10.アンプの”ハイ(High)/ロー(Low)”インプットジャックの使用法


(ポイント)

 ハイ(High)とロー(Lo)の2種のインプットジャックには、アンプ内でのハイゲイン回路用およびローゲイン回路用の意味である場合と、接続する楽器/機器の出力インピーダンスがハイインピーダンス用およびローインピーダンス用の意味である場合、の2種が存在する。


(ハイ/ローゲインの場合)
 どちらに入力しても良いが、音量およびアンプでの歪みはハイのほうが大きくなり、ローのほうが小さい。(アンプでの歪みを利用する場合はハイ、アンプでの歪みを抑えたい場合はローを選択する)


(ハイ/ローインピーダンスの場合)
 パッシブタイプで、プリアンプ等を内蔵していないギター/ベース(電池を本体に入れる必要がないもの)をアンプに直接接続する場合は、”ハイ(H または High)”に入力する。(ベースアンプではpassiveの表示のものもあり)


 アクティブタイプで、プリアンプ内蔵のギター/ベース(電池を本体に入れる必要があるもの)をアンプに直接接続する場合、またはパッシブタイプでもエフェクターを経由してアンプに接続する場合は、”ロー(L または Low)”に入力する。(ベースアンプではactiveの表示のものもあり)



(解説)

 ギター/ベースアンプのインプットのハイ/ロー(High/Low)は、実はアンプによって次の2つの意味があります。

@アンプ内部において、ハイゲイン/ローゲインとなるという意味

A接続する機器の出力インピーダンスが、”ハイインピーダンス用/ローインピーダンス用”という意味


 @は昔のアンプ、または古い設計のままのアンプによくあるもので、文字通りアンプ内の回路での入力信号が大/小2種のレベルに増幅されるというものです。接続する楽器の出力信号レベルに合わせて、またはより最大音量を上げたいとか、歪みを増したい時に選択できるものです。しかし実用性から考えてあまり意味が無くなったため、最近のアンプでは、あまりこの形式はありません。 (昔のマーシャルやローランドのJCはこの形式です。GAINボリュームの無いアンプの場合は、このタイプと考えて良いでしょう。)
 この形式においては、ハイ/ローどちらに入力しても良いのですが、とりあえずは、ハイゲインでの不必要な歪み等を避けるため、ローインプットに入力するのが安全かと思います。(もちろん、アンプでの歪みを利用する場合は、ハイということになります。)
 
 これに対し、近年設計のアンプはA、特にベースアンプの場合はほとんどAと考えてよいと思います。

 よって、これ以降のことは、Aの場合の解説になりますが、出力インピーダンスとは、電気回路において、主に交流信号に関係する”回路の総合的な抵抗値”のことです。内部抵抗とも言われますが、詳細の説明は11項で述べますので、ここでは省略するとして、これの値の相違によりどのようなことが発生するかだけ書いておきます。


 インピーダンスには、機器の信号出力部から内部の回路を見た(見返した)場合の”出力インピーダンス”と、機器の信号入力部から内部の回路を見た場合の”入力インピーダンス”の2つが定義されます。

 電気機器を接続する場合は、1つ目の機器(信号の送り側)の出力ジャックと2つ目の機器(信号の受け側)の入力ジャックをケーブルで接続するわけですが、これはギター/ベースとアンプの接続も同様です。
 上述したことから、ギター/ベースの出力部には出力インピーダンス、アンプの入力部には入力インピーダンスが定義できますが、この2つのインピーダンスの値は、正しい値の組み合わせで接続しないと信号レベルが下がり、回路に存在する雑音(ノイズ)が増してしまうことになります。

 さて、ノイズをできるだけ小さくするための接続のポイントとは、”受け側の入力インピーダンスの値は送り側の出力インピーダンスの値以上の大きさとする”ということです。しかし、この値をあまり大きくし過ぎても、シールド等から来るノイズ(空間中の電磁波等の影響です)が、かえって増えてしまいますので、適度な値とすることが必要です。

 実は、パッシブピックアップのギター/ベースは、出力インピーダンスがたいへん大きいので、アンプの入力インピーダンスをそれより大きくする必要があるのですが、それではシールドからのノイズが大きく出てしまうという、大きな欠点があります。
 そこで開発されたものが、アクティブピックアップ方式です。
 エレキギター/ベースの出力インピーダンスを大きくしている元凶はピックアップのコイルのインピーダンスがたいへん大きいということです。コイルのインピーダンスはコイルの巻き数に比例しますので、巻き数を下げれば楽器自体の出力インピーダンスも下げられて良いわけですが、これではピックアップの出力信号レベルが低下してしまい(出力信号レベルもコイルの巻き数に比例します)、結局ノイズに対して弱くなってしまいます。
 よって、これを防ぐために、楽器本体に電気回路(プリアンプ)を設け、出力信号レベルを十分なレベルまで上げるようにします。これならばアンプの入力インピーダンスをそれより小さくならない範囲で、従来より下げられますから、シールドからのノイズの影響も下げることができます。


 このようなことで、アンプのインプットにはパッシブタイプの楽器とアクティブタイプの楽器それぞれに対応した”High/Low”2つのジャックが設けられているわけで、Highジャックの入力インピーダンスは大きく、Lowジャックは小さくなっています。
 また、エフェクターを使用すれば、自動的に出力インピーダンスは小さくなりますから、パッシブピックアップのものでもLowインプットジャックに入れれば良いわけです。

 あと、この接続の組み合わせを間違えた場合どのようになるかと言うと、前述したことからもわかるように、いずれの場合も本来よりノイズが増すと考えていただければ良いでしょう。パッシブのものをLowインプットに接続すると、信号レベルが本来より下がり、回路内のノイズが増します。反対にアクティブのものをHighインプットに接続すると、信号レベルはより上がりますが、シールドからのノイズも大きくなってしまいます。
 ちなみにBOSS等のボリュームペダルにも、これと同じ理由で、High用とLow用の2種が用意されています。通常は、ボリュームペダルはエフェクターの後(またはアンプのセンド⇒リターン間)に接続しますから、パッシブのギター/ベースでもLow用を使用することになるでしょう。もちろんギターから直結する時には専用のものを使用してください。

 もう1つ書いておくと、通常のエフェクターの入力インピーダンス値はギターを直結することを考えて、大きな値に設定されています。よって、複数をつなげて使用する場合は、実は、シールド等のノイズを増やす結果になってしまっています。 一番最初のギター/ベースに直結するものだけの入力インピーダンスが大きければ良いのですが、アクティブのものならば、それも小さい値で良いわけです。(マルチエフェクターでも同様です) これは、多くの機器では抵抗を1本取り替えれば改善できますし、または最初から入力インピーダンスが2種の切り替え方式等にしてくれれば助かるのですが、製品コストの問題もあり、メーカー側としてはなかなか難しいところなのでしょう。



 最後にもう1度ポイントをまとめておくと、

・機器内部回路からのノイズの影響を小さくするため、送り側の機器の出力インピーダンスより、受け側の入力インピーダンスは大きくする必要がある。

・シールド等からのノイズの影響を小さくするためには、受け側の入力インピーダンスは小さいほうが良い

・パッシブピックアップ及び回路のギター/ベースの出力インピーダンスは大きい

・アクティブピックアップ及び回路のギター/ベース、およびエフェクターの出力インピーダンスは小さい

 このことから、

・パッシブピックアップ及び回路のベース(電池をベース本体に入れる必要がないもの)をアンプに直接接続するときは、”High”に接続する

・アクティブピックアップ及び回路のベース(電池をベース本体に入れる必要があるもの)をアンプに直接接続する、またはパッシブタイプでもエフェクターを経由してアンプに接続するときは、”Low”に接続する


 ということになります。