5.パッシブタイプとアクティブタイプのピックアップ系
(ポイント)
・パッシブタイプの長所:
・ピッキングの強弱等のニュアンスをそのまま素直に出力してくれる
・電源の必要がない
・パッシブタイプの短所:
・ノイズの影響を受け易い
・条件により、アタック時の出力の反応が遅くなる
・低音域、高音域において信号レベルが減衰する場合がある
・アクティブタイプの長所:
・ノイズの影響を受けにくい
・アタック時の出力信号のレスポンス(反応)が良好(⇒ギターでのコードカッティング、ベースでのスラップ奏法等に有利)
・低域、高域における信号レベルの減衰が少なく、生音全体の全帯域の音を忠実に出力してくれる(⇒出すべき音の帯域幅が広い多弦ベースでは有利)
・アクティブタイプの短所:
・電源(電池)が必要であり、電池切れに注意する必要がある
・ピッキングの強弱のニュアンス等が出にくい場合がある
・電気回路の特性が音質に出やすく、その回路独特の音しか出ないことも多いので注意となる
(解説)
1.ピックアップとは?
”ピックアップおよびそれに付随する回路”は、耳で聴くことができる音にもなる、ギター/ベースの弦の振動を電気信号に変換し、その信号を外部に出力してくれる働きをつかさどる部品で、エレキ楽器の電気的な心臓部です。
2.パッシブタイプとアクティブタイプの見分け方は?
現在、一般的に使用されているピックアップは、パッシブタイプとアクティブタイプの2種類があります。(その他にピエゾピックアップと呼ばれるもの等がありますが、使用する用途が限られていることもあり、まだ少数派です)
パッシブタイプは、ギター/ベースに電源の必要がないものですが、アクティブタイプは電池による電源がないと電気信号を出力することができません。また、パッシブタイプの各種コントロールつまみは、基本的にはボリュームとトーンコントロールの2種で、ボリュームはフルアップにした時がそのギター/ベースの生音のレベル、トーンもフルアップにした時が生音です。
これに対し、アクティブタイプのものは、楽器内部にプリアンプ回路を内蔵し、信号レベルと音色を生音に対し加工することが可能です。ボリュームは生音レベルからさらにレベルアップ、すなわちブーストすることも可能ですし、トーンコントロール部は、トレブル(高音域)、ミッド(中音域)、ベース(低音域)等に分割してそれぞれの音域をアップ(ブースト)およびダウン(カット)することが可能なイコライザー機能が持たされているのが通常です。
3.アクティブタイプが開発されたワケ
アクティブタイプにおける上記のプリアンプ/イコライザー機能は、あくまでも結果的に付加することができたもので、アクティブタイプの本来の目的はギター/ベースの信号がアンプに到達されるまでに混入してくるノイズ(雑音)を低減させるというものです。
磁石とコイルによって構成されている一般的なピックアップは、インピーダンスが大きい(⇒出力インピーダンスが大きい:インピーダンスについては別項参照)なため、ギター/ベースの出力信号をノイズの影響を受けないような十分なレベルで、アンプやエフェクターで受けるには、エフェクターやアンプの入力抵抗(入力インピーダンス)を大きくしなければならないことになります。
また、これとは別に、空間には各種電波/電磁波が飛び交っておりますが、ピックアップ自体や、その他ギター内部の電気回路部はアンテナのようになって、この電波/電磁波をキャッチし、それはノイズ信号となってアンプやエフェクターに送られてしまい、やはりノイズとなって楽器からの本来の信号を妨害します。
よって、信号をなるべくきれいな状態でアンプから出力させるには、回路内部に存在するようなノイズ、および空間からのノイズの2種のノイズを防ぐことが必要になるわけですが、アンプやエフェクターの入力インピーダンスが大きいほど空間からのノイズは大きくなってしまいます。
しかし、ピックアップのインピーダンスが大きい故、内部ノイズ等を防ぐために入力インピーダンスを大きくしたのですから、これを小さくすることはできません。
よって結果的に、パッシブタイプのピックアップでは、この2種のノイズ対策を両立させることができないので、ノイズに対しては本質的に弱いものとなってしまいます。
アクティブタイプはこの弱点を克服するために開発されたものです。まず、ピックアップのコイルの巻き数を少なくし、回路の出力インピーダンスを小さくするようにします。しかし、これでは、ピックアップの出力信号レベル自体が小さくなってしまいノイズが相対的に大きくなってしまいますので、楽器内部にプリアンプを設け、これを通すことによりレベルを上げるようにします。
また、このプリアンプによっても出力インピーダンスをさらに下げられますので、アンプやエフェクターの入力インピーダンスはそれほど大きくしなくても良いことになります。これにより回路内部のノイズ、および空間からのノイズ両者に強い全体構成となるわけです。
しかも、前述したことも含め、この目的以外にも次のような色々な副産物が生まれました。
@プリアンプ形式の回路とするため、イコライザーを内蔵でき、アクティブなトーンコントロールを行うことができる。
Aプリアンプのゲインを上げれば、ピックアップが拾った信号レベルをさらに増幅(ブースト)して出力することができる。
Bプリアンプの回路は、回路動作が速いため、ピッキングのアタック時にもすばやく反応し、結果的にピッキングしてからの音の立ち上がりまでの時間(レスポンス)がたいへん速いものとなる。(⇒ギターでのコードカッティングや、ベースのスラップ奏法(チョッパー奏法)を行う際には、特に有利となる。)
C低い周波数から高い周波数まで、レベルが下がることなく生音の周波数範囲に忠実な電気信号が生成でき、それをアンプから出力することが可能になる。これは、特に通常よりも低い周波数の音を出す必要のある5弦や6弦の多弦ベースでは必要なこととなる。
4.ではアクティブタイプは良いことばかりなのか?
このように、良いことばかりに見えるアクティブタイプなのですが、実際にはあまりよろしくないことも、付随して発生してきます。
まず、顕著なものでは、上述したA、Bのことから、ピッキングの強弱を付けること等が難しくなってくるというものがあります。
これは、ギター/ベースを一定の音量でひたすら安定して長時間弾くといった場合には長所となるのですが、微妙な強弱のニュアンスをつけようとしても、瞬時に音が大レベルで出てしまい、また、回路の素子特性や電源電圧値によって信号が一定レベルになってしまうため、これが難しくなってしまうことになるわけです。
また、プリアンプの内部回路に存在する、高域や低域をカットするためのフィルタ回路により、中音域に集中したような作られた音質になってしまうことや、使用されているトランジスタやIC等の電気素子の音質特性がモロに出てくるため、かえって自然な音質が損なわれるということも発生します。(これは、その回路の設計によって、様々なキャラクターがあります)
これに関しては実際に弾いてみるとわかりますが、極論してしまうと、ノイズ等を別とすれば、誰が弾いてもある程度良い音が出せるが、それ以上のものは決して出てこないということが有り得るということです。
また、ブーストできるため、ついついそのハイパワーに頼って爆音オンリーの音としてしまい、音の輪郭がよくわからないような音を出しているといったベース奏者もよく見るところです。
5.演奏目的によって使い分けることが必要
上述したように、結局、パッシブタイプとアクティブタイプは、その使用するジャンルによって住み分けが必要ということになるようです。
確かにパッシブタイプのノイズの多さは問題ですが、使用する周辺機器の選択によって、問題ないレベルに押さえることはできますし、なによりアクティブタイプが登場してから20年以上経つ現在、未だにパッシブタイプがまだまだ多く存在していることがその証明でしょう。(⇒スタジオミュージシャンなどでは、特定ジャンルを除いては、やはりパッシブのほうが多いそうですよ)
また、5弦や6弦ベース等においても、近年ではパッシブタイプのものが出現してきております。