11.インピーダンスとは?
(ポイント)
☆”インピーダンス”とは、エレキギター/エレキベースの出力信号のような”交流信号”が流れる際の”回路全体を総合して考えた抵抗値”のこと
☆信号を伝送する際には、信号の送り側の機器のインピーダンス(出力インピーダンス)と、信号の受け側のインピーダンス(入力インピーダンス)を適正な関係としないと、信号レベルが下がったり、ノイズが増える等、良好な状態で信号を伝送できなくなる。
☆楽器/エフェクター/アンプ等の機器間の信号の伝送においては、送り側のインピーダンスよりも受け側のインピーダンスが十分に大きい値であることが条件。(⇒”送り側の出力インピーダンス<受け側の入力インピーダンス”)
☆アンプにスピーカーを接続する際には、最も効率良く電力伝送を行うために、アンプの出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの値を等しくすることが条件。(⇒”送り側の出力インピーダンス=受け側の入力インピーダンス”)
(解説)
1.インピーダンスの意味と意義
音楽系のその手の文献等を見ると、インピーダンスとは”交流抵抗のこと”とよく書いてあります。
交流の電気信号を流した時における、その電気回路全体の抵抗値を総合した値が”インピーダンス”(単位は一般の抵抗の単位のものと同じΩ(オーム)です)ということになるわけですが、これは、直流の電気信号に対しては、通常は抵抗として働かないコンデンサーやコイルが、交流信号に対しては抵抗のように働き、電圧値や電流値に色々な影響を与えるようになるということから定義されているものです。(ただし、この中で直流信号に対して影響のある部分は、直流信号に対しても抵抗として働くことになります)
いずれにせよ、回路の入力および出力のそれぞれのプラス(信号ライン)とマイナス(アース(グラウンド))の2端子間における回路の素子全体を総合した抵抗値がインピーダンスと考えていただければ良いかと思いますが、これは各種の機器間を接続して、信号レベルの低下や、ノイズの少ない、良好な状態で信号を伝達する際の入出力間の条件として、非常に重要なことになります。
2.電気信号の種類と電気素子の働き
電気楽器は、その名の通り、通常は音波として知覚されるものを電気信号に置き換えて扱うものですが、その電気信号には、時間経過に対して電圧/電流値が一定値である”直流信号”と、電圧/電流値が周期的に変化する”交流信号”があるわけです。
エレキギター/ベース等から出力される電気信号は、弦が一定周期で往復しながら振動する動作より作り出されるため、交流信号となりますが、電気回路の抵抗値(電流の流れやすさと考えていただければ良いでしょう)は、それに流れる電気信号が直流か交流かで異なる値をとります。
回路素子で代表的なものは、抵抗(レジスタ)、コンデンサー(キャパシタ)、コイル(インダクタ)の3つとなりますが、まず、オームの法則(V=I×R)等で有名なように、直流電気信号および交流電気信号に対し、抵抗は信号の伝達を色々と制限する働きを持ちます。
しかし、コンデンサー(キャパシタ)は、直流信号は通過させずに無限大値の抵抗と同じ働きを持ちますが、交流信号に対しては様々な制限を持って通過させ、抵抗と同様な働きを持つことになります。(交流信号の周波数とコンデンサーの容量によって、その値は変わります)
また、コイルは、直流信号に対しては、通常の導線と同じく抵抗値は非常に小さいものですが、交流信号に対しては抵抗の働きを持ちます。
3.入力インピーダンスと出力インピーダンス
電気回路にはこのような回路素子が、それぞれいくつも存在しているわけですが、信号の入力部だけで考えると、入力端子のプラス(⇒信号ライン)とマイナス(⇒アース(グラウンド))の2つの端子だけの間にそれらが総合して入っているような形と見ることができます。
この数々の素子を総合して1つの抵抗のように考えた値を”インピーダンス”と呼んでいるわけで、簡単に言えば”入力部のプラスとマイナスの端子間の電気信号の流れやすさ”と考えていただければ良いかと思います。
この入力部でのインピーダンスを”入力インピーダンス”と呼びますが、これと同様なことは、出力部のプラス/マイナス間でも考えられますので、これを”出力インピーダンス”と呼んでいます。
4.電気信号の伝送における、好ましいインピーダンスの条件
2つの電気機器をケーブル等で接続して電気信号を伝送する場合、送り側の出力部の出力インピーダンスと受け側の入力部の入力インピーダンスの値の関係は重要となります。
この2つの値の関係によって、良好に信号が伝達できることもできるし、また信号のレベルが小さくなってノイズが増えてしまったり、効率の良い伝送ができず機器に多くの電力が必要となる等、色々なことが発生しますので、好ましい関係を保つことが接続の条件、また回路設計の条件となってくるわけです。
詳しい計算式等はここでは省きますが、通常のエフェクターどうしの接続や、エフェクターとアンプ等の接続では、十分な信号レベルを保ち、ノイズをできるだけ少なくするという目的のために、”送り側の出力インピーダンスはできるだけ小さくし”、”受け側の入力インピーダンスはそれよりも十分に大きくする”、または、”送り側の出力インピーダンスよりも受け側の入力インピーダンスを大きくする”ということが条件となります。(⇒電圧伝送の条件)
したがって、このことから、出力インピーダンスはできるだけ小さくする⇒ローインピーダンスが好ましい、という話になってくるわけです。
通常、エフェクターやアンプ等はこの条件で設計されておりますが、通常のエレキギターやベースは、基本的にはコイルであるピックアップがたいへん大きなインピーダンスを持ちますので、出力インピーダンスは大きな値となってしまい、すなわちローインピーダンスではなくハイインピーダンスとなってしまっています。
この状態で、前述した”送り側の出力インピーダンスよりも受け側の入力インピーダンスを大きくする”という条件を守ろうとすると、受け側のエフェクターやアンプの入力インピーダンスをかなり大きな値とすることが必要となりますが、このようにすると機器間を接続しているシールド(ケーブル)に載ってくる(空間を飛んでいる各種電波等によるものです)ノイズを大きくしてしまうことになります。(この詳細については、ここでは省きます)
このあまりよくない状況を改善する方法として現れたものが、楽器内にプリアンプを搭載して、出力インピーダンスを小さいものとできるアクティブピックアップ方式のエレキギター/ベースです。
これを使用すれば、受け側の入力インピーダンスをあまり大きくせずに済みますので、シールドからのノイズによる影響を小さくできるわけです。
5.スピーカー部におけるインピーダンスの条件
さらに、アンプのスピーカー関連の話にも、インピーダンスという言葉は登場します。
厳密に言えば、パワーアンプ部の出力インピーダンスと、これに接続するスピーカのインピーダンスの関係の話しとなりますが、この場合は”電力伝送”ということを考えることになり、基本的にはパワーアンプの出力インピーダンス値とスピーカーのインピーダンス値を同じ値にすることが条件となります。(この条件を守らないと、最悪、出力側の電流を流す能力が追いつかなくなり、回路が壊れてしまうこともあります)
よって、アンプのスピーカーへの出力端子の抵抗値(⇒出力インピーダンス)と、スピーカーのプラスとマイナスの端子間の抵抗値(ギターアンプ用ですと8Ωや16Ωあたりとなり、通常は各機器の端子部に表示されております)の表示値が同じになるように接続すれば良いということです。
とは言え、これに関しては、スイッチ等で抵抗値(インピーダンス値)の表示を切り替える等して合わせるだけですので、通常のエフェクター等のセッティング程度の感覚で行えるものです。
ただし、スピーカーキャビネットを複数同時に接続する時は、それらの合成抵抗(直列または並列接続で)を算出して、それに見合った値で接続することが必要です。(通常は、キャビネットは1台でしょうから、あまり気にすることはないでしょう)