20.ステレオとは


(ポイント)

1.録音した音を再生する場合に、左右方向に空間が広がるような効果を与える音響的な技術方式

2.電気楽器でも、ステレオ方式のエフェクターと2つのアンプ/スピーカーを使用することにより、擬似ステレオ効果が可能

3.MTR等でのレコーディングでは、ディジタルリバーブを使用して、音全体に広がりを持たせるようにすることが可能


(解説)

1.ステレオとモノラル


 人間の耳がなぜ2つあるかと言いますと、聴こえている音の発信源が自分に対してどのあたりの場所にあるかを認識するためです。右耳から聴こえている音量が左耳からよりも大きければ、人間はその発信源が自分より右にあると認識し、左耳からの方が大きければ左にあると認識します。そして両方の音量が等しければ自分の正面にあると感じるわけです。

 これを利用すれば、正面方向の左右に1つずつスピーカーを置いて、それぞれから出る音量をコントロールしてやれば、あたかも音源が左右方向に対して色々な場所から発しているように認識でき、音において空間が広がったような効果が得られます。
 この効果を得るには、上述したように基本的には2つのスピーカーが必要です。1つのスピーカーではいつも一ヶ所から聴こえるように感じてしまうことになり、空間的効果は得られません。

 ということで前者の2つのスピーカーを使用した擬似空間効果を”ステレオ”と呼び、これに対し、後者の1つのスピーカーしかない場合を”モノラル”と呼んでおります。
 CDやMD、またカセットテープ等の録音媒体もステレオで、右用トラックと左用トラックの2つの録音用トラックを持っており、ステレオ効果を実現しております。

 例えばライブ演奏を録音する場合は、会場後方で右トラック用と左トラック用の2本のマイクで音を拾い、これをそれぞれのトラックに別々に録音します。
 これを2つのスピーカーで再生すれば、会場と全く同じ臨場感が得られるわけで、ギターアンプが右方に位置していれば再生してもちゃんと右方から聴こえてくる等ということになります。


2.電気楽器におけるステレオ

 一般的なステレオという意味は、1で説明したとおりですが、電気楽器においてもステレオ出力というものがあります。

 一般にエフェクターで空間系と呼ばれるもの(ディレイ、リバーブ、コーラス、フランジャー等)は、出力がステレオ仕様となっております。
 すなわち、入力が1つでも出力ジャックが2つに分かれており、それぞれから異なる信号が出力されます。そして、それぞれを別個の2つのアンプに接続し、2つのアンプを左右におけば、空間が広がったような効果が得られます。

 これは”擬似ステレオ効果”とでも言うべきものですが、例えばディレイとは、楽器からの生音が出た後に一定の間隔で、同じ音(リピート音/ディレイ音)が繰り返しながら小さくなっていくという”山彦”効果を作るものです。
 これに対し、擬似ステレオ効果を使用すると、生音が右のアンプから出た後に左のアンプからリピート音が出たり、リピート音が1つずつ右アンプと左アンプから交互に出て、音が左右を飛び交うような効果が得られ、空間が広がったように感じることができます。


3.電気楽器でのステレオ効果の実用性

 もちろん、これは2つのアンプがないと達成できないことですので、MTR等を使用した自宅録音では可能なものの(ただし2つの録音トラックが必要になります)、実際のライブでは2つの同じクラスのアンプをステージ左右に置くのは大変ですし、ギターの音も大部分はPAのスピーカーから出ることになりますので、あまり本来の効果は望めません。(ライブハウスのスタッフもセッティングが面倒なので嫌がります)

 ステレオ仕様のエフェクターでも、片方の出力ジャックだけ(国産では右(R)用出力、海外では左(L)用出力が多い)を使用すればモノラル出力になり、1台のアンプで使用できますから、このようにして使用するのが一般的です。

 自然な空間的効果としては、最後にリバーブをかけてこれをステレオ出力にすれば十分です。ディジタルリバーブというエフェクターは1トラックだけのモノラル録音でも、上記の”擬似ステレオ効果”によって、大きなホールで音を出した時の広がりを持った残響音等を作り出せるものです。
 よって、MTR等では内蔵のリバーブまたは”センド/リターン”間に外付けのリバーブ入れてかけるようにし、ライブ時ではギターアンプではリバーブはかけず、PAのミキサーのほうでリバーブをかけてもらって、PAスピーカーからの出力時点でステレオ効果を得られるようにするというのが実用的です。


 とは言っても、ギターアンプの音にリバーブやディレイのエコー系のエフェクトをかけないというのもきびしいところなので、ディレイをモノラル出力で味付け程度に軽くかけておくということをよく行います。
 エフェクター(単体およびマルチ共に)のリバーブはモノラルで使用すると音がボヤけてしまうので、モノラルならばディレイのほうが好ましいでしょう。(ただし、16ビートのコードカッティング時等はディレイのリピート音が目立ってしまうので、ディレイを外し、アンプのリバーブを軽くかける等すれば良いと思います)


 ちなみに、オーディオやテレビ等の家電の世界でもこれは利用されていて、サラウンドというもの等はディジタルリバーブの一種です。MTRでの録音と同じで、モノラルで録音した音源でも、リバーブ(サラウンド)をかければ、左右方向さらには前後方向にまで音に擬似空間的な効果を与えることができます。