17.PAについて


(ポイント)

1.PAは、バンド演奏の音をバランスよく会場全体に伝えるための音響システムの総称

2.バンドの各パートの音を一度ミキサーに入れ、バランスをとってから再度PA用アンプとスピーカーで会場に出す

3.演奏者が自分の音および他のパートがよく聴こえるようにするためのモニタースピーカーのシステムも含む


(解説)

 ”PA”は、コンサート(特にロックバンド系)における音響システムのことです。
 とは言っても、もともとPAという言葉自体は、”PUBLIC ADRESS”の略です。”PUBLIC ADRESS”とは日本語に直訳すると”講演会”とか”公聴会”という意味で、このような大会場で行われる行事において、後方にいる人々にもちゃんと公演者の声が届くようにするような音響のシステムという意味で、一種のニックネームとしてPAと呼ばれているわけです。

 よって、本来は”PA用システム”等と呼ぶべきなのですが(英語では、”Public Address System”という名前ともなっています)、ロックバンドの演奏において言えば、バンドの演奏をバランスよく(各パートの音の大きさのバランスという意味です)、かつ本来の音質を維持したまま広い会場のどこででも聴くことができるようにするためのシステムということになります。
 一般には、各パートの音を拾うためのマイク等の機器類、それを入力してバランスをとって出力するためのミキサー、その音を出すためのアンプとスピーカー、これらからなるシステムをひっくるめてPAと呼んでいます。


 では、なぜそのようなものが必要になってくるかをさらに説明します。
 ボーカル、エレキギター、エレキベース、ドラムスという一般的なバンド編成を考えると、基本的にはギターとベースはそれぞれ専用アンプによって、ボーカルはマイクとそれ用のアンプによって、ドラムスは生音で、音を客席に出すということになります。
 小さな会場では、このままでも十分に各パートの音は客席に聴こえますし、また演奏者も自分の音並びに他のパートの音を聴くことができます(スタジオではドラムスが一番大きいですよね)。しかし、会場が大きくなればなるほど、またステージが広くなればなるほど以下のような問題が発生してきます。

1.ドラムスは生音のため、出せる音量に限界がある。またその他のパートもアンプを使用してスピーカーから音を出しているとは言え、音量には限界があり、またボリュームは上げれば上げるほど音に歪みが発生し、音質が低下する。よって、客席の後方までまんべんなく音を聴こえるようにすることが困難になる。

2.ステージが広いと、演奏者自身も他のパートの音が聴こえにくくなるため、客席にバランス良く聴こえるようにするための自分の音量の設定が困難になる。また他のパートが聴こえないと演奏にも支障をきたすことになる。

3.ボーカリストは他のパートの音量が上がるほど、自分の声が聴こえなくなるため、正しい音程の維持ができなくなる。(これは他のパートの者がコーラスをとる場合等も同様)

 このようなことが発生してきますので、大会場ほど、良い演奏を行うことが困難となってくるわけです。
 よって、これらの対策として、各パートの音量をさらに大きくし、また第三者にバンドの音をバランス良くコントロールしてもらうこと等が必要となりますので、PAシステムの出番ということになります。


 PAの原理は、”各パートの音をそれにふさわしい何らかの手段によって拾い、それをミキサーに入力し、音質を整え、かつ各パートの音量のバランスをとった上で、あらためて専用のアンプで増幅し、大出力のスピーカーから客席に出す”というものです。
 また、演奏者が自分の音および他のパートの音もステージ上で良好に聴き取れるように、客席用のスピーカーとは別に、ステージ上に演奏者用のスピーカー(これがモニター(スピーカー)と呼ばれるもので、客席ではなく、演奏者に向けられています)を設け、必要に応じてミキサーから各パートの音を送り返すようにします。

 ちなみに音を拾う方法としては、ボーカルは当然マイクから、ギターはアンプのスピーカーからの音をマイクで、ドラムスは各種タイコからの音をいくつかに分けて数本のマイクで拾いますが、ベースは本体からの出力を直接、またはアンプのプリアンプ出力(ライン出力)を、ダイレクトボックスを経由してミキサーに入力するという方法をとるのが通例です。
 ただし、ギターに関しては、わざわざアンプのスピーカーからの音をマイクで拾うのは、ディストーションをかけた音を空気振動を経由して音ヤセ等がない良い音で拾うためであり、エレアコやクリアーな音ではベースと同様にライン出力からとることが可能です。


 このようなことで、とりあえずはPAシステムを使用すれば、どのような大きな会場でも後方にまで、まんべんなく演奏の音を聴かせることができるようになるわけです。また、このような仕組みは、ライブハウスのような小さい会場でも演奏にはプラスとなりますので、近年ではどんな小さい会場でもPAシステムを使用するようになっております。
 しかし、現実にはPAの性能(操作性や音質)とそれを操作する人間の能力で、音は良くも悪くもなってしまいます。
 理屈的にはPAを使用すれば、ギター/ベースアンプのスピーカーからの音は必要なくなるわけですが、やはり演奏者からすれば自分の使用しているアンプからの直接の音がないと演奏しずらいですし、PAのアンプのスピーカーは各パートの音をそれぞれきっちりと出してくれる性能には欠けるので、全てをPAに頼るわけにはいかないというのが現実となります。
 また、注意すべき点としては、弦楽器の場合、自分の音を正面のモニタースピーカーから大音量で出すと、それが弦を直撃し、フィードバック(ハウリング)が発生しやすくなりますので、やはり背後からの自分のアンプの音は必要になってきます。(もっとも、サイドからのモニター音ならば、ある程度はOKとなります)

 
 特に最近のロック系のコンサート/ライブでは、会場の広さによらず、ひたすら大音量にしてしまうのが通例で、PAの性能が追いついて行かず、聴くに耐えない音質となっている場合が多いです。
 このあたりは、よりいっそうのPA機器の進歩を望み、またPAのスタッフとしての心遣いも欲しいところですね。
 アマチュアバンドでも、こだわり派の方々の場合、自分達のライブでミキサーを扱う人を指定している、なんて場合も多いです。
 
 近頃は、アンプモデリングの発達により、その種の機器を使用して、ギターアンプを使用せず直接PAのミキサーに接続するかたもいるようですが、これもライブハウスのスタッフの方々としては、あまり歓迎していないようですね。