周波数を変えられる等の機能を持つ”パラメトリックイコライザー(パライコ)”になっているものや、トーンコントロールとは別に、細かく分けられた各周波数帯域別にブースト/カットのできる”グラフィックイコライザー(グライコ)”を装備しているものもあります。

 この場合でも同様に、最初の位置は目盛りが0の位置にし(⇒パライコの場合は、LEVELのツマミの位置さえ0にすれば、基本的にはイコライザーの機能は働かないことになります。)、必要に応じてブースト/カットを行い、音質を調整すれば良いことになります。


 

 パラメトリックイコライザー(⇒FREQUENCYのツマミによってイコライザーが働く中心周波数を設定し、Qのツマミによって働く周波数の幅を設定、LEVELのツマミによって設定した範囲のブースト/カットを行います。)


 

 グラフィックイコライザー(⇒各周波数帯域別のスライドボリュームによって、それぞれの帯域のブースト/カットを行います。)



7.最後に、とにかく頭に入れておいてもらいたいこと

 以上、書いてきたように、アンプのトーンコントロールというものは、楽器からの生音に対して、それを調整する唯一の機能であるというイメージが世間にはあるのですが、実際には生音というものの定義はあいまいなものであり、どれが好ましい意味での生音かは、電気楽器の場合、はっきりとしないものです。

 もちろん基本的な音色は楽器の本体そのもので決まるわけですが、思った以上に電気回路は生音を変化させてしまっています。
 これは、そのアンプによってそれぞれ異なる個性を持っておりますから、それがどのような傾向を持ったアンプかをよく理解しておくことが必要となります。

 やはり、前述したようにトーンコトロールのつまみを全てセンター位置にして、とりあえずは、まともな音色となるように設計されたアンプが好ましいと思うのですが、マーシャルのようにかなり調整しないと一般的な音とならないものもあったりして、なかなか難しいところです。
 設計者の趣味が露骨にあらわれるところですね。(時として、実用性をあまり考えていないような設計者もいらっしゃるようですが)