18.ハムバッキングピックアップ


(ポイント)

1.ハムバッキングピックアップは、電磁波等によるノイズ音を小さくするために開発されたピックアップの種類。

2.2つのコイルをそれぞれ逆極性のコイル、および逆極性のマグネット(磁石)のポールピースとし、直列に接続して1対としたもの。

3.2により、ノイズは現象するが、コイルの巻き数の和が増加した結果として、シングルコイルの場合よりも、出力がアップすると共に、高音域が減少し、中音域に寄った太い音質となる。



(解説)
 ハムバッキングピックアップは、高音域がよく出るシングルコイルのピックアップに比較して、中音域主体の太い音質を持ったピックアップとして、その音質の特性だけでとらえがちですが、本来は室内に飛び交う電磁波をピックアップがキャッチしてしまうことによって生ずるノイズを低減させるために、開発されたピックアップの1つの種類です。

 ピックアップは、”磁石によって作られたポールピースが発生させる磁界内を弦が動くことで、その中におかれたコイルに電流が発生するという”、電磁誘導の法則というものによって、弦の振動を電気信号に変換することを行っているものです。(詳細については、その手の書籍を参照してください)

 これを言い換えれば、コイルがおかれている磁界の変化によって、コイルに電流が発生するということになりますが、この磁界の変化は、ポールピースの磁力と弦の動きだけで発生するだけでなく、電気製品等のある部屋内に常に飛び交っている電磁波が変化することでも同様なことになり、コイルに電流が発生してしまいます。
 すなわち、弦をピッキングしなくても、周囲に電気製品があれば、何らかの電流が発生し、それが”ジージー”とか”ブ〜ン”というノイズ音となって、アンプから出てしまうわけです。(テレビやパソコンのブラウン管や、蛍光灯等は非常に大きなノイズ源となります)


 このノイズをできるだけ軽減させるために、1950年代にギブソン社で開発されたピックアップがハムバッキングと呼ばれるピックアップの形式です。(”ハム”とはノイズの意味です)
 ハムバッキングピックアップは、2つの同じ形状のコイルが直列に接続されており、コイル2つ分ということで、その出力レベルもシングルコイルタイプよりも大きなものになりますが(1つ1つのコイルは、通常のシングルコイルよりも小さいので、出力が2倍ということではない)、コイルの極性(プラスとマイナスと考えていただければ良いでしょう)と磁石であるポールピースの上下方向の極性はそれぞれ逆の1組となっております。

 弦の振動を変換した電気信号の極性は(位相)は、コイルの極性とポールピースの磁石の極性によって決まりますので、上記のハムバッキングピックアップの直列に接続した1組を総合したものは、それぞれコイルの極性が逆、磁石の極性が逆ということで、結果として(”逆の逆”ということで)通常どおりで、それぞれのピックアップの出力が足されたもの(2つの出力の和)として最終的に出力されます。
 しかし、空間の電磁波によって生まれるノイズ信号分については、コイルの極性だけでその信号の極性も決まりますので(磁石の磁界の乱れは、弦の動きだけによって発生する)、ノイズ信号の極性は、2つのコイルそれぞれで逆になります。
 極性が逆ということは、位相が逆、すなわち、ある瞬間におけるノイズによる信号はプラスとマイナスが逆ということになりますので、これが足されれば、”プラスマイナス⇒ゼロ”ということで、ノイズ信号は理論的にはゼロとなり、なくなってしまいます。
 実際には、2つのコイルの各種条件は、完全には一致しないので、多少はノイズは残ってしまいますが、それでもシングルコイル(コイルが1つ)の時に比べれば、格段にノイズ(雑音)が小さくなります。

 これに関しては、実際にシングルコイルのギターとハムバッキングのギターをそれぞれボリュームを上げた状態で、蛍光灯や、テレビ画面に近づけてみれば、そのノイズの音量の違いがわかるかと思います。


 一方、ハムバッキングピックアップにおいて、コイルを2つ直列に接続しているということは、2倍とまではいかないまでも、シングルコイルピックアップよりは、総計のコイルの巻き数がかなり増すことになります。
 コイルの巻き数が増すと、コイルのインピーダンスが大きくなり、またコイルの線間容量が大きくなるので、結果として高音域が減少し、全体としては中音域が目立つ太目の音質となってきます。
 これが、シングルコイルとハムバッキングの音質の差となるわけですが、逆に、この音質の差によって、それぞれのピックアップの使用が適したジャンルが設定されてくることにもなります。

 高域が良く出て軽めの音となるシングルコイルは、クリアな音でのコード弾き(コードカッティング)に適し、また軽めの歪みを使うジャンルに適しておりますが、太めの音質で出力が大きく、音を歪ませやすいハムバッキングピックアップは、ハード系のジャンルに適したものになってきます。また、ハムバッキングでは高音域がカットされやすいということで、ピッキングの強弱のアラ等が目立ちにくく、早弾き等でもきれいに聴こえやすいという面もあります。